経団連スタートアップ政策TFがDX推進を含むスタートアップ支援策を提言

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merpoli(メルポリ)」でも以前、『経団連に「スタートアップ政策タスクフォース」が誕生』として紹介しましたが、昨年から経団連内にスタートアップ委員会とスタートアップ政策タスクフォース(以下、スタートアップ政策TF)が設置され、メルカリも委員として活動しています。

今回、スタートアップ政策TFで、『新型コロナウイルス感染拡大に伴うスタートアップ支援策を求める』と題した提言を発表しましたので紹介します。新型コロナウイルスの感染拡大が、業態を問わず、多くの企業活動に影響を及ぼしている中で、経済の先行き不透明感から、市場は新たな投資に慎重な姿勢を見せており、スタートアップなどの資金調達にも大きな影響を与えています。政府は、新型コロナウイルス感染症への緊急対応策として、事業者向けの金融支援策などを発表していますが、現時点でスタートアップに特化した支援策は存在しません。

そのため、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うスタートアップの経営への影響を把握し、適切な支援を行うために、意見交換会を実施しようと、4月27日、スタートアップ政策TFが開催されました。

このTFは、オンライン会議で実施され、リスクマネーはこれまでも景気の影響を強く受けてきたが今回も大きな影響を受けていること、資金面の政府の支援は中小企業に集中している一方で、多くのベンチャー企業が該当しないこと、一方でフランスやドイツといった欧州諸国や台湾などにおいては積極的なスタートアップ支援策が行われていることなど、日本のスタートアップ企業が抱える現状の課題について意見交換しました。

筆者も委員として参加し、メルカリとして、捺印・署名の電子化や株主総会のオンライン化など、デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進の必要性を求めるとともに、こうしたスタートアップ政策TFでの議論を経団連として提言にまとめて発信していくことを提案しました。

この日の委員による意見交換などを元に、この度、経団連スタートアップ政策TFでの提言がまとめられ、提言内にメルカリの主張した「オンライン化の推進」として「手続きの完全オンライン化の推進」、「株主総会におけるオンラインの活用」を加えていただきました。


(3)オンライン化の推進

  ① 手続きの完全オンライン化の推進

 新型コロナウイルス感染症対策として、政府はテレワークの推進を掲げているが、行政手続き書類や契約などの民間取引用書類への押印のために出社を余儀なくされるケースも未だ多く存在している。

行政手続きおよび民間取引における押印や紙の書類提出慣行を見直し、システム導入に対する補助金の創設やガイドライン(指針)の策定等により、電子署名や電子契約を利用した手続きの完全オンライン化を促進すべきである。


  ② 株主総会におけるオンラインの活用

 取締役や株主が一堂に会する形で開催する従来型の株主総会は、新型コロナウイルス感染予防の観点からリスクが高い。経済産業省と法務省が公表した「株主総会運営に係る Q&A」(4月28日最終更新)では、現状、 株主の来場しない株主総会は許容されており、また、改正法務省令(5月15日)では単体計算書類等のWEB開示が認められた。これらといわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会(株主総会のライブ配信を含む)の手法を組み合わせるならば、バーチャルオンリー型に近い運営とすることも可能であることから、先ずはこれらの方策の積極的な活用を図るべきである。

その上で、新型コロナウイルスの完全な終息までの期間が長期にわたることを考えると、次年度以降も同様の手法が取れるようにするとともに、バーチャルオンリー型株主総会の実現可能性を法整備含め検討するなど、非常事態におけるリスクの軽減や企業負担の少ない形で株主総会を実施する仕組みを促進すべきである。

 

メルカリの進める電子署名による契約締結推進等の取り組みについては、merpoliにも記事を書いているので、合わせてお読みいただければと思います。

また、捺印の電子化については、経団連の中西宏明会長も記者会見で「ハンコ(に頼る文化)はまったくナンセンスだと思う」「私は海外生活も長かったのですべて署名でいい」「電子署名でもいい」とし、企業や行政のやり取りをデジタル化するよう発言したと報道されているほか、経団連は、5月11日にデジタル・トランスフォーメーション(DX)についても『Digital Transformation (DX) ~価値の協創で未来をひらく~』とした提言も出しています。

