経産省の「成長志向型の資源自律経済戦略」へ新たに掲載された「リユース・リコマース」とは?

今年3月、経産省が「成長志向型の資源自律経済戦略」を策定し、その中に政府文書においてはじめて「リユース・リコマース」という新しい用語が出現しました。

本戦略が創業当初から「循環型社会」の実現を目指して社会と関わってきたメルカリにとってどんな意味があるのか、また社会への影響はどうなのか、そもそも「リコマース」とは何かなど、政策企画チームの天野宏に、merpoliライターが話を聞いてきました。

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Q> 2023年3月31日に経済産業省は「成長志向型の資源自律経済戦略」を策定しました。そもそもこの戦略がどういうものなのかから教えてください。

メルカリ政策企画 天野宏(以下、天野)> 資源自律経済戦略は、これから日本(世界)が直面する①資源制約・リスク、②環境制約・リスク、③成長機会の3つのリスクに対処するため、成長志向型の資源自律経済の確立を目指して策定されたものです。これまでのように日々大量に生産して、大量に消費する。さらに、大量に廃棄しているようでは、増え続ける人口に対し資源がどんどん枯渇していきます。また、国際的に環境問題への意識の高まりもあり、国境をまたいだ(無責任な)廃棄物移動にも限界があり、加えて、必要な対応ができていないと国際市場から排除されてしまうおそれがあります。元々希少資源に乏しい日本は、資源枯渇の大きなリスクを背負っていますし、土地も狭いですから廃棄物を日本だけで受け入れることも難しい。そのような中で、今後は資源を効率的・循環的に利用していく循環型社会(サーキュラーエコノミー(CE))に移行して行く必要があると考えられるようになりました。

一方で、循環型社会関連の市場規模は2020年の50兆円から2030年には約80兆円、2050年には120兆円まで成長するとされており、非常に大きな産業に成長することも期待されています。そのため、今回の戦略では、日本として環境制約等への対処という守りの視点だけでなく、これからの成長のためにこのようなトレンドの変化を踏まえた新しい産業を振興していくんだ、という攻めの意識を強く感じます。

Q> こうした戦略が策定され、具体的にはどのような政策が考えられているのでしょうか。

天野> 先の3つのリスクに対処し、日本から新しい成長の産業を生み出していくためには、まず①「競争環境整備(規制・ルール)」が必要で、海外との連携強化やリコマース市場の整備が挙げられています。さらに、この成長産業に国としてしっかり投資していく必要があります。②DX先行投資化支援やスタートアップベンチャー支援を含めた「サーキュラーエコノミーツールキット(政策支援)」も策定するとされています。最後に、③産学官の連携を促進するために「サーキュラーエコノミーパートナーシップ」の立ち上げが明記されています。

Q> 今回の戦略では初めて「リユース・リコマース」が明記されました。そもそも「リコマース」とはどういうものなのでしょうか。

天野> 「リコマース」(Re-commerce)とは欧米発の概念で、まだまだ確立した定義はありませんが、幅広に申し上げると、今まで中古店やメルカリのような二次流通企業が担っていたリユースサービスに、製造業者等の一次流通業者等が関与することを言います。その関与の形は様々で、今回の経産省の戦略では、「リコマース:シェアリング、サブスクリプション、リペア、二次流通仲介等」と広義の「リコマース」が採用されています。加えて、個人的には、この「等」に現在欧米で出現し始めている、一次流通が自らリセールすることも含まれる、と解しています。

これまでは3Rの一つとして、再利用を意味するリユースは認識されてきましたが、「リコマース」という概念が注目されたのはごく最近だと思います。今回戦略に「リコマース」が盛り込まれたことでさらに注目されると思いますし、成長産業なのでしっかりと支援していく必要があります。

