「インパクトレポート」✕「ESG経営」と社会に伝えたい思い

メルカリは、2023年9月21日にインパクトレポートを公開しました。そこで、レポート発行のチームを管掌するメルカリ執行役SVP of Management Strategyの河野 秀治(以下、河野)にインタビューを行いました。

メルカリ執行役SVP of Management Strategyの河野 秀治、写真:石川 真弓

 

インパクトレポートが「ESG経営」で果たす役割

今枝 由梨英 メルカリ政策企画マネージャー(以下、今枝)> メルカリは循環型社会を実現するためにESGを重視した経営を目指していますが、今回のインパクトレポートがESG経営との関係で果たす役割や位置づけはどのように考えていますか。

 河野> メルカリのESG経営は、社会からの要請に従ってというよりも、端的にビジネスを「グロース」させるためにやっています。僕らにとってESG経営とはミッション達成までの道筋を描いているロードマップそのものです。ESG経営を行うことで事業を成長させ、利益を出し、それを成長投資に回してさらなる成長を行う。ESGは、ミッション達成を目指す、つまりビジネスを伸ばすために必須なものとして推進しています。

レポートが果たす位置づけについては、まずミッションはメルカリだけで達成することが難しいというのが前提にあります。メルカリやリユースの市場が持続して発展するためには、取引先等のバリューチェーンやお客さま、行政や社会といった関係する方々と思いを同じくすることが欠かせません。今回のインパクトレポートはそのために社会に影響を与えていくためのツールという位置づけになります。社会構造の問題やジレンマに対して、みんな一緒に頑張っていこうよ、というメッセージに近いですね。

 

メルカリらしい人的資本経営が果たす役割

今枝> 今回のレポートでは、社内の男女間賃金格差の中で「説明できない格差」が7%あることや、報酬調整を実施して2.5%まで改善したことなどが初めて開示されました。こういった数字を開示した意味は非常に大きかったと思います。ここにも、社会に対して現状を明らかにしてメッセージ発信しようという意図があったのでしょうか。 

河野> 私達が普段行う「業務の振り返り」と同じで、現状どこまで行っていて、何が足りなかったのか、そして今後はどういうことをやっていこうかという、結局はそういうことに尽きると思います。通知表みたいなもので、現状を図るには定量的な切り口が必要です。それを積極的に開示することで他の人たちが考えるきっかけになればとも思いますし、我々もどうすればいいのかと考えるきっかけになることを期待しています。

今枝> インパクトレポートを作っていく中で、議論があって、まとめるのに大変だったところはありますか? 

(出典)メルカリ「FY2023.6 Impact Report」p.43より

河野> 一番は先程出た男女間賃金格差の分析結果の数値です。分析結果をどのように開示していくのか、そもそも開示するかどうか、さらにそのギャップが生まれた理由についてどう言及していくかという点で議論がありました。特にギャップの理由については、結局は社会構造に行き着くとは思うのですが、それをあまりネガティブに受け止められたくないと思う一方で、それでもやはり向き合っていくべき社会の課題だと思います。この件は、真正面から議論していくことが必要だと考えました。 

今枝> 発表後、どのような反応がありましたでしょうか。

河野> ありがたいことにレポートの内容全体に対して反響はありました。自己開示して変えようとする姿勢を評価していただいたのだと思います。男女間の賃金格差にしても、一企業が一石を投じるというのはやっぱりすごく勇気のいることです。これに関してはポジティブな声が沢山集まりました。

また、この件に関しては社内でもいろいろ考えや思うところがあったと思います。でも、こういう、メルカリはやっぱり「Go Boldだよね」と改めてくれるきっかけにもなると思います。社内を一体化させるためにも、公表したのはすごく大きかったと改めて思います。

今枝> メルカリっていいねという感想も社内で見かけました。

河野> メルカリにはまだまだ不十分なところはたくさんありますが、問題があるのであればいつかは解決される会社だなとは思います。仮に今日は暗かったとしても、明日は明るいっていうのを見せてくれる会社にしたいと思います。

 

「中長期にわたる社会的な信頼の構築」を目指して 

今枝> マテリアリティ04「中長期にわたる社会的な信頼の構築」では、自治体等との連携の他にも、安心・安全・公正な取引環境の実現のための一次流通の方々との連携や、不正対策など様々な取り組みをしています。

河野> メルカリは安全・安心で簡単に使える環境を提供することをとても大事にしていて、これまで大きな投資をしてきました。有識者や一次流通の方々との協力を得ながら、安心・安全な環境を作っていくことにはこれからも注力していきます。

 

わかりやすく、見える化を目指して

今枝> 昨年度のレポートでは初めて衣類取引の削減貢献量をポジティブインパクトとして算出、開示しました。今年のレポートに記載されていたメルカリでの直近1年間の衣類取引によって、約53万トンのCO2排出量が回避できたことは驚きでした。

