【岐阜市長インタビュー後編】最先端とつながる都市だと若者たちに発信したい

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『岐阜市長インタビュー前編 岐阜市はなぜメルカリに職員を派遣研修させたのか』の後編です。

 

職員が直接やらなければならない仕事に職員をより集中させていく必要がある

高橋> 市長のお話を聞いていると、岐阜市はすごく良い方向に変わって行きそうだなとか、岐阜市から新しい自治体のモデルが出来て行きそうだなと感じます。

市長は、「未来の市役所はこうなる」、「これからの自治体はこうなる」といった意識されていることってあるんでしょうか。

 

柴橋市長> これからの時代は完全にスマート自治体にならざるを得ないと思っています。職員の人数などマンパワーも限られ、財源も限られています。一方で、人口は減ったとしても、市民の皆さんのニーズや課題は複雑化・多様化し増えていきます。それにどうアウトカムや成果を上げながら、限られた資源で対応していくかというところを考えると、役割や分担を明確化するということが大切になります。

AIチャットボットの実証実験もやろうとしています。例えば「住民票ってどうやって取ったらいいんですか」という問い合わせがあった時に、誰が答えてもほぼ同じ答えが返せるものです。電話でお答えする時間は、誤解を恐れず言うともったいない。誰がお答えしても同じ答えを市民の方にお答えできるなら、それは定形のものにして、逆に市民の方にとって重い課題や悩みに対しての相談ということだとか、まさに政策の企画立案というところであったりという人でなければ出来ない部分に人員を強化したいと思っています。

先程のプラットフォームビルダーを創っていくということについても集中的に職員を配置したいなと思っています。スマート自治体はこれから一直線に目指して行かなければならないものだと思っています。


これからの時代は、行政職員の仕事や求められる能力も大きく変わる

高橋> これからの自治体や公共の役割というのは大きく変わってきますよね。

 

柴橋市長> 変わってくると思いますし、職員としても求められる能力、とくに思考、考え方が変わってくると思っています。例えば今、岐阜市もSDGs未来都市に選定されるように目指しています。その中で、環境問題について、今までやったことのない新しいものにチャレンジしていこう、あるいは実証実験をやってみようとなった時に、「それはいいですね!世の中の社会課題を解決するためにやりましょう!」と考える職員と、「市長、そうは言いますが、今までそんなことをやったことはありませんし…大変ですし…」と後ろに引いてしまう職員との2つに分かれます。そこは話をしていてもすぐ分かります。

今やはり求められる職員は、切り拓く方じゃないですか。これだけ社会問題が多様化していて、市民の方も色んなことにご苦労されている人がいる中で、我々の問題解決能力、社会課題解決能力がとても求められています。一方で従来の手法では無理なことも多くあります。既存の法律で決まった国から与えられた社会福祉サービスを提供しているだけでは、現実社会では全ての問題の解決にはなっていなかったりすることもあります。法律の中で言われたことをずっとやり続けますというパターンでは、これからの自治体運営は難しいんじゃないかと思うのです。

こうした時代においては、切り拓いていける、あるいは法律じゃないところで市として何ができるか、それは民間の方々を引き込んで何ができるかとか、市民協働でどうやるかとか、ということを考えられる人材が必要だと思います。

 

高橋> 勿論、役所の中でもマインドを変えるための研修や体験をさせたり、評価基準を変えたりなど色々とやられているのだと思いますが、それだけでは出来ない部分を民間に入って体験してきてもらうということになるんですね。

 

柴橋市長> 問題解決、社会課題の解決をどうしていくかということをまず考える、その上で実際にアクションを起こしていくきっかけをメルカリさんの中で得させてもらえると、それはとてもありがたいと思います。

 

高橋> 一方で役所としては、そういう民間経験をした人でないと上に上がっていけないという形になってしまうと、それはそれでおかしくなってしまいますよね。今回の派遣研修の経験をして帰ってきた職員は評価する一方で、プロパーで活躍する職員についてもいい部分を評価していく必要があるでしょうね。そのためにも、外に出た経験のない職員に対しても擬似的に体験やマインドチェンジの経験をさせる機会を創っていくことも大事になりますね。

