国連事務総長の提言をどう実現していくか? インターネットガバナンスフォーラム・マルチステークホルダー諮問グループ(IGF/MAG)2019年第一回会合

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2019年1月28日から30日にかけて、スイス・ジュネーブの国連欧州本部(UNOG)にて、インターネットガバナンスフォーラム・マルチステークホルダー諮問グループ(IGF/MAG)2019年第一回会合が開催されました。

今回の会合は、2018年11月にフランス・パリの国連教育科学文化機関(UNESCO)で開催された第13回IGFの振り返りと、2019年11月にドイツ・ベルリンで開催される予定の第14回IGFに向けたさまざまな提案の検討を目的としたものでした。筆者は、MAGの唯一の日本委員として今次会合に出席してきましたので、ご紹介します。

なお、今次会合のアジェンダについては、こちらをご覧ください。

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マルチステークホルダー諮問グループ(MAG)とは?

MAGは、国連事務総長が2006年に立ち上げたものです。IGF年次会合のプログラムの企画立案やスケジュールに関し国連事務総長に助言を行うほか、多岐にわたる会期間活動(intersessional activities)にも従事しています。

MAGの付託事項(Terms of Reference)によれば、MAGは、世界各国のさまざまなステークホルダー・グループ(政府、民間セクター、メディア、市民社会、そして技術コミュニティ)出身の約55名の代表委員によって構成されています。その構成には、地理的代表性や性別のバランスも考慮されていますが、委員の約40%が政府関係者となっています。また、過去のIGFホスト国や国際機関も累次の会合や作業に参加できるようになっています。

MAG委員の任期は原則1年ですが、毎年の評価によって2年まで自動更新可能となっています(任期は最大で3年)。MAG委員の選挙は、改選議席について毎年実施されており、誰でも応募はできます。しかし当選するためには、個々人の経歴や実績のみならず、有力なステークホルダー・グループからの推薦が必要です。また、選挙にあたっては地理的代表性が重視されます。MAG委員は、最終的には国連事務総長によって選出されるため、由緒あるステータスでもあります。

MAG委員になる理由 ー これはひとえに、IGFに関わる活動を主導しコントロールできるところにあります。後述するように、IGFにはまだまだ課題が多いですが、国連の下で開催されるインターネット公共政策課題に関する世界最大の国際会議であり、かつ意思決定権者を含む毎年3,000人程度が参加するものですから、各国のみならず、グローバルなポリシーやルールメイキングに影響を及ぼす高いポテンシャルを秘めています。インターネット公共政策課題に関するグローバルな議論が適切な方向に進んでいくよう、民間セクターとしてもMAG委員になってIGFに関わる活動に積極的に関与していく必要があります(実際、民間セクターからは10名がMAG委員を務めています)。

f:id:merpoli:20190215064600p:plain © A global-good project of Elon University's School of Communications

 

2019年IGF/MAG第一回会合・結果概要

1月28日、IGF/MAG第一回会合の初日は、「オープンコンサルテーション」に割り当てられました。これは、本会合に参加しているMAG委員以外の一般参加者から広く意見を聞くためのものです。事前に実施された意見募集の結果やその結果を分析・統合した文書に言及しながら、2018年IGFの良かった点や悪かった点、2019年IGFに向けた提案等につき、一般参加者から広く意見を聴取しました。

1月29日から30日にかけて、IGF/MAGの本会合が開催されました。主な議論としては、以下のものがありました。

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(1)2019年IGFに向けた取り組み

2019年IGFホスト国であるドイツ政府から、IGF開催に向けた進捗状況について報告があり、IGFをより関連性のあるものとするために何ができるかを、マーケティングやコミュニケーションも含め関係者間で議論しているところであるといった発言や、今年のIGFでは政府関係者のハイレベルセッションのみならず、全てのステークホルダー・グループのハイレベル関係者を含めたセッションを開催する意向がある旨の発言がありました。その後、2019年IGFに向けてどのように改善していくべきか、MAG委員の間でさまざまな議論を行いました。

