岐阜市職員が1年間のメルカリ派遣研修で得た自治体に即取り入れたいこと

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メルカリでは、2020年4月から2021年3月まで、岐阜市職員の派遣研修を受け入れました。この受け入れは、岐阜市との包括連携協定によるものです。

2021年3月22日、派遣側の岐阜市、受入側のメルカリの両者が参加し、本研修の最終報告会を開催しました。報告会には、岐阜市側から杉原 行政部次長をはじめオンライン・オフライン合わせて10名の皆さんが、社内からはメルカリ取締役会長の小泉文明ほか、政策企画チームのメンバーなど多くの社員がオンライン・オフライン参加してくれました。

 

公務員がメルカリにjoin。メルカリのバリューを発揮できた瞬間とは?

横山 竜一

株式会社メルカリ 会長室政策企画(2020.4.1-2021.3.31)

岐阜市行政部デジタル戦略課デジタル技術活用推進室副主幹(2021.4.1予定)

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メルカリに来て、早いもので、もう1年が経ちました。

新型コロナウイルスの感染拡大もあり、4月当初は、派遣研修にも関わらず、岐阜市の自宅からの在宅勤務、新入社員向けのオンボーディングから仕事まですべてがオンラインで行われました。入社前に、PC、スマホ、社員証が送られてきた日のことを今でもはっきり覚えています。

ようやく、六本木ヒルズのメルカリオフィスに出社し、チームメンバーとオフラインで初めて顔を合わせたのは6月でした。初めてお会いしたのに、毎日オンラインで仕事を一緒にしていたので、不思議な感じでした。

 

メルカリのバリュー「Go Bold」「All for One 」「Be a Pro」を体感、発揮できた瞬間

メルカリには、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを達成するために、社員全員が大切にしている「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(全ては成功のために) 」、「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューがあります。

私がメルカリの一員として、このバリューを発揮できた瞬間として印象に残っている瞬間が2つあります。

1つ目は「メルカリ寄付」プロジェクトにおける慈善団体のリリースです。

会社として慈善団体の参加を方針決定してから約1ヶ月というスピード感で団体の獲得に成功(Go Bold)。また、リリースするまでのタイトなスケジュールの中、チーム内外関係者の役割分担を明確に(All For One)し、個々がプロとして責任を果たし(Be a Pro)、無事に2月にリリースすることができました。

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2つ目が、現場でお客さまに直に接することで、お客さまのことを知る取り組みとして行われた「PJ-Insight」です。このプロジェクトには様々な部署から社員が参加し、部署を越えた横断的な取り組みでした。

各々が自社サービスの理解をより深めたいと望んで参加し、結果、数多くのことを学び、事業部門へのフィードバックを行うことができました。

実際、私も新宿マルイや武蔵小杉のららテラスにあるメルカリステーションのスタッフとして店舗に立たせていただき接客業務を行うなど、お客さまと直に接する貴重な経験をしました。

初心者のお客さまの出品をフォローするメルカリ教室プログラムでは、認定講師試験も受講し、無事に合格することができました。

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メルカリで学び、最も岐阜市役所へ持ち帰りたいのは「スピード感」

今回、1年間の派遣研修を体験し、派遣元である岐阜市役所に2点のことを持ち帰りたいと考え、提案します。

私は岐阜市役所には2点の課題があると考えました。

まず1点目は「スピード感」です。

特に顕著に感じられたのが稟議のスピードです。岐阜市役所では、「係⇒課⇒部」というように縦に稟議が流れていきます。実際に手元に稟議書が流れてこない限り、検討過程の共有もないため、どうしてこの結論に至ったのかが分かりません。そのような状況ですから、稟議途中で稟議書が差し戻しされることも少なくありません。

一方メルカリでは、課題に対し、チームごとで取り組むのではなく、部署横断でメンバーを集めプロジェクトチームで課題解決に取り組んでいきます。そうすることで、各専門部署からの知見を初期の段階から共有することができます。またSlackというコミュニケーションソフトを活用することで、わざわざメンバー全員の予定を押さえて会議を開催しなくても、Slack上で議論を進めることもできます。そして、このSlackのチャンネルに上司をメンションすることで、上司も事前に状況をリアルタイムで共有することで意思決定もスムーズに運び、スピードを落とすことなく課題解決までたどり着くことができます。

