メルカリUSのPublic Policyが果たす役割(前編)

2024年はメルカリがアメリカ法人(以下、「メルカリUS」)を設立してから10年目の節目にあたります。メルカリUSにも日本法人(以下、「メルカリJP」)の政策企画チームに対応するものとしてPublic Policyチーム(以下、「PPチーム」)が存在することをご存知でしょうか。今回はメルカリUSのPPチームDirectorであるTim Careyに、アメリカでのPublic Policyについて話を聞きました。

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Q> まずはじめに、TimがメルカリUSに参画するまでの経緯を教えてください。

Mercari, Inc.(US)Public Policy Director Tim Carey(以下、Tim)> 私は2020年末にメルカリUSに入社し、現在はPPチームの責任者を務めています。それまでは、ずっとワシントンDCで働いてきました。大学卒業後、2002年から米下院議会で勤務を開始し、Legislative Directorの職も経験しました。議会にいた10年弱の間では様々な案件を担当しましたが、リーマンショック後は主に金融サービスに関する政策立案に注力することになりました。リーマンショックに対応するためのドッド・フランク法やアメリカ金融消費者保護局(CFPB)の制定は今でも思い出に残っています。またアメリカ運輸省や連邦退職貯蓄投資理事会などでも勤務経験があります。

Q> Timは政府の中で約10年勤務した後、議会を離れて民間企業へと活躍の場を移しています。転職の経緯やその後のキャリアを教えてください。

Tim> 議会を離れた後はコンサルティングファームに入社し、コンサルタントとして多くの企業と議会の橋渡し役を務めました。議会に足を運び、議員や立案担当者と議論を重ねました。新しく法律や制度ができる場合には、自分のクライアントの立場を説明するとともに、新法がビジネスに対してどのような影響を与えると考えられるのかを説明しました。私はどの議員に対しても、提案された案を支持するか、よりよいものとなるように改善を提案してきました。

Q> コンサルティングファームで約8年勤務したのち、メルカリUSに参加したのですね。

Tim> そうです。当時メルカリはアメリカでは成長中の企業という感じで、メルカリUSへの参加は非常にエキサイティングだと思いました。また、メルカリのミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」(“Circulate all forms of value to unleash the potential in all people”)にも共感したのです。さらに、サスティナビリティへの対応や、利用者が不用品を売ることで収入を得ることができるというビジネスモデルに高いポテンシャルを感じたのです。

Tim> メルカリのようなビジネスを展開していく上では、テクノロジー関連を所管する連邦取引委員会やアメリカ金融消費者保護局(CFPB)、各州政府と話し合う必要があります。メルカリのビジネスに対しては全米の50州全てが管轄権と利害関係を持っているからです。日本と異なり連邦制を採るアメリカでは、税制や消費者保護、企業オペレーティングなどは各州によって規制が異なるため、連邦政府だけでなく、各州政府との対話が不可欠でした。私たちのビジネスに関心を持ってくれる政府や、税制・市場規制との関係でいくつかの変更を求めてくる政府もありました。ここ数年は非常に忙しかったですが、とてもエキサイティングでしたね。

Q> そもそも日本ではPublic Policyのような部署を設けている企業自体それほど多くありません。アメリカでの状況はどうですか。

Tim> アメリカでは企業の中に政府との対応(ガバメント・リレーションズ)を専門とするPublic Policyチームが設置されているのが一般的だと思います。どの企業も成長するにつれて既存の法制度や規制との関わりを意識しなければなりませんし、政府の政策というのは、ビジネスや企業の成長に大きな影響を与えるからです。

企業と政府の対話は両者にとって利益となるものです。企業側にメリットがあるのはもちろんですが、立案担当者にとっても、規制しようとしているビジネスにどのような影響があるのかを完全に把握するのは難しいです。そのため、ビジネスをよく理解している企業と対話することでより良い政策へと繋げていくことができます。

Q> アメリカでロビイングやPublic Policyを担当するのは、Timのように議会での勤務経験がある人が多いのですか。

Tim> 多いと思います。私たちの仕事は経営幹部と立案担当者の架け橋となることですが、やはり政府での職務経験があって、どのように法改正がなされるのかなど政府の手続きを理解している方がよりスムーズに話が進みます。私たちが、政府とのパイプ役を担当しビジネスへの影響を「翻訳」することに集中すれば、経営幹部は政府に過剰に気を使うことなく経営の執行に注力できるようになると思います。

後編につづく