Q> メルカリはこれまでどのように「リユース・リコマース」に関わってきたのでしょうか。

天野> メルカリはこれまでも「プラネット・ポジティブ」を目指して活動してきました。メルカリの主要プロダクトはフリマアプリですが、「メルカリ」を通して売買しているお客さまは自分が循環型社会の実現に貢献しているとはあまり自覚されていないかもしれません。しかし、「メルカリ」を利用して不用品を売ったり、買ったりすることはまさに「リユース」そのものです。具体的な数字をお示ししましょう。2021年には「メルカリ」(日本)で出品されたことで廃棄されずにすんだ衣服は約4.2万トンあり、これは 日本の年間衣服廃棄量の約8.8%に相当します。そして、約48万トンのCO2排出削減に繋がりました。

メルカリは2020年から毎年サステナビリティレポートを発行し、2022年からは環境に関するポジティブインパクト(メルカリの事業を通じて生まれた環境貢献量)を算出・開示しています。興味がある方はそちらをご覧ください。

Q> 循環型社会への転換が迫られる中で、ますます「リユース・リコマース」の重要性は高まっていくことが期待されます。また、折しも今年はメルカリが10周年を迎えた年でもあります。このような状況の中で今後のメルカリの展望を教えてください。

天野> メルカリは、「限りある資源を循環させ、より豊かな社会を作りたい」という創業者山田進太郎の問題意識から始まっています。「Sustainability」はメルカリのファンデーションの一つでもあります。また、おっしゃる通りメルカリは今年2月に創業10周年を迎えました。そして、この節目に「次の10年」の成長に向け、新たなグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」を策定しました。ここにも、循環型社会構築に貢献することを目指すメルカリの強い思いが表れています。今回、初めて政府の公式文書にリユースだけでなく、メーカー自身が関与するリコマースが明記されたことは、メルカリにとっても歓迎すべきことであり、今後は政府と連携して循環型社会実現を一層加速化したいと考えています。

Q> 循環型社会を構築していく上で、メルカリに求められる役割はなんであるとお考えですか。

天野> 個人的な意見ですが、「価値が循環するためのプラットフォーム」を提供することこそがメルカリの役割だと思っています。そして、価値が循環するためのプラットフォームでは、効率性と効果性が重要です。物がリユースされるにせよ、リコマースされるにせよ、価値が非効率的に移動することでその価値が減じてしまえば、価値の循環とは言えません。また、価値の交換を通じてそれぞれが必要とする価値を入手することにより、さらに人々が社会経済において新しい価値を生み出していけるようにできればと思っています。

例えば、トンカチを売買する例にして考えてみましょう。トンカチを持っている人も欲しい人も1,000円で売買したいと思っていたとしても、その間に多くの人が関与すると、トンカチを欲しい人は2,000円払わなくてはいけなくなることがあるし、また、トンカチを売った人は100円しか手元に入らないかもしれません。そうなると取引を止めてしまい、折角のトンカチが家に眠ったまま何の活用もされなくなるかもしれません。このように取引においてできる限り価値を減じない効率的なプラットフォームがないと、価値の循環(取引)すらままなりません。
また、価値交換の効果性とは、新たにトンカチを手に入れた人は素晴らしい模型や建造物を作って、新しい価値を世の中に生み出すかもしれません。これは少し極端かもしれませんが、トンカチを譲った人は、譲った際に得たお金を使って、これまで夢だった英会話の勉強を始めて、世界に飛び出す人材になるかもしれません。このような価値の乗数効果的な増大が実現するといいですね。

Q> 循環型社会の構築に向けて必要なことはなんですか

天野> 循環型社会の実現は、メルカリ単体でなしうるものではありませんし、経済産業省や政府だけでできるものでもありません。メルカリは、円滑な価値交換のためのプラットフォームを提供するだけです。ですので、循環型社会の実現のためには、価値ある物を持っている消費者個人にプレイヤーとして参加していただく必要があります。また、完成品を作る事業者の方にも、あたらしい経済を創ることに参加していただかなければいけません。例えば、家電であれば、メーカーさんに修理していただかないとお客様も安心して取引ができない場合もありますよね。商品が安心安全であることが大前提ですので、メーカーさんの参加も重要だと思っています。

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