捺印・署名の電子化については、IT企業やスタートアップ企業だけが導入するだけでは改善されない部分も多く、経団連企業はじめ幅広い企業の皆さんが実践して価値が生まれてくるものでもあります。

メルカリ政策企画では、引き続き、捺印・署名の電子化をはじめとした、さらなるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現に向けて、各所への働きかけを続けていきたいと思います。

(高橋 亮平)

 


          新型コロナウイルス感染拡大に伴うスタートアップ支援策を求める


                     2020年5月19日

                     一般社団法人 日本経済団体連合会

                     スタートアップ委員会 スタートアップ政策タスクフォース


1. はじめに

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、業態を問わず、企業活動に多大な影響を及ぼしている。近年、スタートアップへの投資を牽引してきた大企業も、本業の業績悪化を理由に大幅に投資を控えることが予測されており、予期せぬ資金調達環境の悪化により、本来成長余地のあったスタートアップが苦境に立たさ れている。

 一方で、すでに発表されている政府の中小企業者向け支援策は、スタートアップの経営環境や特性から利用できないケースも散見される。

(参考)スタートアップへの新型コロナウィルス感染症の影響調査(トーマツべンチャーサポート実施)(350 社回答)

  • 40%超のスタートアップが半年以内に資金ショートが懸念される状態
  • 資金繰り支援策を利用しないスタートアップの約60%が「利用要件に当てはまらない」と回答

 Society 5.0(創造社会)の実現に向け、その担い手として期待されるスタートアップの成長を阻害することのないよう、他国の支援策※1 に引けを取らない数千億円規模のスタートアップに照準を当てた支援策が必要である。

 こうした状況に鑑み、政府および既存企業を含む経済界全体に求められる具体的な支援策を、以下の通り提言する。



2. スタートアップ支援策について 

(1)資金繰り支援

  ① スタートアップ向け資金繰り策の新設

 スタートアップの多くは、新型コロナウイルス感染症の売上の減少や資金調達の凍結・減額などにより、資金が不足する状態にある。一方で、政府の資金繰り支援策の多くは、対象を「中小企業者」としており、資本金額および従業員数の上限が定められている※2。近年スタートアップの市場環境が好調であったこともあり、中小企業者の定義に該当せず、支援策を受けることができないスタートアップも存在する。これらのスタートアップが利用できるような、中小企業向けとは異なる要件の資金繰り支援策を求める。とりわけ新型コロナウイルス感染症の影響が大きい観光業、飲食業、エンターテイメント業については、速やかな手当てが必要である。


  ② 研究開発型スタートアップなどへの支援拡充

 政府の中小企業者向け資金繰り支援策の多くは、前年度比での売上減少を要件としている。収益が顕在化するまでに時間を要する研究開発型スタ ートアップや設立後間もないスタートアップは、そもそも売上が立っていない、または売上成長はしているものの多額の研究開発費用に見合うだけの成長を実現できていない事例がある。このような事例は資金繰り支援策の要件に該当せず、支援を受けられていない。エクイティ・ファイナンスは調達までに時間がかかることから、緊急避難的な資金調達方法として、 現状の資金繰り支援策のニーズは高い。このことから、資金繰り支援策の要件を緩和し、一定の事業規模の要件を満たした場合に限り、売上減少の代替として成果指標の下振れを支援策の要件として認めることを求める。


  ③ 柔軟な資金提供の枠組みづくり

 スタートアップが銀行から融資を受ける場合、一般的に法定代表者に対する連帯保証を求められる。しかし、法定代表者が返済義務を負ったとしても、融資金額は個人の返済可能額を超える場合も多く、現実的に十分な返済機能を果たす可能性は低い。代表者連帯保証に過度に依存するのでなく、高い金利や新株予約権、資本性ローンなどと組み合わせて、様々な選択肢を設け、スタートアップの経営状況に応じた柔軟な資金提供の枠組みが提供されることを望む。また、運用面でスピード感をもって対応できるように、窓口での処理が後回しにされたりすることのないよう、簡素な要件や具体的なKPIなどの設定を望む。