 

柴橋市長> 基礎自治体の土台となるのは、日々の丁寧な一つ一つの住民サービスになります。そこは絶対におろそかにしてはいけません。住民票を1枚発行することもそうですし、ひとり親家庭で困られている方にこども支援課で適切なアドバイスをさせていただくこともそう、生涯学習のこともそうです。これは職員一人ひとりがしっかりやることです。こうしたことは当たり前の前提とした上で、この延長線上ではこれからの激しい人口減少社会を乗り越えていけないので、行政としてどんな発想を持ってやっていくかが大事になってきます。これからの自治体現場の中でリーダーになる人材というのはそこまでも求められるのではないかと思います。

役所の中でも、ずっと実務をコツコツやるのが好きという職員もいれば、管理職になって具体的な役割の中で、例えば次の世代を育成していくことが得意だとか、専門職でその分野でとことん突き抜けてやっていくんだという職員もいます。みんなそれぞれが得意分野の中でやってくれればと思っています。

 

高橋> とくに、メルカリも含めて民間に派遣されるような職員というのは、将来のリーダーになっていくとか、戻って来た時に役所内に他の職員に対する影響力与えてくれるといったそういうことも期待されているのでしょうか。

 

柴橋市長> プラットフォームビルダーになるということは、民間との関係も増えてきます。企業との交渉もしなければいけないですし、勿論、地域の自治会の方ともそうだし、教育機関との交渉などもあるでしょう。海外との交渉なども含めて、色々なことがますます増えてくるんだと思うんです。これまでだったら公共を行政の中だけで完結出来ていたものが、公共セクターではないところと一緒に、文化も考え方も思考も違う人達ときちっと合意をして、協力体制や連携を取れるか、相手が言っていることが一体何なのかということもよく理解してできているか、とういうような能力がリーダーには当然求められる資質だと思います。

 

外からブレーンを連れて来るより、まずは中の職員の意識を変えていきたい

高橋> 一方で、市長は外からあまり人材を呼んでくるということはされていませんよね。自治体によっては、新しい首長がブレーンを大量に役所に連れてくるという例もありますが、そこは市長のこだわりなのでしょうか。

 

柴橋市長> 外からのブレーンは入れてないですね。自分が市長になって1年半ですが、市長が新しくなったことで、外からのブレーンを大量に連れてくれば、最初から現場も警戒しますし、拒否反応も出てしまいます。最初はまず自分が中に入って、職員ともコミュニケーションを深めながら、色んなことを自分自身も吸収しながらやっていくことが大事だと思っています。

 

高橋> 外の風土や思考は役所内に入れなければならないけれども、中の人がそうなることが大事ということでしょうか。

 

柴橋市長> そうです。それが一番の理想です。そのため、包括協定などを結ぶことで、外の力である経験やノウハウや民間の色々なネットワークなんかもお借りします。一方で我々は行政としての信用力であったり、行政は行政で蓄積してきたいいものも沢山あるので、民間にとってもそれは有益だということでwin-winな関係にしようと思っています。

 

高橋> 外に派遣された職員は、外のものを持ってくるけれども、その人が外の人になってしまっては、外の人を入れるのと同じになってしまうので、役所の中の人が外の力をつけて帰ってくるというところに意味があったりとか、その人は元々役所の中にいた人だからこそ戻った時に庁内における波及でしたりとか、その辺を期待されているっていうことですよね。

 

柴橋市長> 行政には行政の仕組みがあるので、行政の舞台回しがきちっと分かった上で、民間の思考や手法も分かって、行政に投入してもらわなければなりません。例えば、行政の仕組みが分からないで民間から来た場合には、行政の舞台が回せずに、誰もついてこないということになりかねません。ストライクではないボールを投げ続けてしまったりとか。やはり行政と民間の両方が分かっているということがとても大事かなと思います。

 