河野> 作り手は自分の製品を長く使ってほしいと思っているでしょうから、最初に買った人が一定期間使用して必要でなくなったとしても、次の必要としている人のもとへと、使ってもらう期間が積み重なっていけば、作り手も作り甲斐があったと思います。一次流通の人たちには経済的なフィードバックもできればいいと思います。これが現在立ち上げ中のリコマース事業の根底にある考え方です。

※リコマース:「循環型社会の実現と経済成長の両輪を目指す新市場“リコマース”を研究する「リコマース総合研究所」設立

今枝> 今年からは、衣類取引だけでなく、電子機器類や書籍類など取引ごとのCO2削減量が算出・開示されました。これにより、削減貢献量もかなり数字が充実してきていると感じます。今後、どういうところに数値化・見える化をしていくべきだと考えていますか。

 河野> 削減貢献量の算定カテゴリーの拡大も重要ではありますが、一人ひとりの肌感覚にあった数値にしていくことも重要だと思います。例えば、「CO2が◯kg削減!」と言われても、ピンと来る人は少ないと思います。もっとわかりやすく、自分たちのアクションがどういうことと同じなのかという感じでわかるとイメージが湧きやすくなると思います。CO2排出量などは投資家にとっては定量的に重要な数字かもしれませんが、一人ひとりのみなさんの具体的なアクションにつなげることを考えるともっと工夫の余地があると思います。

今枝> 一人ひとりの行動のきっかけにつなげるということですね。

河野> 循環型社会推進の際のボトルネックの一つとして、例えば自治体が粗大ごみの処分に困るということがあると思います。今は、自治体に一度集まった粗大ごみを「メルカリShops」で販売していますが、将来的には自治体に集まる前にメルカリに消費者から出品してもらえるとより良いと思います。

今の状況は、一度回収するという意味で自治体への負担になっていますし、消費者が粗大ごみを出すにもお金がかかることもあります。そのため、自治体に集まる前に消費者から出品していただければより「捨てるをへらす」ことにつながります。

そのためには、出品のしやすさにはとことん追求していきたいですね。

寄付も出品を増やすきっかけになると思っています。出品や配送には多少なりとも負担はある一方で、売上の一部を寄付できるならと出品してくれる方や、多少割高でも寄付になるならと買ってくれる方もいると思います。

今枝> 捨てなくて済んだという以外に、災害や貧困に対し貢献できたという2つの良いことをした気持ちになりますね。自治体連携についても、「メルカリShops」での販売は新しい取組みなので中々自治体としても動きにくい所はあると思うのですが、多くの自治体が興味を持ってくださっています。自治体にとっても粗大ごみについては削減したいという思いや最終処分場の容量など、課題意識をもたれていたのだと思います。

河野> 政策企画が行っている施策は、ロビイングなど対政府なものが目立ちますが、自治体連携や寄付、環境の日のイベントなど、BizDevというかマーケターっぽい所がありますね。世の中の課題やニーズを見つけて、メルカリがなにができるかを考えてサービスを作っていく、そのためには、ビジネス感覚が求められるのだと思います。

今枝> ありがとうございます!チームに伝えます。

最後に、来年以降のインパクトレポートについて、今考えていることを教えてください。

河野> 将来のビジョンを示すことも大事ですが、達成したことをハイライトし、着実に階段を登っていることをみんなで確認する機会にしたいです。また、一年間の試みでこのくらいのことがやれたんだということを社会に示すことによって、自分たちもやりたいと思ってもらえたら、本当に嬉しいですね。

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プロフィール

河野 秀治(Shuji Kawano)

メルカリ上級執行役員 SVP of Management Strategy。ライブドアの投資銀行部門、ゴールドマン・サックス証券とSBIホールディングスによる合弁の投資ファンドを経て、戦略コンサルティング会社である経営共創基盤(IGPI)に入社。その後、起業も経験。さらにGunosyの経営戦略室長として上場を経験したのち、2018年7月メルカリ入社。2019年10月執行役員VP of Strategy、2020年9月上級執行役員 SVP Strategyを経て、2021年11月より現職。

 

インタビュワー

今枝 由梨英 (Yurie Imaeda)

メルカリ経営戦略室政策企画マネージャー。2010年、日本銀行入行。経済産業調査、新日銀ネットシステムの企画、大手金融機関のモニタリングやビジネス分析、アジアの中央銀行との金融政策や金融協力にかかる国際連携に従事。オックスフォード大学経営学修士(MBA)。2021年に株式会社メルカリに入社し、主にマーケットポリシー、消費者行政に関する渉外や、循環型社会の推進をするための連携施策に取り組む。