岸田総理の所信表明演説を読んでみた

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10月8日、第205回国会において、岸田総理の所信表明演説が行われました。

今回はその構成や経済政策の柱を見ていきましょう。

 

全体構成

まず、全体の構成は以下のとおりです。

一 はじめに

二 第一の政策 新型コロナ対応

三 第二の政策 新しい資本主義の実現

四 第三の政策 国民を守り抜く、外交・安全保障

五 新しい経済対策

六 おわりに

 

参考のため、昨年10月、菅総理の就任後に行われた所信表明演説の構成と比較すると、デジタルやグリーンといたった領域ではなく、「新型コロナ対策」、「新しい資本主義」、「外交・安全保障」という3つの大枠の柱があり、これらを実現するため「新しい経済対策」を実施するという構成になっていることが読み取れます。

参考:第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説の項目

一 新型コロナウィルス対策と経済の両立

二 デジタル社会の実現、サプライチェーン

三 グリーン社会の実現

四 活力ある地方を創る

五 新たな人の流れをつくる

六 安心の社会保障

七 東日本大震災からの復興、災害対策

八 外交・安全保障

九 おわりに

 

 

新しい資本主義

岸田総理の方針としてよく言及される「新しい資本主義」については下記のように意義を説明しており、「成長と分配の好循環」を強調しています。

新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘されています。世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく。そうした、新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっています。

今こそ、我が国も、新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか。

「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」。これがコンセプトです。

(略)

大切なのは、「成長と分配の好循環」です。「成長か、分配か」という、不毛な議論から脱却し、「成長も、分配も」実現するために、あらゆる政策を総動員します。

 

その上で、その政策の柱として、以下の柱を提示しています。

  • 成長戦略
    • 科学技術立国の実現
    • 地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」
    • 経済安全保障
    • 人生百年時代の不安解消
  • 分配戦略
    • 働く人への分配機能の強化
    • 中間層の拡大、少子化対策
    • 看護、介護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくこと
    • 公的分配を担う、財政の単年度主義の弊害是正。科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家課題に計画的に取組

 

人生百年時代や少子化対策など、社会保障の文脈で議論されることも多いテーマを含め、成長戦略と分配戦略をあわせて経済政策を進める方向性が示されているといえそうです。これらについては、「新しい資本主義実現会議」を創設し、ビジョンの具体化を進めるとの言及もあります。報道によれば、従来の「成長戦略会議」に替えて総理直下で実施するとのこと。菅政権では官房長官を議長とする会議でしたが、総理のもと、より広い課題を議論する場となることが予想されます。

参考:政府「新しい資本主義実現会議」設置へ 初会合 今月開催で調整(NHK) 

 

成長戦略

では、IT、フィンテック企業の観点から成長戦略の内容を見ていきましょう。

第一の柱、科学技術立国の実現については、冒頭に大学ファンドへの言及がありますが、それに続いてデジタル、スタートアップ、グリーンについても以下のとおり言及があります。

デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行います。民間企業が行う未来への投資を全力で応援する税制を実現していきます。

また、イノベーションの担い手であるスタートアップの徹底支援を通じて、新たなビジネス、産業の創出を進めます。

そして、二〇五〇年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします。

 

第ニの柱、「デジタル田園都市国家構想」では、地方のデジタル化という文脈で、「5Gや半導体、データセンターなど、デジタルインフラの整備」の言及があり、デジタル化によって地方の活性化に取り組む姿勢が示されています。

第三の柱、経済安全保障は、新政権の新たな課題意識といえます。「戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取組を進め、自律的な経済構造を実現します。強靱なサプライチェーンを構築」とあり、主としてサプライチェーンを念頭に置いたものと思われますが、これがIT、フィンテックを含む広い産業にどう波及するのか注目したいところです。

第四の柱は、人生百年時代の不安解消では、働き方に中立的な社会保障や税制を整備するとあります。不安の解消によって、消費や経済成長を促進という成長戦略の文脈に位置づけていることは今回の演説の特徴です。

 

分配戦略

分配戦略でも第一の柱で、働く人への分配機能の強化では、株主、従業員、取引先の「三方良し」を掲げ、非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しを示しており、今後の具体化を通じて企業実務に大きな影響がありそうです。

 

DFFT

外交安全保障においては、DFFT(Data Free Flow with Trust)が、自由貿易推進の文脈の中で取り上げられました。国際的なルールづくりに日本として積極的に参加する姿勢が示されており、具体的にどのようなルール形成がなさるのか注目です。過去にmerpoliでも記事を投稿していますでのであわせて御覧ください。

世界で保護主義が強まる中、我が国は自由貿易の旗手を務めます。デジタル時代の信頼性ある自由なデータ流通、「DFFT」を実現するため、国際的なルールづくりに積極的な役割を果たしていきます。

 

<参考>「Data Free Flow with Trust」の意味を考える(2019年3月20日) 

 

参考>施政方針演説と所信表明演説の違いとは?

(首相官邸HP)

 

施政方針演説・所信表明演説

開会式の後に国務大臣の演説が両議院の本会議で行われます。

通常国会では、内閣総理大臣によりその年の内閣全体の基本方針を示すものとして施政方針演説が行われ、この他、外務大臣、財務大臣、経済財政政策担当大臣からも演説が行われるのが通例となっています(いわゆる政府四演説)。これらの演説に対し、各会派を代表する議員から質疑が行われ、内閣総理大臣をはじめ各大臣の答弁があります。

特別国会、臨時国会においては、内閣総理大臣により所信表明演説が行われるのが通例となっており、場合によっては他の大臣からも演説が行われます。これらの演説に対し、各会派を代表する議員から質疑が行われ、内閣総理大臣をはじめ各大臣の答弁があります。

安井 暢高