事業会社における「パブリックアフェアーズ」の役割とビジネスにとっての意義

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今回は政策企画チームマネージャーの岡本洋平が、 マカイラ株式会社コンサルタント、パブリックポリシーキャリア研究所 所長の草野百合子さんをゲストに、事業会社における「パブリックアフェアーズ」の役割とビジネスにとっての意義について議論しました。(対談は2/24に実施)

 


ファーストキャリアとしての「経産省」について

※偶然にも経産省の入省同期での対談となりました


草野> 大学時代は社会学を学んでいました。教育や地方経済に関わる”格差”というところに関心があったのですが、こうしたことの解決のためには、経済や国の産業構造などに関わる仕事をしたいと思い、経産省という選択をしました。経産省では、通商政策や産業政策全般に関わる部署にいたことが多かったですが、その中で、”格差”を減らしていくということと、新しい仕組みやイノベーションを起こすことは、両方バランスをとりながらやっていくことが大事と思うようになりました。


岡本> 大学時代は、人工知能やアンテナ工学を専門としていました。当時は企業の研究者になるか公務員になるか迷っていました。ですが、自分の関心が技術を使って社会を良くすることに向いて、その関心のもとに経産省で広く国民のお役に立ちたいとの思いが強くなり、選びました。経産省では技術系のポジションが多く、人工知能・ロボットの技術シードと応用の橋渡し研究を支援する事業を企画したり、総務省と文科省と経産省で政府一丸で研究する体制を作ったりしました。


草野> 転職を考えたのは、元々関心のあった教育分野のことに先進事例を作るような立場で一度チャレンジしたいと思ったことと、仕事とプライベートや育児の両立をするには私にとっては時間が足りないと感じたことが大きな理由でした。教育の現場に近い仕事の経験を踏まえ、今度は企業側から業界全体や社会全体を俯瞰した目線で見て、ルールの変化を働きかけていくようなことをしたいと思い、マカイラに入りました。


岡本> 実際に社会を変えていくためには最後は現場が動かなければいけません。民間からあるべき社会の絵姿を描いて、社会に発信し、事業を通じて実際に変革していけるといいなと思い、先進的なテクノロジーを用いて人の生活に密接している「ものの取引」そのものをサービスとしているメルカリならそうした事ができるだろうと思い、転職しました。

 

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パブリックアフェアーズの現場で、どういう役割を担っているのか


草野> 私は、企業に対するパブリックアフェアーズコンサルティングと、パブリックアフェアーズの組織構築支援の2つを主に行っています。パブリックアフェアーズ(以下、PA)のコンサルティングでは、ECプラットフォームに関わることと、教育関連のことを現在のプロジェクトとしては担当しています。組織構築支援としては、ビジネスも分かっていて、官庁側のことも分かる「トライセクター人材」を増やしていくための取り組みとして、パブリック領域に関わる人のキャリアに関する発信や、PA領域におけるキャリア支援を行っています。官庁の方からお話をお聞きして、現職にいることをおすすめしたりすることもよくあります。選択肢があり得るということだけ分かると、拙速に転職するのではなく、安心して官庁の仕事に集中できる方も多いのではと感じます。トライセクター人材を増やしたいのは、ビジネス側と官庁側の両方のことが分かっている人材が増え、社会の様々な場所にいることで、両方をうまく組み合わせて社会の変化を促していくことができると考えているから、というのが背景にあります。


岡本> 私の仕事はいわゆる「ロビイング」である政治や役所向けへの働きかけもありますが、それ以外にも様々な仕事があります。大まかには2つ側面があり、1つは事業の「守り」で、メルカリの事業リスクを減らすことです。例えば、取引について様々なご意見をいただきます。ときにはご意見が寄せられることを事前に予測します。そうした際に社内外のステークホルダーと連携して予防策や解決策を議論し、実施していきます。go to事業では、クーポンの転売が予想されたので、事業開始前に関係省庁とともに対応を検討していましたまた、もう一方の側面は事業の「攻め」で、外部の指摘を社内の変革や全く新しい企画の立ち上げにつなげることもやっています。


