【3.11から10年の福島県川俣町】(職員が語る)変わらない川俣町の魅力

 

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3月11日で、東日本大震災から10年が経過しました。

そこで、メルカリ政策企画チームでは、「被災地のこれまで、今、そしてこれから」を紹介していきます。

1回目の今回は、福島県川俣町です。

川俣町は、福島市の南東に位置し、里山に囲まれ町の中心部に広瀬川が流れる自然豊かな町で、人口は約13,000人です。

現在でも絹織物業が盛んで、古くは飛鳥時代に崇峻天皇の后「小手姫」様から持ち込まれたと言われており、江戸時代に全国有数の絹の生産地となった場所です。この絹織物は、明治時代には国の一大輸出品にもなりました。

この10年どう過ごし、どう未来を描いているのか、川俣町企画財政課の橋本 卓哉(はしもと たくや)さんにインタビューしました。

 

f:id:merpoli:20210312190400p:plain川俣町 企画財政課 橋本 卓哉さん


メルカリ・横山(以下、横山)> 今回、メルカリ寄付にご参加いただけることになったほか、これをきっかけに今後も連携していきたいと思っており、川俣町のことを情報発信できればと思っています。


東日本大震災の影響(2つの災害、コミュニティの分断とコミュニティの維持)


横山> 今年の3月11日で、東日本大震災から10年を迎えました。これまで大変なご苦労もあったと思います。川俣町にとって、この震災は、どういうものだったのでしょうか。


川俣町 橋本さん(以下、川俣町)> 想像もつかない、とてつもなく大きな地震でした。震災と言っても、「地震災害」と「原子力災害」があり、地震により建物・道路などに大きな被害がありましたが、その復旧は順調に進捗し、現在では元の状態に戻っています。

原子力災害も、除染(地表に降り注いだ放射性物質を取り除く作業)により線量も下がり、安全・安心に暮らせる環境となっています。また、徹底した検査により農産物等の安全も確立されています。しかしながら、原子力災害は目に見えない災害であり、人々の心には影響が残り続けています。

川俣町は山木屋地区に避難指示が出されました。2017年3月31日に避難指示は解除されましたが、住民帰還が進まず、帰還しないことを決めた方も大勢いらっしゃいます。避難指示が出た山木屋地区が元通りなるのは難しいだろうと、10年を経て改めて思います。

また、避難は、地域がばらばらになり、一つの家族でもばらばらに避難するケースもありました。そのため仲の良かった近所づきあいがなくなり、故郷に戻るかどうかの意見が家族の中でも分かれるなど、「心の分断」が発生し、それが今なお癒えていないこともあります。その点が大きな課題です。


横山> 住民の皆さんの帰還が進まず、また、「もう帰らない」と決めた方も大勢いるとのことですが、発災前に比べて、現在はどのくらいの人が帰還されているのでしょうか?


川俣町> 発災当時は1,252人が山木屋地区に住民登録しており、全員が避難しました。現在の住民登録数は722人であり、その中で帰還された方は342人です。


横山> 「心の分断」、それを癒やすことの重要性についてお話がありましたが、「心のケア」等、町に戻ってきていただくために取り組んでいることはありますでしょうか?


川俣町> 2017年3月31日に避難指示が解除されるまでの6年間は、戻りたくても戻れませんでした。その間は、避難されていた方同士のコミュニティを維持するため、定期的に集まりを持ち、隣近所に住まわれていた方々の交流を促進して心のケアにつなげるといったことを継続していました。

避難指示解除後も、引き続き避難されている方と戻られた方が交流する機会を設けています。山木屋地区で夏祭りを実施するなど定期的にイベントを開催していましたが、最近はコロナの影響で自粛を余儀なくされています。


横山> 震災後、建物などの復旧は順調に進んでいった一方で、住民の皆様の心のケアにご苦労されていたことが分かりました。


川俣町の魅力(豊かな固有の文化、盛んなスポーツ、伝統工業の絹織物)