  ④ 官民ファンドによる支援

 民間のベンチャーキャピタルには新型コロナウィルス感染症の影響下にあっても有望なスタートアップを支援しようとする動きがあるため、こうした取り組みを後押しするべく、官民ファンドによるスタートアップへの直接投資のほか、スタートアップを救済するベンチャーキャピタルへの出資を望む。



(2)雇用確保 

  ① 出向の促進

 新型コロナウイルス感染症に伴い需要が低下した事業分野の企業に対しては、政府の雇用調整助成金により雇用維持を支えるとともに、当該企業から他の企業への在籍出向を促進し、日本全体で雇用調整を行うことを検討すべきである。特に、新型コロナウィルス災禍前は成長分野であったものの、外出自粛に伴う消費減少により業績の悪化懸念が高い観光、飲食、エンターテイメント分野のスタートアップから、他の分野のスタートアップや既存企業が人材の出向を引き受けることが求められる。


  ② 採用関連費用助成金の支給または税制優遇措置

 スタートアップは、ウィズコロナや、アフターコロナの世界において、 社会課題の解決につながる革新的なサービスや製品を提供できる可能性を有している。そういった成長可能性のある企業を優先的に支援する仕組みも必要である。

 例えば、雇用吸収力の高い企業への採用関連費用の助成または税制の優遇措置である。この状況下でも成長可能性がある企業は、積極的に採用を行い、雇用を拡大している。一方、採用には求人媒体への広告や説明会実施費用などコストが発生するため、成長可能性のある企業がより多くのコストを負担することになる。雇用促進と企業の成長支援のため、採用関連費用に対する助成金の支給や税制の優遇措置を行うべきである。なお、本助成金や税制優遇措置は、成長可能性のある企業が利用できるよう、資金繰り支援の適用要件とは異なる要件とすべきである。



(3)オンライン化の推進

  ① 手続きの完全オンライン化の推進

 新型コロナウイルス感染症対策として、政府はテレワークの推進を掲げているが、行政手続き書類や契約などの民間取引用書類への押印のために出社を余儀なくされるケースも未だ多く存在している。

行政手続きおよび民間取引における押印や紙の書類提出慣行を見直し、システム導入に対する補助金の創設やガイドライン(指針)の策定等により、電子署名や電子契約を利用した手続きの完全オンライン化を促進すべきである。


  ② 株主総会におけるオンラインの活用

 取締役や株主が一堂に会する形で開催する従来型の株主総会は、新型コロナウイルス感染予防の観点からリスクが高い。経済産業省と法務省が公表した「株主総会運営に係る Q&A」(4月28日最終更新)では、現状、 株主の来場しない株主総会は許容されており、また、改正法務省令(5月15日)では単体計算書類等のWEB開示が認められた。これらといわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会(株主総会のライブ配信を含む)の手法を組み合わせるならば、バーチャルオンリー型に近い運営とすることも可能であることから、先ずはこれらの方策の積極的な活用を図るべきである。

その上で、新型コロナウイルスの完全な終息までの期間が長期にわたることを考えると、次年度以降も同様の手法が取れるようにするとともに、バーチャルオンリー型株主総会の実現可能性を法整備含め検討するなど、非常事態におけるリスクの軽減や企業負担の少ない形で株主総会を実施する仕組みを促進すべきである。



3. おわりに

 新型コロナウイルス感染症という災禍は、新たな社会課題や価値観を生み出すきっかけとなり、それらに対応する技術やサービスを持つスタートアップの成長の機会ともなる。我が国でも多くのスタートアップが自己の価値を最大化し、ウィズコロナ、アフターコロナの世界を見据えて、事業に挑戦できるよう、政府および既存企業含めた経済界全体で支援していく必要がある。


以上


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※1 スタートアップに特化した支援策として、フランスは、2020年3月25日に40億ユーロの包括的支援を発表。ドイツは、2020年4月1日に20億ユーロの包括的支援を発表。

※2 日本政策金融公庫のセーフティネット貸付の対象は、中小企業基本法で定義する中小企業者。業種によって条件が異なり、製造業では資本金の額または出資金の額が3億円以下もしくは従業員数が300人以下、サービス業では資本金の額または出資金の額が5,000万円以下もしくは従業員数が100人以下。