草野> メルカリの政策企画チームって、他の部署との情報共有や連携もやって、メルカリ政策企画が社内で情報を吸い上げて、社外に出すとか、社外の情報を社内に共有するということもやっていますよね。岡本さん自身は、「攻め」と「守り」どちらの仕事が好きだったり、得意だったりするんですか。


岡本> どちらかと言うと、トラブル対応や守りが得意かもしれません。「守り」から「攻め」にという事例もあります。例えば、昨年9月から一次流通企業の製品安全をサポートする取り組みをはじめたのですが、これもメルカリからも参加した経産省の検討会で提言された内容を踏まえて始まりました。この他の取組も含めて評価され、今年度の経産省「製品安全優良企業表彰」では特別賞を受賞しました。
政策企画の役割では、こうした「外からの視点を事業に反映させる」というのも重要だと思っています。


草野> メルカリで「政策企画」と呼んでいるものと同じようなものをマカイラでは「パブリックアフェアーズ(PA)」と呼んでおり、社会に関わるステークホルダーとの関係構築全体を含んでいます。ルール作りや規制緩和に絡む我々が呼ぶところの「Rule」案件もあれば、PRに近いところで、どういうメッセージを発すれば社会が課題を認知し、変わっていくかについて考え行動する「Appeal」案件もあり、さらに、それに関係する行政機関等との協定締結、後援をもらうといった「Deal」案件もあります。企業が目指している社会像を一緒に考え、その中でこういう戦略を立て、こういう手段はいかがでしょうかと提案していく感じです。その過程では、クライアント企業の方からの要望であっても、論点が一社の課題を解決するためという理由だけだと通らないため、業界全体にとってや、消費者や社会全般にとってはどうかといった広い視点観点からはどう考えられるかといったお話をしています。


岡本> メルカリで政策企画を担当している立場からも、草野さんのおっしゃることはよく分かります。一方で、企業活動の公共性が高まっているようにも感じます。企業だから利益は追求しますが、「自分たちとしてはこうしたい」より、「こうやることが社会にとっても重要なので」という言い方をすることが多いです。実際、我々レベルでもそういう発想をしますし、経営者や投資家にもそういう思考をする方が増えているように思います。例えばメルカリでは、代表取締役の山田をチェアパーソンとするD&I Councilも設置し、日本社会全体の多様性の受容を推進するために「無意識バイアスワークショップ」の社内研修資料を公開しました。


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企業の中でのパブリックアフェアーズの役割


岡本> 入社直後にメルペイ関係の仕事をやっていた際に、ビジネス側のメンバーに、「政策企画って何ができるんですか」と言われました。当時は、政策企画チーム自体もまだ立ち上がったばかりの頃で、営業でもないし、プロダクト開発しているわけでもない政策企画というチームに対して、社内でも単なる「政府渉外」という認識があったのだと思います。それが、一定の規制の下で行う新しいサービスの立ち上げについて社内外の調整役を担ったり、規制のあり方について議論する政府の審議会で情報発信を行いルールづくりに参加する中で、業務に対する理解が得られるようになったと思います。その後、フリマアプリに関係する政策の担当になり、はじめのうちは主に守りの業務をやっていったのですが、徐々に社内の人脈も広がり、攻めの企画にも関わっていく中で、「政策企画って色々できるんだな」という感覚が社内に広がって行った気がします。


草野> 事務局や発信もPAに含まれると思うのですが、「ロビイングの部隊でしょ」とビジネス側の人が思っているというのは、もっと狭い範囲のPAを念頭に置いていたということでしょうか。


岡本> 端的に言えば、「役所に説明に行く人達」というイメージではないかと思います。これはメルカリ社内に限ったことではなく、多くの人はそういうイメージではないかと思います。他方で、行政に携わっていた経験からすると、理解を得やすい説明もあると思うのです。その観点から、この書類はこうした方がいいとか、説明はこうした方がいいとか意見して渉外業務を行ううちに、むしろサービスの仕組み自体もこうした方がいいとか、徐々に企画から関わっていくようになったんです。