MAG議長からは、2018年IGFにおけるAntónio Guterres国連事務総長の提言を実施していくためにはどうすれば良いか、IGFの関連性や影響力を高めるためにはどこに注力すべきなのかといった問いかけがあり、国連経済社会局(UN DESA)の関係者からも、MAGは国連事務総長に助言を行うために立ち上げられたのであり、António Guterres国連事務総長の今回の提言に対し解を示す立場にあるといった発言があり、全体として、MAGは国連トップの提言を深刻に捉えて欲しい、有形的な成果を出していくためには何が必要かを考えて欲しいといった強いメッセージが感じられました。

 

(2)デジタル協力に関するハイレベルパネル(HLPDC)

2018年7月にAntónio Guterres国連事務総長が設置した「デジタル協力に関するハイレベルパネル(HLPDC)」における議論の進捗状況について、HLPDCの事務局長であるAmandeep Singh Gill大使(在ジュネーブ軍縮会議インド政府代表部)から報告がありました。ちょうど今回のIGF/MAG・2019年第一回会合の直前に、HLPDCの第二回会合が開催されたことに触れつつ、第二回会合の様子や、現在は1月31日に締め切られた意見募集の結果を精査している状況で、6つの分野(①デジタル公共財、②データ、③包摂性、④安心・安全、⑤価値・原則、⑥ガバナンス)においていくつかの勧告を出すべく検討を続けている、おそらくもう一度会合が必要となるかもしれないといった発言がありました。

 

(3)会期間活動(intersessional activities

ベストプラクティスフォーラム(BPFs)コネクティビティーに関するプロジェクト(CENB)ダイナミックコアリッション(DCs)といった会期間活動についても今次会合で議論が行われました。このうちBPFsについては、2018年に承認・実施された4つのテーマ(①人工知能(AI)・IoT・ビッグデータ、②サイバーセキュリテイ、③ジェンダーとアクセス、④ローカルコンテント)を2019年も継続すべきかにつきMAG委員の間で検討されました。この他、国別・地域別イニシアチブ(NRIs)についても報告・議論が行われました。

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© United Nations Internet Governance Forum

 

次回会合に向けて

次回2019年第二回会合は、2019年世界情報社会サミットフォーラム(WSIS Forum 2019)の期間中である4月9日〜11日にかけて、スイス・ジュネーブの国際電気通信連合(ITU)で開催されることになりました。もちろん、それまでに定例のIGF/MAG国際電話会議が累次開催予定です。

今次会合の後半で最も議論になったものは、MAG議長が、IGFをよりまとまりがあり焦点を絞ったもの(cohesive and focused)とすべく、関心事項の募集結果分析が発表される前に、3つのカテゴリーを定めようとしたことです。その3つのカテゴリーは、①包摂性、②データガバナンス、③安心・安全が挙げられたのですが、広くコミュニティから関心事項を募集したにもかかわらず、その結果に沿わずにこの3つのカテゴリーごとにナラティブを定めテーマやサブテーマ等を決めようとすることについて、懸念を示す声が相次ぎました。結果的に、関心事項の募集結果を踏まえながらこの3つのカテゴリーの内容を詰めていく形になったのですが、筆者が会合で発言したように、「cohesive and focused」の定義・意味やIGFの付加価値(added value)を十分に議論することが先で、このような拙速な進め方が果たしてIGFプロセスの改善につながるのか不明です。 

この他、今後ワークショップ提案書の募集が開始されますが、その評価・選定プロセスについても改善すべき点がないかについても議論が行われ、ワークショップの評価に関するMAGのワーキンググループ(MAG WG on Workshop Evaluation)で、昨年の報告書と勧告を踏まえた上で今後検討されることになりました。

今年は日本がG20議長国を務め、G20貿易・デジタル経済大臣会合も茨城県つくば市で開催される予定になっています。そのため、今年のIGFは日本がデジタル分野におけるG20の成果を披露できる場にもなるため、日本の官民セクターがプレゼンスを示すことができるIGFとなるよう、MAGの日本委員として今後も尽力していきます。

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(国連欧州本部建物内(2017年IGFの際、欧州議会議員と意見交換を行った場所))

(望月 健太)

 

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