Chief of Public Affairsに就任したマネーフォワード瀧 俊雄さんに、その可能性について聞いてみた(前編)

f:id:merpoli:20210406073327j:plain瀧 俊雄 CoPA(マネーフォワード提供)

 

今回は、株式会社マネーフォワードで、「Chief of Public Affairs」に就任した瀧 俊雄さんに、インタビューを行いました。(インタビューは3/9に実施)

 

「Chief of Public Affairs(CoPA)」は社会に存在意義を伝えていくポジション

高橋> 先日、瀧さんご自身もブログ等でもご紹介されていましたが、マネーフォワードでは今回、「Chief of Public Affairs(以下、CoPA)」というポジションを新たにつくられ、瀧さんが就任されました。日本でも極めて珍しいこのようなポジションをなぜ設置しようと考えたのか、またどういうポジションなのかを教えてください。

 

> マネーフォワードでは、これまでも事実上政策担当ということで、ずっとやってきました。これまでは、Fintech研究所長という研究機関を営みつつ、社内で「この人はマーケ担当」、「この人は管理担当」というように、「政策対応をする人は、瀧」という感じでした。今回、ガバナンスを強化する目的で、社内と社外の取締役の数を逆転させるのに伴い、私は取締役から外れ、広範な人たちに対して、マネーフォワード全体の存在意義やサービス以外の側面で責任を果たしていくことを示すために「Chief of Public Affairs(以下、CoPA)」という役職をつくり、就任しました。

昨年ぐらいから私たちも「パブリックアフェアーズ(以下、PA)」という呼称を少しずつ意識してきました。PAという呼称については、最初は一過性のものかもしれないと思っていたのですが、時間が経つにつれて、これはいいコンセプトかもしれないと思い始めました。自分たちの活動をそのまま表しているだけでなく、最近も馬田隆明氏の書籍『未来を実装する』に、自分たちではPA活動だと思っていなかった活動を、PA活動の教科書のように取り上げていただいたことも理由の1つです。そのため、PAという言葉を主として置けないかと考えました。

「CoPA」という肩書は、海外では米軍などにそうした役職があり日本でも珍しい事例ではありますが、存在します組織として社会に対して強い影響のある活動をやっている人が、積極的に自らの立ち位置であったり、企業であれば本質的にはサービスのもたらす広範な社会への影響について、きちんとコミュニケーションを図るなど、より良い形で伝えていく役職だと思っています。

 

マネーフォワードがPA活動でも大切にするユーザーフォーカスとフェアネス

高橋> 今回「CoPA」を置いた背景にあるマネーフォワードのPA活動の特色なども教えていただけますか。

 

> メルカリやヤフーでは、しっかりとした政策企画チームがいて、そこに手を動かせるスタッフが揃っていてという環境で活動されていますが、マネーフォワードでは、そのような形でのPA活動というのはやっておらず、原則、私が自分一人で手を動かしてきたのが実情です。必要な時に、代表取締役社長CEOの辻庸介や執行役員兼マネーフォワードエックスカンパニーCOO渉外担当の神田潤一、ものによって事業部のメンバーというように、その時々で一番必要な人達を巻き込んで、場合によっては、私もまったく関わらずに、様々な政策対応を行ってきました。そこには、3つぐらい大きな背景があります。

1つ目は、予算の問題です。創業者の1人でもあるので、コスト意識から自分でやって済むなら自分でやってしまいたい活動だと思ってしまうところがありました。一方でそれでは活動がスケールしないので、他のメンバーのサポートを受けながら行います。それは社外も含めてで、電子決済等代行事業者協会やフィンテック協会の活動などにおいては、落合弁護士を始めとする様々な専門家の方にサポートをしていただいています。こうしたサポートを蓄積すること自体、重要な活動だと思っています。節約志向も重要であり、例えば、「うちのチームは折角7人いるので」と活動を進めてしまうと、政策というのは消費者の声と離れたプロダクトアウトになりがちな要素があります。株主に理解を得るためにも節約志向は凄く意識してきました。

2つ目は、マネーフォワードのバリューでもある「User Focus」です。これは政策の世界でも活かせると思っています。私たちのサービスの裏には、1,150万人を超える『マネーフォワード ME』をはじめとする個人・法人のユーザーやその家族がいます。私たちは、サービスを通じて様々なことを代弁する立場にいると思っています。例えば、4−6月の給与計算の時期は、当社のような給与計算ソフトをサービスしている会社は、CSなどに問い合わせが殺到しがちです。それは、「サービスの使い勝手とは別に、制度が分かりづらい」といったユーザーからの声を直接ヒアリングできるチャンスにもなっています。このように私たちは、制度と人間の間に存在しているミスマッチやギャップを解像度高く理解できる立場におり、こうしたユーザーの声を、代議制民主主義のように伝えることが大事だと思っています。

