インターネットと管轄政策ネットワーク・第3回国際会議に出席

2019年6月3日から5日にかけて、ドイツ・ベルリンの「Gasometer Schöneberg」にて、インターネットと管轄政策ネットワーク・第3回国際会議(3rd Global Conference of the Internet & Jurisdiction Policy Network)が開催されました。政策企画の望月(以下、筆者)が、インターネットガバナンスフォーラム・マルチステークホルダー諮問グループ(IGF/MAG)の委員として出席してきましたので、ご紹介します。

f:id:merpoli:20190619185911p:plain

 

インターネットと国家の緊張関係

インターネットと管轄政策ネットワーク(Internet & Jurisdiction Policy Network)とは、インターネットの越境的性質と国家管轄権との緊張関係を取り扱うもので、国境を越える協力を可能とするようなマルチステークホルダー・プロセスを推進する非営利中立団体です。2012年に設立され、事務局はフランスのパリに所在しています。さまざまな政府や国際機関、企業等から資金的支援を受けて活動を行っています。MAG委員の間では、「IGFからスピンアウトした活動」と言われています。 

これまで、2016年にフランス、2018年にカナダと2度にわたり国際会議が開催されてきていますが、第2回カナダ会合では「オタワロードマップ」が採択、①データと管轄ワーキンググループ、②コンテントと管轄ワーキンググループ、③ドメインと管轄ワーキンググループの3つのワーキンググループが立ち上げられました。その後、ワーキンググループ毎にコンタクトグループが設置、コンタクトグループのコーディネーターを中心にメンバー間で議論が進められてきました。その結果、それぞれのコンタクトグループで「オペレーショナル・アプローチ(Operational Approaches)」が取りまとめられ、2019年の第3回ドイツ会合で議論されることとなりました。

 

インターネットと管轄政策ネットワーク・第3回国際会議

6月3日、1日目の会合は、オープニングセッション、「Global Status Report 2019: Key Findings」の発表、パネルディスカッション、そして「オペレーショナル・アプローチ」の説明等が行われました。

6月4日、2日目の会合では、3つのプログラム、すなわち、①データと管轄プログラム、②コンテントと管轄プログラム、③ドメインと管轄プログラム毎に、「オペレーショナル・アプローチ」の中身について、ブレイクアウトセッション形式で議論が行われました。その際、第3回ドイツ会合の結果設置されるワーキンググループA(主体間のインターオペラビリティ)およびワーキンググループB(規範間のインターオペラビリティ)で検討する項目に焦点を当てて、さまざまな議論が行われました。

6月5日、3日目の会合では、2日目の会合の成果および「ベルリンロードマップ」について発表が行われた後、今後の方向性についてパネルディスカッションが実施、最後にクロージングセッションが行われました。

f:id:merpoli:20190619190003p:plain

 

日本の先を行く電子証拠への越境アクセス問題に関する議論

筆者は、3つのプログラムのうち、データと管轄プログラムの検討作業に参加しました。同プログラムのテーマは「電子証拠への越境アクセス」。管轄権外のクラウドに保存されているユーザー情報や電子証拠へのアクセスを捜査機関が求めるケースが増加している一方、伝統的な刑事共助条約(MLATs)には複数の課題がある中で、明確な協力枠組みの欠如がデータローカライゼーション措置を助長してしまっているとして、法的不確実性の解消、並びにプライバシーとデュー・プロセスを尊重した政策的基準の策定を目的としたものがこのプログラムです。

f:id:merpoli:20190619190057j:plain

筆者は、2018年3月の米国CLOUD法成立前後から、捜査機関による電子証拠への越境アクセスの問題についてフォローしてきていますが、本プログラムのブレイクアウトセッションに参加し、また米国CLOUD法の成立に深く関わったとされるジョージア工科大学シェラー・カレッジ・オブ・ビジネスのPeter Swire教授や他の専門家との議論を通じ、国際的な議論が日本のはるか先を行っていることを痛感しました。

f:id:merpoli:20190619190132p:plain
日本では、2018年4月に提出された刑事事件における電子証拠の取扱いに関するEU規則案や関連する法定代理人設置に係るEU指令案の最新動向、そしてサイバー犯罪条約(いわゆる「ブダペスト条約」)第二追加議定書交渉の最新動向はおろか、1年以上前に成立し日本企業にも影響を及ぼしうる米国CLOUD法でさえあまり光が当たっていない状況です。

最近になって、筆者のコメントも掲載いただいている日本経済新聞の記事「米クラウド法で情報開示要求 日本企業、板挟みの恐れ」が出ましたが、捜査機関による電子証拠への越境アクセスの問題について、多くの人が未だフォローできていないのではないでしょうか。

捜査機関による電子証拠への越境アクセスの問題は、政府のみならず、民間事業者や個人にも大きな影響を及ぼすものです。日本における議論が活発化し、国際的な議論にこれ以上乗り遅れないことを期待しつつ、筆者は上記で述べたインターネットと管轄政策ネットワーク・データと管轄プログラムの活動に参画し、本問題に関する国際的な議論をフォローするとともに国内にフィードバックしていきたいと考えています。

f:id:merpoli:20190619190216p:plain

 

日本の参加者の少なさに対する危機感

なお、筆者は昨今のデジタル分野の国際的なルールメイキングを目の当たりにし、とりわけ日本の民間事業者による国際的な動向のフォローや議論への参画が非常に薄く、その状況が一向に変わらないことに懸念しています。世界に名だたるグローバル企業のほとんどが、さまざまな官民関係者が参加するマルチステークホルダーフォーラムを活用し、日々国際的なルールメイキングにつなげるべく努力を続けています。その理由は、自社が敷いたルールの上で他社と競争を行った方が明らかに有利だからです。

このインターネットと管轄政策ネットワークは、前述のように、もともとは意思決定が行われないIGFからスピンアウトしたものと言われています。しかし、その検討の内容はかなり具体的かつ詳細で、今後の国際的なルールメイキングに堪えうる、また実際につながっていく可能性を秘めています。無論、法的拘束力を有する国際的なルールメイキングにつながれば、それに参加する限りにおいて、国も、企業も、そして個人も従わなければならないことになります。「意思決定が行われないから参加しても意味がない」のではなく、意思決定が行われる前の段階・素地を整える段階で積極的に議論に参画していくこと、そしてあわよくば議論をリードしていくことが必要なのです。そしてそのことが、長期的には自国や自社、そして自分にとってより大きな利益をもたらす可能性があるのです。

この点、6月3日午後の全体会合には、日本の経済産業省が登壇、今年のG20議長国として、データの自由な流通とそれを実現するための信頼(Trust)が重要であり、そしてそのためのルールメイキングをマルチステークホルダーの国際会議で行っていくことが重要である発言されていました。日本の民間事業者は、こうした日本政府の取り組みをサポートしていくべきですし、官民一体となって、データフリーフローウィズトラスト(信頼性のある自由なデータ流通)を国際的に推進していく必要があるでしょう。

日本が全体として短期的な利益の追求に終始してしまうのではなく、長期的なビジョンを定めて持続可能な成長を続けられるように、私たち全員が考え方を変えていく必要があります。

(望月 健太)

 

Twitter:

 

Facebook: