1月10日、メルカリはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)研修と位置づけ、徳島市との包括連携協定※1に基づく連携事業として、職員を対象に「やさしい日本語コミュニケーション研修」と「無意識バイアスワークショップ」を実施しました。また同日、この研修を実施したメルカリメンバーが内藤 佐和子 徳島市長にD&Iについてインタビューをしてきました。
インタビューでは市長から「メルカリのパーカーを着てみたい!」と要望いただき、メルカリパーカーを着てのインタビュー実施となりました。
※1 徳島市とメルカリ・ソウゾウが包括連携協定を締結。「メルカリ寄付」の寄付先にも追加
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いろんな方が活躍できる市役所の方が、市民サービスの向上につながる
メルカリ 麻空 公美子(以下、麻空)> 市長は、就任以来、「徳島市や徳島市役所において、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が大事だ」という話をされてきました。なぜ、こうしたD&Iが大事だと思われているのでしょうか。また、その中でもどういう事が特に大事だと思われているのかお聞かせください。
内藤 佐和子 徳島市長(以下、内藤市長)> 徳島市役所はこの部屋にある歴代市長の写真を見ていただいてもわかる通り、40~60代の男性しか市長になっていない組織で、部長ですらずっと男性しかいない組織でした。私が県内でも初めての女性市長で、組織のあり方として、50代の男性中心の考え方の組織として今まで運営がされてきた組織なんだと感じました。その後、市長も女性になり、女性の部長も初めて就任後に誕生したんですが、女性だけではなくて、障害を持つ方だったり、私自身も難病もあるんですけど、そういったいろんな病気がある方だったり、外国籍の方だったり、LGBTQの方だったり、いろんな方が活躍できる市役所にしていきたいという思いがありました。徳島市という基礎自治体の中で、いろんな観点を持った人がいる方が、ひいてはサービスの向上につながるという気持ちでいます。そういう思いもあって「D&Iを推進しよう!」と就任以来、言い続けているところです。
麻空> 2022年4月から1年間、徳島市として初めてメルカリへ派遣研修に職員を送り出すことになり、私が派遣されました。D&Iの最先端であるメルカリでD&Iの取り組みを経験し、私自身、本当に考え方が変わりましたし、それと同時に「私は私らしく生きていっていいんだ」とも思えました。D&Iと聞くと、まず「なんだか難しそう」という印象を持つ方も多い気がしますが、D&Iというのは、「自分が、自分らしくあること」と、「一人一人がその違いを認め合って協力していくこと」なんですよね。多様性を重んじた結果、「空気を読まなくていい」わけでも、「何をやっても許してもらえる」わけでもありません。みんなで何かを創造していくために、思いやアイデアを持ち寄れる状態がD&Iだと思っています。そしてそのために必要なのが「心理的安全性」であると考えています。私自身も、メルカリでは言えるけど徳島市役所では言えないことが多いなと感じています。徳島市はこの「心理的安全性」を作るためにどのような取り組みをされていて、どのように変わってきていますか。
内藤市長> 「心理的安全性」が必要だということは、就任以来、職員の皆さんにも伝えて来ました。しかし、部長を含めてもよくわかっていないというのが現状で、あらためて「心理的安全性」の研修をきちんとやろうということになりました。動画で「心理的安全性とは」というものを示した上で、私自身が心理的安全性研修の講師になって、幹部研修を行いました。グループワークなどで部長などとも直接「いや、これはこうじゃないですか?」みたいな話をしながらやっています。 ただ、こうした研修の中でも「徳島市役所は他の民間企業と比べて心理的安全性は高い」という発言もあるなど、本人たちに「心理的安全性がない」部分もあるという自覚がない人もいるのが一つの課題だと思っています。今、徳島市役所の部長になっているほとんどが男性職員で、仕事もできて、今まで自分の意見を上の人に伝えてこられた環境の中で、「みんな思ってること言えばいいじゃん」みたいな感覚にあるんだと感じます。一方でそう思ってない職員も必ずいるはずで、そういう職員もいるんだということをきちんと伝え、管理職の人たちは、そういう人たちも含めて言いやすい環境を作らなければいけないんだということをまずはわかってもらうところからかなと思っています。
心理的安全性研修の前に、係長級以上の女性の管理職や係長も含めて悩みを共有する交流会のような機会を作りました。そうすると、「部下である再任用の男性職員さんがあんまり言うことを聞いてくれないけど、女性だから聞いてくれないんじゃないかな」などといった意見が出ました。これから女性幹部も増やしていかなければならない中で、部長たちもこうした状況を知っておかなければならないし、職員も上司などに伝えていき、共有していくことが必要だと思いました。
多様性を考えながら採用活動することは職員にとっても新たな挑戦
麻空> 今日まさにD&I研修を徳島市役所の管理職向けにやったので、ちょっとでも響いたものを管理職の皆さんが持って帰ってくれていたらいいなと思っています。
徳島市役所は、求める職員像として「自ら考え行動する多様な職員」というのを掲げていますが、これって多様性を尊重する市役所をめざすということなのかなとあらためて思ったのですが、このことにはどのような思いを込めているんでしょうか。
内藤市長> 公務員って減点主義なところがあると思うんですよ。失敗せずに淡々と前例踏襲をしていけばいい、安定志向な人が本来的に集まっている組織だと思うんです。これは徳島市役所に限らず、そもそも公務員を志望する理由の一つとして、安定しているという魅力があるので、そこら辺はスタートアップとは違うなと思います。だから、何もしないとやっぱりそういう志向の人が採用の部分でも集まってくるし、挑戦して失敗したら怒られて萎縮するっていうスパイラルに入ってしまうのだと思います。まずは挑戦してみて、ちょっとした失敗だったらやりながら考えて修正していくという経験を積んでいかないと、時代の変化にももちろん乗り遅れるし、 今の時代に「そんな前例踏襲でいいんですか」と思っています。