草野> PAの仕事って、中長期で結果が出るものだけをやっていると、ルールづくりなどすぐに成果が出ないですよね。そうやっていると、進捗がないように見えたりします。その中で、中長期な大きな成果も目指しつつも、短期的な成果を出すことがビジネス側から信頼を得るには大事なのかなと思いました。


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企業におけるパブリックアフェアーズに求められる人材とは


岡本> マカイラでは、ベンチャー企業等のPAの支援などもされているということですが、具体的にはどのようなことをされているんですか。


草野> PAって、大きな企業だと自社にあったり、業界団体でやっていたりしますが、ベンチャー企業などだと自社でやるのが難しいので、その会社にとってPAの必要性、PA戦略、PA体制などについて、企業の成長ビジョンに合わせて専門的にサポートできると思っています。企画立案から政策リサーチ、政策提言、ロビイングだけでなく、その会社の事業を一緒に作りながら、どうやったら行政や社会に受け入れられ、ビジネスの成長につながるか、検討・発信していくところを一緒にやっていくというところまでできます。マカイラではコンサルティングだけ行うこともありますが、人材紹介とコンサルティングサポートの両方をしてもらいたいなどの依頼もあります。ちなみに、メルカリではどんな人材を求めているんですか?


岡本> 漠然としていますが、「社会的な視点を取り入れて事業をあるべき方向に導ける人」でしょうか。社内にはサービスに関する様々な発想がありますが、規制に引っかかったり、社会的な影響をより考える必要があるものも見受けられます。様々なステークホルダーと接する中で、制度的・倫理的な要求に触れ、あるべき方向を提案し、社内を動かしていく、そういう人材が必要だなと思います。
また、新たな技術を活用すれば問題なくできることもルール上できないこともあります。その場合は、社内のニーズを汲み、ルール自体を動かしていくという発想ができる人も重要ではないかと思います。

そのためには政府のルールメイキングに関する知識も必要だと思います。ですが、求めすぎるとスーパーマンになってしまうので、強いていうと、「社会的な視点を取り入れて事業をあるべき方向に導ける人」かなと思います。


草野> マカイラとして思っているのは、「ホリスティックにアップデートし続ける社会」を実現出来る人でしょうか。「ホリスティック」とは、全体の参画によるバランスのことで、一部の強者だけでなく、マイノリティを含めた多様なプレイヤーも参画した合意形成をして行ける人ということです。それをするためには、理想と大局観を持つこと、そしてそれに関わる学問的・実務的知見や情熱を持っていること、加えて合意形成の過程での様々なしがらみや、やむを得ないトレードオフという現実や力学を理解し、生かしていけることが大切だと思います。

 

本記事は、マカイラ株式会社とのコラボ企画で、マカイラ株式会社の運用するPAJPにも本日『メルカリに学ぶパブリックアフェアーズチームの作り方』が掲載されています。

合わせてご覧ください。

(高橋 亮平)

 

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岡本 洋平 (Yohei Okamoto)

メルカリ会長室政策企画マネージャー。2009年、経済産業省入省。IT、東日本大震災からの復興、産業技術、エネルギー政策などの企画・立案・実行などに従事。2019年に株式会社メルカリに入社。割販法改正の議論、消費者還元事業、不正利用対策、消費者保護施策、出品物に係る渉外などに取り組んできた。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻修士課程修了。

 

草野 百合子 (Yuriko Kusano)

マカイラ株式会社パブリックポリシーキャリア研究所 所長パブリックアフェアーズコンサルタント、&パブリック領域の人材紹介「pubcari」事業運営リーダー。2009年経済産業省入省。成長戦略、経済連携交渉、産業人材などの企画・立案・実行等に携わったのち、子供の創造力を育む株式会社CurioSchoolを経て、マカイラ株式会社に入社。子ども・教育分野、テクノロジー分野に注力。東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程修了。