こうした部署横断のプロジェクトチームでの活動や、コミュニケーションソフトの活用は、岐阜市役所においても大幅なスピード感の改善につながると考えました。

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全社員が全力で同じ目標に向かって連携していく「一体感」は自治体にも必要

2点目は「一体感」です。

岐阜市役所にも、市がめざす基本方針があり、職員個人も目標を設定しますが、振り返って考えると、基本方針に個々の業務が紐付けらていないと感じます。また日々の業務に忙殺され、仕事をするうえで重要な職員同士のコミュニケーション不足も感じられます。

先述のとおり、メルカリにはミッションがあり、社員はこのミッション達成のために自分が何をすればよいかということを意識して業務にあたっていいます。そして常に3つのバリューを体現することを意識し、四半期ごとにOKR(Objectives and Key Results=目標と主要な結果の略称)を作成しています。またコミュニケーションの仕方にも特徴があります。週1回行われる上司との1on1、またチームビルディング、チームオフサイト、そしてAll-Handsと呼ばれる全社集会など、非常に密なコミュニケーションが行われており、そのコミュニケーションの中でもグループ、チーム、個人、それぞれのレベルでのOKRが常に意識されたものとなっています。これにより、社員一人一人が会社のために何ができているか、また何ができていないかが意識され、共通の目標であるいわゆるミッション達成に向けて力が結集されているのだと実感しました。

こうした働き方を岐阜市役所においても、市のめざす姿に紐付けた個人目標の設定及び密なコミュニケーションで職員の力を結集できればと思います。

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そのほかにも、業務効率化やペーパレスにつながるクラウドを活用した資料管理や、オフィスには1台も固定電話がなく、社員同士のコミュニケーションは先述のSlack中心であることで、個々の業務を妨げることなく仕事ができる環境であったり、これらの働き方はメルカリという民間企業だけでしかできない働き方ではなく、全国の自治体でも参考になる働き方であると感じました。

全国の自治体職員の皆さんにも、私が経験したこれらの取り組みを肌で感じていただけるような機会が増えれば、自治体での働き方も大きく変わっていくのではないかと思います。

 

最後に、報告会の中で小泉 会長からいただいたご挨拶が、今後の自治体DXや働き方改革、組織風土改革に非常に参考になると思いましたので、合わせてご紹介させていただきます。


会長小泉から自治体DXの参考に「アントラーズをDX化させた経験」について紹介

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最終報告会で挨拶するメルカリ取締役会長 小泉文明


※以下、小泉 メルカリ取締役会長挨拶


社員が高いモチベーションで仕事をするための心理的安全性

メルカリでは心理的安全性ということを大事にしています。

会社の中のメンバーが、どうやって自分の意見をダイレクトに言っていけるか、それが仕事へのモチベーションに繋がり、成果につながっていくという形にしています。組織文化というのは、様々な場面、局面で大事になってくると思うのですが、メルカリは、こうした組織のカルチャーということをすごく大事にしてきた会社でもあります。


全社員が最新の情報を共有し、みんなで最適解を見つけるオープネス

岐阜市の皆さんも、今日の横山さんからのフィードバックを聞いていても、メルカリはなぜ、こういうカルチャーにしたのかなと思われたかもしれません。組織にはミッションや目的があります。例えば、岐阜市であれば市民の皆さんの幸せであったり、笑顔にすることだったりするのかもしれないと思うんですが、いかにこうした目的に対して、最大限のパフォーマンスができるのかや、早く行えるか、いかにミスしないでできるのかを考えることが大事だと思うのですが、私は、そうした中で最も重要なのは情報だと思っています。「それはいつの情報?」という状況や、情報ソースがない中では、意思決定していくことができないので、正しい情報がクイックにある必要があります。

また、みんなで最適な解を見つけること、そのプロセスをどんだけ早く回せるかによって解決できることも多いと思っています。

横山さんには、岐阜市に戻られたら、是非、今後これを率先してやってもらいたいと思っています。

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意思決定にハンコ7個、すべてが紙と電話だったアントラーズが半年でメルカリ化

私は、鹿島アントラーズの社長もやっているんですが、買収した1年半前は、多くの自治体と同じような状況でした。

物事を決めるにはハンコが7個必要で、全部紙で、プロセスも電話がメインでした。メルカリには社内に電話が1台もありませんし、社員同士が電話で話すことはありません。なぜ電話はがダメなのかというと、情報の共有がその人達に限られてしまいブラックボックス化することと、他人の時間を奪ってしまうからです。集中して仕事をしている時に時間を奪ってしまうことは、私達は大きな課題だと思っているからです。

鹿島アントラーズを買収したあと、基本的にメルカリと同じような働き方に半年で全部変えました。今は、ほぼメルカリと同じ働き方です。


DX推進に最も重要なのは、「なぜ必要なのか」という本質的な理解の共有

変える時に大事なことは、歩み寄りでした。

この時に「親会社がメルカリになったんだから、全部変わって」とやってしまったら、頓挫してしまっていたと思います。何で私はこうしたいのか、「この目的を達成するためには情報の多様性が必要なんだ」ですとか、みんなが色々と連携することやスピードが我々のアウトプットにつながるんだということをできる限り伝えました。例えば、サッカーチームならファンの笑顔をにつながるとか、スポンサー集めにつながるとか、その正しい理解と、今までの仕事へのリスペクトがあって、はじめて会社の仕組みやプロセス、文化を変えていくことができるのだと思っています。プロセスを変えていった時に、どんなにいいことがあるのか、これについて、評価制度などを変えていくと、はじめてチームとして、納得してスピード感が出てきます。是非、岐阜市の中でもこうした本質的な部分も議論していただきたいと思っています。当然、1つずつ積み上げていかなければいけないと思いますが、ステップを1つずつ積み重ねることによって、半年や1年ではできないかもしれませんが、数年単位で、是非、革新的な行政を実現する街になっていっていただきたいなと思っていますし、横山さんは、そのために引っ張っていってくれるんではないかなと思っています。


多様な意見を反映した流動性を持った組織が強い

経験は、何事にも代えがたいと思いますし、経験してないと分からないことも沢山あると思いますので、今後、ぜひ、みなさんに色んなフィードバックもしていってもらいたいと思います。私は、強い組織というのは、流動性を持った組織だと思っています。様々なバックグラウンドを持った人たちが、経験を元に意見をぶつけることで、それがイノベーションであったりとか、アンサーにつながっていくと思っています。

岐阜市での活躍に期待しています。

横山さんお疲れさまでした。

 

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今回の記事での報告は、岐阜市職員として1年間メルカリで過ごした研修派遣での経験とフィードバックを、受け入れてくれたメルカリの皆さん、送り出してくれた岐阜市に対して行ったもので、当然、岐阜市職員ですから、派遣元である岐阜市への提言をしたわけですが、私がこの1年間で得た経験は、岐阜市に限らず、他の自治体にも非常に参考になるのではないかと思っています。

全国の自治体職員の皆さんにも、メルカリの働き方を直に触れていただき、その素晴らしさを感じていただくことが1番だと思っていますが、この記事がその一端でもお伝えすることができれば幸いです。

(横山 竜一)

 

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横山 竜一 (Ryuichi Yokoyama)

メルカリ会長室政策企画。2020年4月から1年間、岐阜市からの派遣研修としてメルカリ政策企画に加わる。岐阜市には1999年4月に入庁し、主に福祉部局にて管理部門を担当。派遣直前は秘書課にて秘書業務を担当。メルカリでは、自治体経験を活かし、主に自治体連携の取り組みやメルカリ寄付を担当。2021年4月からは岐阜市役所に戻り、行政部デジタル戦略課デジタル技術活用推進室へ配属予定。