また、市民ニーズも多様化していますし、SNSでも声を上げやすくなっているので、例えば、今までのように地域のリーダー役だけに話を通すみたいなやり方だけでは、「いや、俺らも徳島市の意見を聞きたいし」みたいな若い人たちもいるので、我々もやり方を変えていかないといけません。その一つが協働だと思っています。民間企業もそうですが、いろんな人と協働しながら行政もやっていかないといけない。そのためにも、職員像をきちんと定め、「そういう人を採用していくんだ」という明確な採用姿勢が必要ですし、そうしていくことで、多様な人が集まりやすくなるとも思います。
こうした採用活動するのは職員にとっても挑戦であると思っています。今までの世間一般的な「公務員試験」から変更し、今年の新規採用職員は初めて新しい採用の形で採用された職員になります。
麻空> 職員から「今年の新採、仕事めちゃくちゃできるんだよな」という話を聞きました。採用試験一つでもこれまでと異なるタイプの職員が入ってきて、多様性が見えてきている実感はあります。
一方で、いわゆる指示待ち人間でない新人が入ってきた時に、先輩職員は戸惑うかもしれないとも思うのですが、こうした先輩職員たちに対して市長は何を期待していますか。
戸惑う部分もあるだろうが、お互い話をしながら乗り越えてほしい
内藤市長> 過渡期なので、先輩職員も戸惑う部分もあると思います。 ただ、それも含めて理解して融合して行かないと、新しい組織には脱皮できないと思っています。その辺りは私自身もすごく考えていて、スタートアップやベンチャーなどは一番初めからビジョンがあり、それを実現したい人たちが集まってきて仲間集めをするので、ビジョンに共感した人が集まってちょっとずつ大きくなっていくと思うんですが、市役所はそうではありません。市長は4年に1度変わる可能性があり、その人その人でカラーがあるので、なんとなく公平公正で市民のためにって言いながら、カラーがあまり打ち出せてないような気がします。ただ、これからの時代にカラーも出さずに採用試験をしてもいい人材も、ましてや尖った人材は集まってきません。全員が尖った人材では、役所業務を回す上では支障があるかもしれませんが、そういった人材も一緒になって変えていこうっていう姿勢で取り組むことによって、みんながいい方向に行くんじゃないかなと思っています。
麻空> まさしく多様性のある市役所ですね。D&Iの話題に戻りますが、市長から見て徳島市役所のD&Iは今どういう状況で、どんな課題があるのか、またどこから変えていこうと思っているのでしょうか。
内藤市長> 新しいビジョンを浸透させていくというのは3,000人近い組織では、すごく難しい作業だと思います。とは言え、ジェンダーギャップの解消であったり、ダイバーシティの精神だったり、D&Iの話だったりというのを私が就任して言い続けることによって、総合計画をはじめ様々な計画に反映されてきたほか、審議会の委員一つをとっても今は女性をできるだけ半分にしようという意識が働いてたりと、目に見える形で変わっていっている部分もあります。
研修の仕方にも課題があり、今日のようにメルカリさんにご協力いただいたり、ファシリテーション研修などを取り入れ、今までにはなかった研修を取り入れ始めました。こうしたことも含めて職員の士気をちょっとずつ変えていこうとしています。私の体感では15%ぐらいしか進んでないような感覚ではありますが、みんなもそういうワードを使うことが自然になってきて、気にしながら仕事はしてるなあっていう感覚は持ち始めています。 先程の新しい採用試験も3年くらいしたら、組織は変わり始めるのかなと思っています。経験者枠の人も半分ぐらい入ってくるようになってきたので、いろんな会社のカルチャーや働き方がどんどん入ってくることになるでしょう。それによって、今までの前例踏襲的なものだけでなく、今までしてきた仕事から少しはみ出るような働き方をみんながしてくれると、市役所の長年の課題である横串を通すというところも含めて少しずつ良くなるのではないか、と期待しています。
(麻空 公美子)
コラボレーション企画で「メルカン」にも対談記事を公開しています。
こちらも合わせてご覧ください。
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プロフィール
内藤佐和子(Sawako Naito)
1984年 徳島県徳島市生まれ。東京大学法学部政治コース在学中から家業の機械製造会社の役員を務め、企業経営に携わる傍ら、地域活性化のコンテストの開催など徳島のまちづくりに取り組む。2020年4月、徳島市長に就任、全国で最年少の女性市長となる。2021年3月に、在日米国大使館と駐大阪・神戸米国総領事館から「勇気ある女性賞」を授与されるとともに、2021年4月に、男女共同参画社会形成の促進に関する政策等について調査審議等を行う内閣府の「男女共同参画会議」の議員に就任。
インタビュワー
麻空公美子(Kumiko Asasora)
メルカリ政策企画。2010年徳島市役所入庁。住民課において戸籍等交付業務に従事。その後、再開発事業、公共工事の入札の業務を担当する土木政策課で執務するなか、徳島市の重要課題となっていた「中心市街地活性化基本計画」策定に向けた市長直轄の組織として2021年12月に設置されたプロジェクトチームのメンバーに抜擢され、立ち上げから2022年3月の内閣総理大臣の認定までの主要なメンバーとして携わった後、2022年4月から2023年3月までメルカリに派遣研修中。経営戦略室政策企画とD&Iチームに所属し自治体連携や「メルカリ教室」「メルカリ寄付」「メルカリShops」「無意識バイアスワークショップ」などの業務を担当。