Chief of Public Affairsに就任したマネーフォワード瀧 俊雄さんに、その可能性について聞いてみた(後編)

f:id:merpoli:20210406074152j:plain瀧 俊雄 CoPA(マネーフォワード提供)

 

株式会社マネーフォワードの瀧 俊雄 CoPAへのインタビュー記事の後編です。

合わせて前編もご覧ください。

 

図らずもゼロからはじめたパブリックアフェアーズ活動

高橋> 瀧さんは、いつからパブリックアフェアーズ(以下、PA)に興味を持たれたんでしょうか?そもそも、この分野に強い想いがあったのか、それともやらざるを得なくなったのかなども教えてもらえますか。

 

> 金融庁から問い合わせがあって勉強会の依頼をされたのが契機となり、2015年にフィンテックに関する調査と分析を行うために、マネーフォワードFintech研究所を設置しました。前職の野村証券にいた時も政策提言活動の一部を担っていましたが、マネーフォワードを創業した時には、二度とロビイングはしたくないと思っていました。社長の辻に「瀧さんロビイングとか制度対応してよ、得意でしょ」などと言われても言葉を濁していたのですが、会うたびに「いつやるんですか」と言われ、図らずも始めたのがこの研究所でした。ところがやってみると、当たり前ですが相当な行動の自由度があるだけでなく、新しい働き方やサービスづくりを実践している会社の話を、金融庁など官庁や議員の方たちは、歓迎してくれたりしたんです。

もう一つは、自分たちなりに仕事を作っていくチャンスだなとの思いもありました。自分の中でもパラダイムシフトがあり、これならやっていけるなと思ったのが2015年ぐらいからでした。フィンテックを、金融界を挙げて盛り上げないといけない、といった潮流にも恩恵を受け、仕事が回りはじめました。

 

高橋> とくにフィンテック周りでやられていたのだと思いますが、当時というのは、PA活動などもまだほとんど何もない状況だったのだと思うのですが、どんな状況だったのでしょうか?

 

> 一番最初に行ったのは、新しい金融サービスのユーザーを代表することでした。官庁にあるコンセンサス形成の会議では、様々な社会のステークホルダーを呼ぶ中で、各立場の方が招集されるわけですが、サービスを開発する会社の立場であったり、少し先の金融サービスを使うユーザー像をよく理解している立場で、お呼びいただくことができました。テクノロジーでイノベーションを起こそうとする企業は、ともすればカジュアルな格好で歯に衣着せぬ物言いをするという懸念もあるので、「ちゃんと話ができる人」と認識されることをまずは目指しました。自社の宣伝はせず、きちんと場の目的に即して話を聞き、有益な意見を会議やブログで発信するようにしました。すると、別の場では講演に呼んでもらえるようになり、講演に参加していた方から「うちでも講演して欲しい」と言われ、という形で徐々に登壇機会が広がっていきました。さまざまな社会課題に対して、新しい自社の変革の可能性を示していくことで、ある種のギブアンドテイク感が出てきたのかなと思います。

 

政策提言におけるKPI設定の必要性

高橋> お話をお聞きすると、組織的にとかチームでというよりは、完全に瀧さんがお一人でやり始められていたという印象を受けました。実際は、そこからどのようにPA活動を拡大させていかれたのでしょうか。

 

> 最初は辻と私だけでやっていました。当時、新経済連盟がフィンテックタスクフォースを立ち上げており、その事務局をやることで、政策提言のお作法を学ばせていただきました。学んだことの一つが、必ず追跡可能なKPIを入れることなどです。一般的に政策提言というと、要求するだけで仕事が終わってしまうわけですが、KPIを設定するとモニタリングが伴うので、非常に当事者意識が高まり、緊張感や責任感が圧倒的に変わってきます。そこまでしてもやりたいことをふるいにかけることも学ばせてもらいました。

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メルカリ会長室政策企画参事 高橋 亮平

 

PA活動は、継続することで専門家感が出てくる

高橋> イノベーション村やフィンテック村などと言われる業界のPAも、その当時から比べると、だいぶ変わってきたと思うのですが、瀧さんから見られると、どのように変わってきたと思われていますか。

 

> 当時はまだ村が小さかったんです。また、日本の場合、残念ながらアメリカと比べて、ベンチャー産業の顔ぶれがそんなに変わらないという特徴もあります。この数年間も参加企業が増えたというよりは、参加企業自体が大規模に成長したという印象です。会社が成長し、「私たちは、この制度を作ってきた」といった実績が伴ってくるので、PA担当者も創業者オーラみたいなものが出てくるのではないかと思います。一方で、官公庁の担当者は人事異動で変わっていくので、PA担当者は議論の経緯を継続的に理解しているので、それが強みになりました。官公庁の担当者により良い意思決定をいただくために、私たちがノウハウを蓄積していくことも重要だと思っています。

 

高橋> 継続していくことの力ですね。一方で、やはりこの分野は参加企業が変わらないっていう側面があるんですね。

 

> そうですね。頼るべき人やニュースターが出てこないというのもあります。それは本人たちに問題があるのではなく、日本のエコシステムが小さいという問題があるように思います。ごく一部の注目株みたいなものを作っても、世の中が飽きれば次に行ってしまうので、株を植えて発芽させて大きくし、種を落としてみたいと考えていても、本来あるべきキャピタルゲインの循環が少ない状況がまだあると思います。

 

PA人材の流動化や人材育成、他業種からの人材流入などは考えられるのか

高橋> 私は、ベンチャー村だったりスタートアップ村とまったく異なるところから来たので、この業界に来てみると、業種や仕事内容は変わらないで、所属する会社は転々と変わっていく人が多いと感じます。やはり、あまり他業種から入ってくる人は少ないのでしょうか。PA人材を流動化させるといったような話をされていたと思うのですが、お話を聞いていると、流動化のイメージが、例えばフィンテック業界の内でのPA人材の流動化といったイメージなのかなと感じたのですが、業界をまたいだPA人材の流動化の必要性については、どうお考えでしょうか。

 

> フィンテック業界の場合は、100人から1,000人未満規模の会社が多く、政策渉外活動が意味を発揮しやすい業界という側面もあると思っています。一方で例えば、不動産業界などでは不動産テック(プロップテック)などのテーマでは、初期のフィンテック業界と同じようなフェーズになりつつあるようにも思いますし、人材の一部はすでにフィンテックから不動産テックに行きはじめてもいます。

なお、今後のフィンテックでは、初期のころのように複数のアジェンダが出るというよりは、むしろみんなで、すごく重たい石を前に動かすみたいな感じになるのではと思います。

f:id:merpoli:20210406074525j:plain瀧 俊雄 CoPA(マネーフォワード提供)

 

大手プレイヤーを巻き込み、2°でも動かすことが重要

高橋> 今言われた「みんな」というのは、どういったプレイヤーを想定されていますでしょうか?

 

> フィンテック業界のみならず、大手金融機関や官庁です。旧来からある制度の一部は、実際には大手金融機関や官庁の中でも、きっかけがないだけで本当はオーバーホールしたり、ゼロイチで作り直したいものはたくさんあるのです。ただ、そういうものは結局、全く触れられなくなるといったことも起きやすいです。そのため、少しだけでも変革を促していくことにも意味があり、制度は可変のもの、変化を諦めないで良いもの、という期待値を保つこと自体にも今のご時世では価値があると思います。そしてその際には新たな技術によって可能になったメリットを見出していただき、関心を寄せられるかですね。これは分野を問わず大きな課題です。インダストリープレイヤーが360°あるうちの2°くらい味方を変えるだけで社会はすごく変わるので、そういうことをやらなければいけないのかなと思っています。

 

高橋> フィンテックやベンチャーの人たちだけでなく、これまで一番遠いと思われていた人たちの意識を変えていくということが重要だということですね。

 

> どんな組織の中にも、より良い未来に向けた建設的な想いを持っている人はいて、その人たちが「やっぱり正しかったんだ」と思ってくれるだけで引っ張って行けると思うんです。ベンチャーを束ねていって価値があるものについては、勿論します。でも、マネーフォワードはレーターマジョリティに尽くせる会社であると思っています。そうでないと、マネーフォワードのビジョンである「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる。」を実現できないからです。レーターマジョリティの人たちの信用を得るためには、今信用されている企業の活動を漸進的にでも変えていくのが一番だと思っています。

 

高橋> 最後に瀧さんがPA活動でめざすものを教えてください。

 

> 身も蓋もない話ですが、PA活動を通じて、良い人材がマネーフォワードに入ってくるようにも頑張りたいと思っています。せっかく1日8時間仕事をするのですから、すごいことをやってくれる会社、サービスが人生の様々な所で貢献してくれる会社に勤めたい、と思ってもらえる会社にしたいのです。結局そこが、私の一番のモチベーションになっているのかもしれません。

パブリシティで「こういうことをやっている会社です」と伝えていくことも大事ですし、仕事とプライベートの境目のない時代になってきているので、仕事上の貢献がこんなに生活を便利にしていると、感じられるようにできるといいな、と思っています。そのためには何でもやっていきたいです。

 

前編はこちら

 

本記事は、株式会社マネーフォワードとのコラボ企画で、株式会社マネーフォワードの運用するマネーフォワードFintech研究所ブログにも連携記事『ゲスト対談:官民の人材交流とリボルビングドア(株式会社メルカリ 吉川徳明さん)』が掲載されています。

合わせてご覧ください。 

 

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瀧 俊雄 (Toshio Taki)

株式会社マネーフォワード 執行役員 サステナビリティ担当 CoPA (Chief of Public Affairs) ・マネーフォワード Fintech 研究所長。2004年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。株式会社野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学MBA、野村ホールディングス株式会社の企画部門を経て、2012年より株式会社マネーフォワードの設立に参画。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。

 

インタビュアー

高橋 亮平(Ryohei Takahashi)

メルカリ会長室政策企画参事 兼 merpoli編集長。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、国立大学法人滋賀大学講師。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか。