2021年の『成長戦略』を読み解く ーグリーン分野/スタートアップ編ー

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当記事は、6月18日に閣議決定された、2021年の「成長戦略」についての記事の後編です。

先週公開した前編の記事では、今回の成長戦略等の柱の1つとなっている「デジタル化」について紹介しました。

今回のグリーン分野/スタートアップ編では、デジタル編に続いて、成長戦略実行計画の第3章、第7章の内容を中心として、気になるトピックを見ていきたいと思います。

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グリーン分野についてのトピックス

1.2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略


(1)2030年排出削減目標を踏まえたグリーン成長戦略の枠組み

 脱炭素化を目指し、グローバルにサプライチェーンの取引先を選別する動きも加速しており、温暖化への対応が成長の成否を決する時代に突入している。再生可能エネルギーを最大限導入する必要がある。2050年カーボンニュートラルという高い目標の実現に向けて、グリーン成長戦略の具体化を下記のとおり進める。その際、需要側である国民一人一人にどのようなメリットがあるのか分かりやすく発信する。また、2030年の排出削減目標を視野に入れて、更なる必要な投資を促す方策を検討する。なお、継続的に戦略の進捗状況のフォローアップと内容や分野の見直しを行う。

成長戦略実行計画 7ページ

成長戦略実行計画では、第2章「デジタル化」のテーマに次いで、第3章、第4章と「グリーン分野」に関するテーマが続いています。

第3章は「2050年カーボンニュートラル」という力強い目標の提示から始まり、「温暖化への対応が成長の成否を決する時代に突入している」との問題意識が示されました。

また、分野別の課題では、再生可能エネルギー、水素・燃料アンモニア産業、自動車など14つの分野が挙げられています。

その中でも、特筆すべき点として、以下の2点、⑧半導体・情報通信産業と⑬資源循環関連産業が挙げられます。

⑧半導体・情報通信産業

 カーボンニュートラルは、製造・サービス・輸送・インフラなど、あらゆる分野で電化・デジタル化が進んだ社会によって実現される。したがって、①デジタル化によるエネルギー需要の効率化と、②デジタル機器・情報通信自体の省エネ・グリーン化の2つのアプローチを、車の両輪として推進する。2030年までに全ての新設データセンターの30%省エネ化及び国内データセンターの使用電力の一部の再エネ化、2040年に半導体・情報通信産業のカーボンニュートラルを目指す。

成長戦略実行計画 9ページ

2.カーボンニュートラルに伴う電化とデジタル技術の活用


 カーボンニュートラルは電化社会が前提となる。例えば、再生可能エネルギーを最大限いかすためには、電力ネットワークのデジタル制御が重要である。車、ドローン、航空機、鉄道、これらの自動走行は、デジタル制御である。製造もサービスも、現場をロボットがサポートする。グリーン成長戦略を支えるのは、強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは、車の両輪である。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていく。世界のグリーン産業を牽引し、経済と環境の好循環を作り出していく。

成長戦略実行計画 12ページ

カーボンニュートラルがデジタル化された社会の中で実現されるという内容が、第3章、第4章で繰り返し語られています。

「グリーンとデジタルは、車の両輪である」という点が強く意識されています。

⑬資源循環関連産業

 廃棄物のリデュース、リユース、リサイクル、リニューアブルについては、法律や計画整備により技術開発・社会実装を後押ししている。廃棄物発電・熱利用、バイオガス利用といった技術は既に商用フェーズに入り、普及や高度化が進んでいる。今後、これらの取組について、技術の高度化、設備の整備、低コスト化等により更なる推進を図る。循環経済への移行も進めつつ、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。

成長戦略実行計画 10ページ

さらに、「資源循環関連産業」の分野では、リデュース、リユース、リサイクル、リニューアブルの促進といった循環経済への移行によってカーボンニュートラルを実現することが述べられています。

メルカリグループでは、地球資源が大切に使われるサーキュラー・エコノミー(循環型経済)の実現を目指しており、成長戦略実行計画と同じ目標を共有しています。フリマアプリ「メルカリ」など、グループが提供するサービスの成長を通じ、二次流通市場の拡大を牽引するのはもちろん、二次流通と一次流通の連携なども含め、サーキュラー・エコノミーを押し進めていきたいと考えています。

 

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スタートアップについてのトピックス

スタートアップの環境整備について述べた7章では、まず冒頭にて、企業年齢0−2年の企業が企業全体に占める割合が欧米諸国に比べて低いこと、さらに、「ユニコーン」といわれる評価額10億ドル以上で未上場のスタートアップの数が少ないことを課題としてあげています。

そして、こうした課題の解決のため、主に資金調達の面からスタートアップを創出・成長させる環境整備を行うことが述べられています。

興味深い点として、スタートアップと大企業の間の取引の環境整備に関して、以下のように「競争政策」という観点が盛り込まれています。

4.スタートアップと大企業の取引適正化のための競争政策の推進


 スタートアップと大企業との連携における問題事例とその具体的改善の方向や、独占禁止法の考え方を整理したガイドラインを策定したところであり、周知徹底を図るとともに、公正取引委員会による法執行を強化する。

 また、スタートアップ企業と出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインを策定する。

成長戦略実行計画 23ページ

加えて、第9章では、公正取引委員会の役割の強化について、以下のように詳しく述べられています。

2.競争政策のリデザイン


(1) 公正取引委員会の唱導の強化

 欧米では、競争当局から他の政府機関等に対し、競争の活性化に関する唱導(アドボカシー;提言)が活発に行われ、競争環境の整備が着実に進められている。我が国でも、専門性の高い外部人材も活用しつつ、スタートアップ・中小企業の参入促進や通信等のデジタル市場・電力等のエネルギー市場といったインフラ分野などをはじめとして、公正取引委員会による唱導機能の実効性を強化する。

成長戦略実行計画 25ページ

これまでの公正取引委員会は、独占禁止法等の規制法令の立案・執行を行う機関という印象を持たれやすかったように思われます。

今回の成長戦略実行計画では、「競争の活性化に関する唱導」という主体的な役割が着目され、公正取引委員会が積極的に働きかけることによって競争環境を整備していく姿勢が示されました。

実際、古谷公正取引委員会委員長の年頭所感や同事務局事務総長の会見において、唱導活動、競争唱導、アドボカシーへの言及やその事例紹介がなされており、公正取引委員会の取り組みが読み取れます。

1.規制改革の推進


 民間の活力を最大限引き出すべく、規制改革を一層推進していく。このため、国家戦略特区や規制のサンドボックス等の制度の利用を一層促進するとともに、その成果の全国展開を進めていく。

成長戦略実行計画 25ページ

ⅱ)サンドボックス制度の活用

(制度の恒久化)

 新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)は、AI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーン、デジタル化、自動化・自律化、遠隔化、デジタルプラットフォームの提供など革新的な技術やビジネスモデルの実証について、期間や参加者を限定し、参加者の同意を得ること等により、既存の規制の適用を受けることなく、「まずやってみる」ことを許容し、実証で得られた情報を活用して、規制改革や新技術等の迅速な社会実装を実現するものである。生産性向上特別措置法に基づき、2018年6月から2021年4月までに、フィンテック、ヘルスケア、モビリティ、IoT、不動産等の分野で、20件139者が認定を受け、その後の法令の見直し、特例措置の整備、解釈の明確化、円滑な事業化等につながっている。

 こうした実績を踏まえ、新技術等実証制度の恒久化に向けた所要の措置を講じつつ、引き続き、当該制度の積極的な活用を図る。

成長戦略フォローアップ 60ページ

さらに、同じく第9章にて、サンドボックス制度の活用について言及されています。

サンドボックス制度は、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度などと並んで「ルールメイキング」に活用される制度として注目されています。

新しい技術やビジネスモデルの実証データを積み上げることを可能にし、法令の見直しの途を広げる同制度の恒久化によって、スタートアップに限らず大小さまざまな企業が新しいビジネスに挑戦しやすい環境が整備されると考えられます。

今回は、前後編に分け、成長戦略について、デジタル、グリーン、スタートアップの分野に注目して紹介しましたが、今後も、こうした政府の政策や方針などについてもご紹介していければと思っています。