freee株式会社(以下、freee)と当社は、ライバルでもありますが、サービスにお金を払うという形で色んな人達から支持を受けている会社として、「60年前70年前に作られた制度などの仕組みを踏襲しているから、こういうことが起きるんです」という主張を行う立場においては一緒です。ゆえに、色々と一緒に提言をします。税金や給与計算の仕組みには、どんな国にも複雑さがありますが、「ここだけ特例を出してくれれば凄く楽になります」といったことをしっかりと伝えることが大事だと思っています。例えば、電子帳簿保存法は、紙がそもそも印刷されず、電子データをやりとりする世界をめざしているのに、紙からスキャンすることを前提にした制度イメージを持たれがちです。全部がエストニアのようになるとは思いませんが、私たちはもっと、あり方についての虚心坦懐さを行政に求めていくべきです。

また、日本の行政側のキャパシティがどんどん減っているという課題もあります。公務員のなり手の減少や長時間残業の話も含め、行政自体の持続性も重要な課題だと思っています。こうした課題についても、その時々の目的に照らして一番良い技術選択をし、技術のえこひいきをしないといった中立性をしっかりアピールすることで、消費者の声に基づいた判断につなげていきたいです。

3つ目は、フェアネスです。当社のバリューは、「User Focus」「Technology Driven」と並び、「Fairness」を掲げています。

フェアネスは定義しにくい言葉です。一般的にはよく、何かルールがあって、そのルールを守らないことを「アンフェアだ」などと言います。例えば、サッカーをやっていて、ゴールポストを勝手に動かしたり、審判にお金を払って試合展開を有利にすれば、当然、「アンフェアだ」と言われます。一方で、片方のチームだけが筋肉増強剤を注射していたら、これはフェアって言えるのだろうかと悩みますが、全員がプロテインを飲むのは、健康を維持しつつも、よりレベルの高いゲームが展開される可能性があるので、むしろその方がいいという考え方もあります。そのような、何が納得されるのかという状況をダイナミックに理解していくことも、世界の捉え方としては重要です。

f:id:merpoli:20210406073449j:plainメルカリ会長室政策企画参事 高橋 亮平

 

PA活動におけるフェアネスと、個社のためではなく社会のためにとの視点

高橋> フェアネスというのは難しく、場合によっては主観的に解釈してしまうこともあると思いますが、PA活動において、指針にしていることってありますか。

 

> 行政などで説明をさせていただく際に、「何で自社紹介しないんですか」と言われることが多々あるのですが、極力自社の紹介をゼロでやりたいと思っています。「宣伝したら、この場は終わりだろ」という時に、各社が宣伝をするのをよく目にします。多くの会社は社会を良くするためではなく、自社サービスのシェアを増やすなどを目的にルールメイキングをしているからです。個人的にはそこに違和感があり、社会が必要としているからこそ当社が存在しており、社会がめざしているものが当社の存在で達成できないなら、むしろそんな会社はいらないと思っています。フェアなルールやピッチを作って、その上で競争力を発揮するために、良い人材を揃えていることが、マネーフォワードの強みであって、今の強みに制度を合わせるのは、どこまでいっても違和感が残ります。

社内でも、ライバル会社に対して競合対策として「こんなことができないか」と相談されることがありますが、ライバル会社がより悪い世界をめざしているなら話は別ですが、多くの場合どの会社も良い世界をめざしていますし、ライバル会社の方が良いビジョンを持っていることもあります。自分たちが政策提言する場合は、技術やユーザーに対して支配的なポジションではないという前提で、フェアであるかという基準を自分なりに持って、社内外からの様々な要望に対し、それを突っぱねるということもしなければいけないと思っています。

昨年もデジタル庁設立に際して、19個の提言をしましたが、マネーフォワードが直接的に絡む提言はそのうち7個ぐらいしかありません。現在の世の中は、自社のことだけをアピールしても共感してもらえない世界になりつつあります。サービスが社会実装される過程に、マネーフォワードをサポートしてくれる人たちの思いが詰まっているのであれば、社内を見ていても答えがないので、やはり社外の期待に答えることの方が、ひいてはマネーフォワードのためになると思っているからです。

マネーフォワードが世界の誰もが使っているプラットフォーマーであれば、その頃には色々な要請が出る可能性もありますが、いちソフトウェア会社という存在で、そんなことを言っていてもついてこないと思っています。

メルカリもそうだと思いますが、良い人材が社内にどれだけいるかが企業価値になると思っています。PA活動も、そのための外部の応援と、採用も含めて大事な要素だと思っているので、フェアネスを持ち続けることが大切です。もちろん綺麗ごとだけを並べても社会は変わらないので、必要な時には自社リスクを取ることもあります。その際は、自社として強くアピールしなければいけないので、名前を出してしっかり活動します。ただ、平時においては、官庁のやるべきことを代わりにやっているぐらいが、私は一番座りがいいと思っています。

CoPAというのは、そういう連携のもとに、リーダーシップを図るための一つの形になればと思っています。とはいえ、今挙げたような形は、ベンチャーの共同創業者でもあるがゆえに可能な面もあるので、これが当たり前になるかについては、そうなって欲しいとは思うものの、それなりにハードルのあるやり方なのかなとも思います。

f:id:merpoli:20210406073601j:plain瀧 俊雄 CoPA(マネーフォワード提供)

 

創業者によるPA活動による優位性とストーリーづくりの必要性

高橋> 今回、CoPAというポジションを新たに設置されたわけですが、一方で、マネーフォワードのPA活動は、ベンチャー企業で、経営トップの理解が高いなどの要因もあり、CoPAを一般化させることをめざしているわけではないというお話をいただきました。CoPAの設置にあたっては、瀧さんが創業者だったからという要因、取締役だったからという要因などが考えられますが、ご自身としては、どの要因が強かったと思われますか?

 

> やはり創業者だったという要因は、ストーリーを形成するうえで強かったと思います。例えば、「ハンコをなくしましょう」と言っても「知っとるわ」で終わるので、「ハンコを押しに出社するのを妻に止められたんです」といったストーリーを持っていた方が通じるということがあります。

提言というのは単体では無味乾燥な法律に対するリクエストですが、そこに、ある程度の人たちが理解していて、「正しいよね」という納得が付されることで、雰囲気が醸成されるということがすごく大事だったりします。その意味で、「創業者であること」は非常に効きます。「こうやってユーザーが使ってきてるんだ」とか、「こうしたサービスを実際に作るのは大変なんだ」と創業者が伝えると、説得力が増します。ただ、必ずしも創業者CEOでなければならないということではなく、途中からジョインして共同創業者的にコミットしている人はいますし、むしろ社長と意思統一ができていることと、「この会社を使って社会を変えたい」という想いを持っていることが重要です。「この会社も社会もけしからん。こうあるべきだ」というような個性の方が大事だと思ったりもします。その意味では、会社としてそういった仕事の仕方をする人たちをそれなりの役職につけるという方法は、あるのかもしれません。一番大事なのは、ポジションというより、事業創造をする者の視点と、ストーリーだと思います。

社長の辻もよく言うことですが、「もしマネーフォワードを創業していなくても、きっとマネーフォワードみたいなことやっていた」と思うというところが私もあり、本人が「そうやりたい」という「パッション」という言葉さえ受動的な感じがするような、「本人の想いがあるか」という部分が大事だと思っています。いきなりこういう仕組みを作ったらCoPAが育つというわけではないと思いますが、一方で、どんな人にも適正はあるとは思います。

すべての企業がベンチャーマインドを持ってPA活動を行うべき

高橋> ご自身でも、「CoPAが必ずしもどこの会社でもできるわけではない」とのことですが、一方で、PA業界にとっては、「CoPA」というポジションができたことによるインパクトはあると思います。「CoPA」を設置することによってPAに対する社会の見方が変われば、といったような思いはなかったのでしょうか?

 

> あらゆる会社がPAをやれば良いのに、と本当に思っています。メルカリやヤフーは、それができていると思うのですが、様々な会社が、「こうありたい」と思っていることがあるはずですし、広報紙などで自社内に分かる形ではやっていることはあると思います。会社が一市民として、「制度をこう変えたらビジョンを叶えやすくなる」という活動を普通にもっとやっていくべきです。それは、経営がどこまで本当に戦略を持っているかという話でもあります。今の時代においては、ビジネスモデルのライフサイクルも短く、各会社が自己破壊をしないといけませんし、それぞれがベンチャー的なマインドを持たないといけないと思っています。自分たちが思うビジョンを叶えるために、「こういう制度が必要なんだ」と言うことの方が大事だと思いますし、社員にとっても、それこそがカッコイイと感じ、働きがいになるのではないでしょうか。そういう企業が増えるといいですし、その先鞭になりたいですね。業界でひとりCoPAというのも寂しいですからもっと増えると嬉しいですし、PA人材が増え、会社間を行き来するような世界になればいいなと思っています。

 

後編はこちら

 

本記事は、株式会社マネーフォワードとのコラボ企画で、株式会社マネーフォワードの運用するマネーフォワードFintech研究所ブログにも連携記事『ゲスト対談:官民の人材交流とリボルビングドア~前編~(株式会社メルカリ 吉川徳明さん)』が掲載されています。

合わせてご覧ください。

  

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瀧 俊雄 (Toshio Taki)

株式会社マネーフォワード 執行役員 サステナビリティ担当 CoPA (Chief of Public Affairs) ・マネーフォワード Fintech 研究所長。2004年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。株式会社野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学MBA、野村ホールディングス株式会社の企画部門を経て、2012年より株式会社マネーフォワードの設立に参画。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。

インタビュアー

高橋 亮平(Ryohei Takahashi)

メルカリ会長室政策企画参事 兼 merpoli編集長。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、国立大学法人滋賀大学講師。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか。