Free or Regulated? サイバー空間をめぐる攻防:第13回インターネットガバナンスフォーラム(IGF) <前編>

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2018年11月11日から14日の「Paris Digital Week」。期間中、フランス・パリにおいて、3つの大規模な国際会議が開催されました。そのうち、メルカリは第13回インターネットガバナンスフォーラム(Internet Governance Forum: IGF)の場でさまざまな活動を行いましたので、ご紹介します。

 

インターネットガバナンスフォーラム(IGF)とは?

皆さんは「インターネットガバナンスフォーラム(IGF)」と聞いて、何を想像するでしょうか?何かインターネットに関する会議でしょ、ということまでは想像できるかもしれませんが、誰が参加していてどれくらいの規模で、何を話し合っているかまで知っている人は少ないのではないでしょうか。

実はこの会議、国際連合(United Nations: UN)の下に設置された由緒ある国際会議で、世界中の利害関係者(マルチステークホルダー)がインターネットに関するさまざまな公共政策課題を議論するために、2006年以降毎年1回開催されているものです。インターネットに関する公共政策課題を議論する国際会議としては、世界最大規模です。その参加者数は、毎年数千人(現地およびリモート参加)に及び、参加者内訳は、各国政府や国際機関関係者から、企業、技術者、学者、メディア、市民社会まで非常に多様です。毎年開催国が変わりますが、各国首脳レベルも登壇することから、世界中の利害関係者にとって非常に有名な国際会議であり、年々世界各国からの参加者が増加しているにもかかわらず、残念ながら日本ではまだ知名度が高くありません。

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ここで、多くの方は「なぜ民間企業がIGFに出る必要があるの?」と疑問に思われるかもしれません。

確かに、何か民間セクターを縛る法的拘束力のあるものがIGFで決定される訳でもなければ、そのような意思決定に民間セクターが参画できる訳でもありません。しかし、生き馬の目を抜くデジタル分野の公共政策についてどのような課題があり、またどのような解決策があるのかについての各国の最新情報を入手できるのみならず、ハイレベル登壇者から彼らの考えていることを直に聞くこともできます。

また、IGFの場では誰でもワークショップを開催することができますし(提案書を提出し選考プロセスを通過する必要はあります)、早い者勝ちですがブースを開設することもできます。そうした場を利用して、各国政府の要人等、意思決定権者に自分達の考えていることをインプットすることもできますし、いわゆるこの分野のキーパーソンと個別に意見や情報交換を行うことも可能です。さらには、外交の場で「バイ」や「プルリ」と呼ばれるような、二国間あるいは複数国間の非公開会合が多数開催されていますし、民間セクターも、各国政府や国際機関と非公式会合を行い、活発に意見交換や要望を行っています。

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第13回インターネットガバナンスフォーラム(IGF)

2018年で13回目となるIGFは、フランス・パリにある国連教育科学文化機関(UNESCO)で開催されました。期間は11月12日から14日の3日間、通常開催されるDay 0もありませんでしたので、今回は短期集中、かつフランス政府の意向が色濃く出たIGFでした。

今回の全体的なテーマは、「The Internet of Trust」。インターネット空間の信頼性が重要だというメッセージの下、全日程を通じ、合計で171件ものセッションが開催されました。議長サマリーによれば、結局、合計で143カ国から3,000人以上が今回のIGFに現地またはリモート参加したとの事で、例年に比べ短い期間であったにもかかわらず、非常に多くの利害関係者が出席した模様です。

とりわけ注目されたのが、12日(Day 1)の午後に開催されたオープニング・セレモニーです。今回は、UNESCOの事務局長であるAudrey Azoulay氏、国連事務総長であるAntónio Guterres氏、そしてフランスの大統領であるEmmanuel Macron氏が現地で実際に登壇しましたが、Macron大統領からは、IGFの強化のみならず、同日発表したフランス政府主導の国際的なイニシアティブ「サイバー空間における信頼と安全のためのパリ・コール(Paris Call for Trust and Security in Cyberspace)」の実施をIGFがモニターすべきことや、IGFが国連事務総長直轄となるべきことを主張しました。さらには、違法有害情報の規制や表現の自由、ヘイト・スピーチやネットいじめ、情報へのアクセスやデジタル課税に関する具体的な提案をしつつ、EUの一般データ保護規則(GDPR)をさらに拡大すべきと主張しました。

Laura DeNardis氏がその著書『The Global War for Internet Governance』*の中で述べているように、IGFはもともと、国連がルートゾーンファイルに対する米国の監督権限をなくすことを求めたものの、その勧告を米国が拒否し議論が袋小路に陥ったことを契機に作られたものです。そして、IGFが標榜する「マルチステークホルダリズム」という用語も、米国とICANNの間にある歴史的な関係に対する懸念の代わりになるものとして使われ始めたものです。2016年10月に、IANA機能の監督権限が米国政府からマルチステークホルダー・コミュニティーに移管されて以降、若干方向感を失っていたIGFにおいて、今回のMacron大統領の演説は、「自立・分散・協調」の相互接続ネットワークであり、民間主導のアーキテクチャーであるインターネットに対し、いわば政府の規制を強化すべきという内容でもあり、現地で物議を醸しました。

*ローラ・デナルディス著、岡部晋太郎訳『インターネットガバナンス 世界を決める見えざる戦い』(河出書房新社、2015
年)314ページ。

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ワークショップを主催

12日(Day 1)の午前、メルカリの社会実装を目的とした研究開発組織である「R4D」に所属する中島と小林が、「“The Open, Free Internet” is for EVERY stakeholder」と称するワークショップを主催しました。ワークショップには、欧州委員会、国連教育科学文化機関(UNESCO)、ドイツテレコム、国際NGOのFreedom House、ISOC Uganda Chapter等の多様な関係者が登壇し、オープンで自由なインターネットは、ビジネスや技術発展、各国のデジタル関連政策に至るまで、あらゆる面でキー・プラットフォームとなっていることをアピールしました。

このワークショップは、日本企業が主催したワークショップとしては唯一のもので、かつ提案書の選考プロセスにおいても非常に高い点数を獲得、上位にあったものでもありましたので、非常に多くの方に参加いただき、ワークショップは成功裏に終了しました。
ワークショップの概要、および報告書については、こちらをご覧下さい。

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(中島 博敬、小林 茉莉子、望月 健太)

 

Free or Regulated? サイバー空間をめぐる攻防:第13回インターネットガバナンスフォーラム(IGF) <後編>は以下からご覧ください。

 

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