横山> 震災以降も変わらない川俣町の魅力があると思います。メルカリ寄付に参加いただくこともあり、町の紹介を兼ねて、魅力をご紹介ください。


川俣町> 川俣町には固有の文化があり、そこが魅力だと思います。

例えば「コスキン・エン・ハポン」。毎年10月上旬の3日間で180組を超える演奏グループが代わる代わるフォルクローレを演奏するイベントです。開催される際には、会場となる「中央公民館」に全国からフォルクローレの愛好家が集います。昨年はコロナの影響でオンライン開催となりましたが、1975年から続いているイベントです。

f:id:merpoli:20210312190553p:plainコスキン・エン・ハポン


また、川俣シャモも大変有名です。1983年から研究が始まった特産品で、福島県ブランド認証地鶏になっています。深みのあるコクと弾力ある肉質が特徴で、肉用鶏では国内初となるJGAP団体認証を取得しています。川俣シャモの取扱店は多く、有名シェフにもご愛用いただいております。また、道の駅かわまたには、川俣シャモを丸ごと堪能できる専門レストラン「shamoll(シャモール)」があり、普段は味わうことが難しい希少部位を使った料理も食べることができます。

「川俣シャモまつり」も年に2回、福島市(4月下旬)と川俣町(8月下旬)で開催しています。川俣シャモまつりin川俣では、川俣シャモ1羽を丸ごとパイプに挿して、100羽くらい(60m)を一度に焼いています。一度に焼く羽数を毎年増やすチャレンジもしており、現在の記録は106羽です。会場では、丸焼きや焼き鳥、親子丼など、シャモを素材とした料理をふるまい、フォルクローレや山木屋太鼓の演奏も楽しんでいただいております。

f:id:merpoli:20210312190651p:plain川俣シャモの焼き鳥


山木屋太鼓は、山木屋地区にて2001年に結成された和太鼓の演奏団体です。 結成以来、故郷の自然をテーマに曲を創作し、太鼓の演奏活動を行っています。原発事故により故郷の山木屋地区は避難区域となり、打ち手も方々での避難生活を余儀なくされました。しかし、地域の存続のために自分たちも頑張らねばという思いで活動を継続し、和太鼓演奏を通じて、避難者と地域を繋ぐとともに、復興に向けて力強く立ち上がろうとするメッセージを発信し続けてくださいました。

f:id:merpoli:20210312190725p:plain山木屋太鼓の活動


町には花塚山という里山がありますが、実はこの山は富士山が見える北限の山になります。実際、富士山を肉眼で見ることはできませんが、その姿を写真に収めることに成功しました。

この写真撮影にはドラマがありました。地球は丸く、富士山までの間にも様々な山がありますので、富士山が見える場所には限界があるのですが、花塚山から富士山が見えるというシミュレーションが元々ありました。そのシミュレーションに基づき、写真撮影にチャレンジし続けた方が3名おり、7年間におよぶチャレンジの末、ついに308km離れた富士山の撮影に成功したものです。

f:id:merpoli:20210312190746p:plain花塚山から撮影された富士山


震災以降の挑戦として、アンスリウムという花の栽培も行ってきました。元々は南国の花ですが、東北でも比較的涼しい地域での栽培でありながら、事業性を持って栽培することに成功しました。アンスリウムは、土を使わないポリエステル媒地により栽培しており、震災直後から町の復興を支えてくれている近畿大学の全面的な支援により実現できたものです。アンスリウムはハート型の花のかたちが特徴で、赤、ピンク、紫、緑、白など色はバリエーションに富み、花もちの良さから人気があります。

f:id:merpoli:20210312190811p:plainアンスリウム


最近では「前田遺跡」という縄文時代の遺跡の発掘が進んでいます。前田遺跡には4千数百年前の縄文人のくらしが眠っており、朱色が鮮やかに残っている漆塗りの器など多数の漆製品が出土しています。これまでの縄文時代の世界観を一変させるような大変貴重な出土品が出ていますので、今後の調査の進捗とその報告を楽しみに待っています。

f:id:merpoli:20210312190839p:plain前田遺跡


他にも川俣町ならではのものがたくさんあります。川俣町へ足を運んでいただいて、「ならではのもの」を見ていただき、また川俣シャモを食べて、といったことを皆さまにしていただけるように心がけて取り組みを進めています。