岐阜市は日本の最先端とつながっている都市であると若者たちに発信したい

高橋> 最後に、今回の職員派遣に限らず、これからの時代において、岐阜市だからこそ意識しなければいけないとか、柴橋市長だからこうして行きたいというようなことってありますでしょうか。

 

柴橋市長> 岐阜市というのは県庁所在地で41万人口という、ある種地方の典型的な都市だと思っています。とくに県庁所在地で地域で一番人口が多いというのは、これからはとても重要で、この都市が力を落とすと、結果的に県全体が力を落とすということにつながってしまう可能性があります。そう考えた際に、岐阜市が抱える人口減少に伴う様々な課題というものを民間の力も借りながら、地域の力も借りながら、しっかりと解決していく必要があると思っています。

一方で、岐阜市の成功は、相当波及効果は大きいなとも思っています。中核市長会などに行っても話すことですが、これからの時代は、どう若い人たちを巻き込んで行けるかが地方都市にとっては重要になってきます。メルカリさんとの関係もその辺りをすごく意識していて、誰に対してそのメッセージを発しているかと言うと、これは明確に若い世代、メルカリが分かる世代に発信したいと思っていたりします。岐阜県内で言うと、岐阜市に人が集まる。でも岐阜市の若い人材は名古屋に行く。でも名古屋の若い人たちは東京に転出超過。全国でこのようなことが同じようなパターンで起こっています。自分たちが住んでいるこの地方都市で、今までは残念ながら中心市街地が衰退してきてしまっているとか、色んなネガティブなことが起こっていると言われてきました。地方都市としての岐阜市がメルカリとも一緒にパートナーを組んでやっているとか、海外のホストタウンとも積極的に色々な取り組みをやっているのも、地方都市でも東京にも全く引けを取らないで、世界とも繋がれるし、最先端を走っている企業とも繋がれるし、そこで一緒に岐阜で社会問題の解決にも挑める。そこと一緒に仕事をする機会もあるよということを若い人たちに感じてもらいたいと思っています。

今までは残念ながらこうしたことがあまりありませんでした。ただこういうことを続けて行けば、「それなら岐阜にずっと留まって活躍していこう」とか、兼業副業とかも積極的に行い、リニアで1時間で東京にも行けるようにもなるので、東京に行って活躍しましたという方が40代になって、故郷をベースに必要な時は東京に行って、そうでない時は家族と暮らす。ホームは岐阜にあるという生活もできるようになります。こうした考え方がもっともっと広がってきて欲しいと、実は常に意識をしています。だから日本の最先端と岐阜市というのはつながっているんだ、東京に行かなければ得られないものばかりじゃないんだということを感じてもらいたいなと思っています。

 

高橋> そういう地方都市ができれば、日本の他の地方都市にとっても励みになると思いますし、モデルになると思います。そのためにも、今回の主題だった岐阜市からメルカリに派遣研修に来ている職員にも、若くして東京でも活躍して、だけど岐阜に戻って岐阜を変えて行こうとしているというモデルになってもらえればと思います。我々も包括連携協定を結ばせてももらっていますし、市長の考える新しい地方都市モデルに岐阜市がなれるようお手伝いしていければなと思いました。是非、頑張ってください。今日はありがとうございました。

(高橋 亮平)

 

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柴橋 正直(Masanao Shibahashi)

岐阜市長(第21代 1期)。1979年京都市生まれ。元 衆議院議員(1期)。大阪大学文学部人文学科卒業後、UFJ銀行入行。2009年、第45回衆議院議員総選挙で初当選。2018年に行われた岐阜市長選で初当選。趣味はマラソン、バレーボールなど軽スポーツを通じて人と交流すること。息子と娘を風呂に入れること。座右の銘は「無私の志」。妻、二男一女の5人家族。

 

インタビュアー:高橋亮平(Ryohey Takahashi)

メルカリ社長室政策企画参事 兼 merpoli編集長。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。一般社団法人日本政治教育センター代表理事、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房客員研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。

 

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