8月27日、メルペイが「AI与信」(後述)を活用する「認定包括信用購入あっせん業者」の第1号として、経済産業大臣より認定を受けました。
「認定包括信用購入あっせん業者」とは、今年の4月1日より施行された、令和2年度改正割賦販売法(以下、改正法)によって創設された新しい制度です。
同制度の創設により、今後、「AI与信」を活用したサービスが、クレジットカード、SNS、ECモール等でますます拡大すると考えられます。
当記事では、この「認定包括信用購入あっせん業者」について、法令・規定や経済産業省の関係資料をもとに、そのポイントをキャッチアップしていきたいと思います。
改正の概要(割賦販売法の一部を改正する法律について (令和2年法律第64号))
令和2年度改正割賦販売法の概要
改正法の概要は、以下のようになっています。
経済産業省「割賦販売法の一部を改正する法律について(令和2年法律第64号)」1ページの一部を抜粋
近年の情報技術の進展を背景とした「認定包括信用購入あっせん業者」と「登録少額包括購入あっせん業者」の創設が改正の柱となっています。
法改正に際しては、割賦販売小委員会にて、テクノロジーの発展によって生まれた「高度なリスク管理手法を活用したサービス」に対応する規制のあり方が検討されました。
この割賦販売小委員会には、メルカリグループから「関係メンバー」として、青柳直樹 株式会社メルペイ代表取締役が参加しています。
また、第21回の会合では、吉川徳明 政策企画マネージャー(当時)が「後払いサービスの健全な発展に向けて」と題して、以下のようなプレゼンを行いました。
「プレゼン資料(吉川メルカリ政策企画マネージャー)」19ページ
同プレゼンの資料全体は経済産業省のWebページで公開されています。
従来からの「包括信用購入あっせん」制度
クレジットカードをはじめとした後払いサービスを提供する事業者は、「包括信用購入あっせん業者」として登録を受け(法31条)、「包括信用購入あっせん」制度(改正法でも存続)の枠内で与信を行なっています。
メルペイも「包括信用購入あっせん業者」の登録を受けており、これによって「メルペイスマート払い」のサービスを提供してきました。
同制度では、極度額(後払い等の上限額)が30万円以下であるなどの一部例外を除き、原則として「支払可能見込額調査」が必要となります(法30条の2)。
「支払可能見込額調査では、調査事項、調査方法(指定信用情報機関の信用情報の使用義務等)及び算定方法が一律に規定されてい」ます。(割賦販売小委員会)。
すなわち、サービス提供者は、法令上、サービス利用者の年収、クレジット債務の額、及び、世帯人数・住居状況などの情報(割賦販売法施行規則(以下、規則)45条1項)を確認し、これらの情報を基に与信審査を行うことを義務付けられています。
割賦販売小委員会最終報告書7ページの一部を抜粋
「認定包括信用購入あっせん業者」の概要
「認定包括信用購入あっせん業者」は、「利用者の支払実績等の膨大なデータに基づいて、各社の創意工夫により与信審査を行う」(経済産業省)ことを可能にする制度です。
①利用者の支払い実績等の膨大なデータに基づくこと、及び②各社の創意工夫を可能にした新しい制度であるという点がポイントとなっています。
各社がサービスを提供する中で取得する膨大なデータ(ビックデータ)に、機械学習等の高度な分析手法を用いて形成されたモデル(AI)による与信審査を行うことから「AI与信」とも呼ばれています。
「認定包括信用購入あっせん業者」は、先述の支払可能見込額調査が不要となり、各社の技術によって算定した「利用者支払見込額」によって与信審査をすることができるようになります(法30条の5の4)。
経済産業省「割賦販売法の一部を改正する法律について(令和2年法律第64号)」2ページ
「認定包括信用購入あっせん業者」の認定・運用
「認定包括信用購入あっせん業者」の認定の基準は以下のようになっています。
経済産業省「割賦販売法の一部を改正する法律について(令和2年法律第64号)」3ページの一部を抜粋
①利用者支払可能見込額の算定の方法、及び、②算定を行う体制が認定の基準となっていることがわかります。
さらに、①利用者支払可能見込額の算定の方法は、「利用者の支払い能力に関する情報を高度な技術手法を用いて分析すること」が要件となっています。
同要件について詳細を定める規則62条1項は、以下のように、延滞率を適切に管理することをサービス提供者に義務付けることで利用者(消費者)の保護を図る建付けとなっています。
延滞率の管理状況等は、経済産業大臣への定期的な報告(法30条の5の5第4項)や経済産業省が不定期に実施する検査等を通して、チェックを受けます。
経済産業省「割賦販売法の一部を改正する法律について(令和2年法律第64号)」3ページの一部を抜粋
加えて、規則62条1項2号では、情報の利用について「不当な差別、偏見その他の著しい不利益おそれがあると認められる方法により利用していないこと」を定め、「例えば、特定の信条を有することのみをもって与信を拒否するよう算定の方法を構築すること」を禁止しています(経産省「割賦販売法に基づく経済産業大臣の処分に係る審査基準等について」(別紙5)43ページ)。
過剰与信の防止と適正な情報利用の両面から消費者の保護を図る制度設計になっています。
まとめ
「認定包括信用購入あっせん業者」制度によって、従来の「支払可能見込額」とは異なるもう一つの基準、各社のビックデータと高度な分析手法を用いて最適化された基準を用いて与信審査を行うことが可能となりました。
次週は、同制度の認定を受けた、メルペイの後払いサービス「メルペイスマート払い」における「AI与信」についてご紹介したいと思います。