横山> 他の自治体にはない個性的な文化が根づいていますね。
そういえば、田んぼスケート、フェンシング、ロードレースといったスポーツも盛んだと聞きました。そうしたことも魅力の一つですね。

f:id:merpoli:20210312190902p:plain町内のフェンシング大会


川俣町> 1995年に福島国体があり、川俣町がフェンシング競技の会場となりました。それをきっかけに力を入れるようになりました。地元の小中学校の子どもたちがスポーツ少年団で活動し、中学校にはフェンシング部もあります。現在では国体に出場する地元出身の選手も出てきています。近々オリンピック選手が出てくることを期待しています。

田んぼスケートは、山木屋地区の田んぼに水を張ってつくる天然のスケートリンクです。1月になると、地域の方が夜中の2時頃から水を張って、氷を調整し、地元の子どもたちがスケートを楽しんでいます。

ロードレースも毎年6月に開催しています。遠方の方にも大勢参加いただいています。


横山> 川俣町と言えば「川俣シルク」ですよね。


川俣町> 川俣町は絹織物とともに発展してきた町です。町に文化的に残っているものは、必ず何かしら絹織物に関係しています。例えば、川俣シャモは、機屋の旦那さんが趣味で行っていた闘鶏のために飼われていた軍鶏(シャモ)がルーツになっています。また、現在でも機屋さんが数件残っており、良質なシルクを提供し続けています。

その中で「フェアリー・フェザー」というものがあります。これは川俣町発で作られたもので、髪の毛の約6分の1の太さしかない超極細の絹糸で織り上げられ、非常に薄くて軽やかなシルクです。

シルクは元々光沢のある素材で、光の加減では七色に輝く魅力あるものです。主にストール、スカーフ、ウェディングドレスなどに使われています。

また、昔ながらの「水織り」にこだわりシルクを織り上げている事業者もいます。「水織り」は、織り込む前段階に生糸を水にくぐらせ、織り込んでいくものです。この織り方をすると織目がきれいに整うため、質の良い生地が出来上がります。こういった機屋の工場見学も可能です。


横山> 魅力的なイベントや文化・芸術についても力を入れていると分かりました。新型コロナウィルスの感染拡大が落ち着いたら皆さまに足を運んでいただきたいですね。

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川俣町の抱える課題(少子高齢化、移住・定住促進)


横山> これからの川俣町を考える上では、課題もあると思います。


川俣町> 一番の課題は少子高齢化です。震災をきっかけに多くの若い世代が町外に出ていってしまいました。その影響で出生数もぐっと少なくなってしまいました。少子高齢化は、震災前からあった課題ではありますが、震災を契機として一気に加速しました。以前は、働きたくとも仕事がありませんでしたが、今は仕事があっても働く人がなかなか見つかりません。地場産業も労働者の確保に苦労しています。これに対して、今までは町の中で何とかせねばと思っていましたが、町の中の取り組みだけでは限界を感じています。以前にも増して、町外の方の移住・定住に目を向け、町外との連携も必要だと思っています。コロナによる生活スタイルの変化により、サテライトオフィス、テレワークなど働き方も変わる中、交流人口・関係人口の拡大、移住・定住により、地場産業の育成や発展に関わる人をいかに確保できるかがポイントだと思っています。


これからの川俣町


横山> 今後の町の発展に対する思いをお聞かせください。


川俣町> 町に根付いているものはどこかに良さがあるからと思います。その良さを伸ばしていきたいと思います。一方で、そこだけにこだわらず、新しいことにも挑戦していきたいです。


横山> 川俣町は将来に向けて活発に動かれている自治体だと思います。例えば、ヒュッテファームの設立による農地保全や、商業施設「とんやの郷」のオープンによりコミュニティの発展を進めていると伺っています。また、近畿大学との協定など新しい事にもチャレンジされていると思います。


川俣町> ヒュッテファームは、比較的若い世代が中心となって、山木屋地区で大規模・省力な土地利用型の農業を展開しており、農地の集積を通じた耕作放棄地の解消、農地の保全にもつながるありがたい取り組みです。現在は飼料作物の生産を主としていますが、これからは米の生産も展開していく予定で、力強さを感じています。
現在では、個々の農家の取り組みだけでは厳しくなってきている状況です。農業法人に人が集まり、事業を拡大していくようなことも支援していきたいと思っています。

f:id:merpoli:20210312191024p:plainヒュッテファーム

f:id:merpoli:20210312191052p:plainとんやの郷


とんやの郷は、山木屋地区の拠点施設であり、人が集い、食事や買い物ができる場所となっています。ただ、山木屋地区の人だけの利用ではもったいないし、賑わいや交流の幅も広がりません。今後はさらに、とんやの郷を中心として山木屋地区の農業、例えばトルコギキョウやアンスリウムの花をテーマとして観光化し、そこに人が集まるような仕掛けづくりもやっていきたいと思っています。

f:id:merpoli:20210312191117p:plain道の駅かわまた


町には道の駅もあります。そこには町の織物の歴史がわかる「織物展示館」、織りと染めを体験できる「からりこ館」、町の特産品を買うことができる「銘品館シルクピア」、川俣シャモを食べられる専門レストラン「shamoll(シャモール)」があります。そこを訪れていただくことも町の良さを知っていただくきっかけになると思っています。


横山> 私はとんやの郷に興味があります。最近では、バイク乗りの撮影会も夏に開催されていたと伺いました。また、施設の近くには田んぼスケートリンクがあり、それを活用したイベントもあったと伺っています。コミュニティづくりにとても良い施設だと思っています。

メルカリでは、メルカリ教室を開催しています。そうした活動も、コミュニティの再生に貢献できると思います。例えば、とんやの郷でメルカリ教室を開催することも考えられます。川俣町を訪れた際には是非とんやの郷に足を運んでみたいと思いました。

f:id:merpoli:20210312191159p:plainメルカリ 横山


メルカリ寄付の活用について


横山> 3月11日から川俣町のメルカリ寄付を通じた寄付がスタートしました。メルカリ寄付をどのように活用していきたいか、また、メルカリに対する期待をお話ください。


川俣町> メルカリ寄付で寄付いただいたお金は、復興事業に使わせていただきます。山木屋地区のコミュニティを維持するための事業も継続しなければなりません。そうしたところに優先的に使わせていただきます。

また、メルカリの「誰かにとって不要になったモノが、他の誰かの役に立つ」取り組みは、SDGsにつながるすばらしい取り組みと思っています。「モノを大切にする」ことは、メルカリの事業に見習う部分があると思います。メルカリ寄付への参加が、「モノを大切にする」ことを町でも考えていくきっかけになればと思います。


横山> ありがとうございました。メルカリ寄付が復興の一助になれば幸いです。また、メルカリとしても、今後、町のお役に立てることがあると思っています。
川俣町の魅力をたくさんお伺いできましたので、コロナが落ち着き、訪問できるようになれば是非一度お伺いしたいと思います。

 

 メルカリでは、今後も川俣町とも連携させていただき、メルカリ教室の開催や、教育プログラムを提供して実施をしていくことで、さらなる復興のお手伝いができればと思っています。

インタビューでもご紹介したように、川俣町は、3月11日より「メルカリ寄付」の寄付先に加わりました。

ご自宅に役目を終えたもの、お使いになっていないものなどございましたら、是非、「メルカリ」に出品し、この「メルカリ寄付」を使って、全国の皆さんの思いを川俣町に届けていただければと思います。

(岡本 洋平)

 

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 横山 竜一 (Ryuichi Yokoyama)

メルカリ会長室政策企画。2020年4月より1年間、岐阜市からの派遣研修としてメルカリ政策企画に加わる。岐阜市には1999年4月に入庁し、主に福祉部局にて管理部門を担当。派遣直前は秘書課にて秘書業務を担当。メルカリでは、自治体経験を活かし、主に自治体連携の取り組みやメルカリ寄付を担当