【日本財団 笹川 専務理事インタビュー前編】メルカリと連携して生まれた新しい寄付のカタチ

メルカリと日本財団は、2021年春に提携し、これまでに「メルカリ寄付」や「寄付型梱包資材」、「メルカリ寄付 かんたん寄付設定」などによる寄付や、「メルカリエコボックス」によるリユース推進やごみ減量の取り組みなど、様々な連携を行ってきました。こうしたメルカリと日本財団による取り組みのキーマンである笹川順平 専務理事にこれまでの取り組み、そしてこれからの可能性について、話を伺ってきました。

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日本財団と「メルカリ寄付」で実施した能登半島地震支援

メルカリ政策企画参事 高橋亮平(以下、高橋)> 日本財団とは、この間、様々な連携をさせていただきましたが、とくに、昨年の1月1日に発生した能登半島地震では、直後からお互いに連絡を取り合い、翌日の1月2日から「メルカリ寄付」での寄付の受け入れを開始し、2日間で5,000万円もの寄付を集めることができました。その後も、7月には東北地方の大雨災害への支援、9月には能登地方の大雨災害への支援などでも連携し、昨年だけで日本財団に1億3,000万円以上の寄付が集まりました。こうした多くの皆さんの思いが「メルカリ寄付」や「メルカリ寄付 かんたん寄付設定」を通じて寄付金として集まったことに、日本の底力と寄付の大きな可能性を感じました。こうした取り組みに対し、感じたことがあればお聞かせください。

公益財団法人 日本財団 笹川 順平 専務理事(以下、日本財団 笹川 専務)> まず思っているのは、1月1日に地震が発生し、その時点で「何かしなければ」「何とかしたい」と動いたメルカリが凄いということです。メルカリは、僕らが持っていないプラットフォームを持っており、このような災害がおきた際に、あのスピード感で「何かできないか」と問い合わせていただいたというのは、我々にとっても同志がいるような感じで、非常にありがたく嬉しく思いました。

寄付について僕らが注目してるのは、金額よりもむしろ約28万件という寄付件数です。この数字が持つ意味は非常に大きくて、単純に考えると、震災を受けた能登ために430人に1人以上の個人が動いたということになり、これは本当に凄いことです。それは僕らにとっても驚きでしたし、可能にしたのは、お客様に信頼されているメルカリのシステムを仕組みとして動かしている強さだと思います。

年末に、出品時に販売利益の何%を寄付するかを決められる「メルカリ寄付 かんたん 寄付設定」の仕組みができたということも、タイミングが良かったです。

売上の一部だけでも社会に還元されるのであれば「メルカリ」で売ってみようという潜在層が、このCtoCの仕組みの中にものすごいボリュームでおり、社会貢献という一つの切り口になっていると考えています。

年末に新たなシステムができて、その直後に災があって、メルカリの動きの速さや我々とのコンビネーションでそのシステム活用にすぐに移行できたという一連の流れのどれが欠けてもダメな重要なアクションだったと思います。

「メルカリ寄付 かんたん寄付設定」の5%・10%・50%・100%という寄付割合もすごく分かりやすくていいですよね。これまで寄付をしてこなかったスターターの方々にも、「一番下の5%なら寄付してみようかな」と思わせるし、「1,000円のうち100円だったらいいか」など、寄付をしようと思わせる要素を、寄付割合の4つのチョイスの中に入れているのがすごく深いなと感じています。簡単設定ではあるけど、きちんと自分の気持ちを考えさせて、ポチッと自分で行動させるという仕組みになっているのが、非常によくできた仕組みだと思います。

日本財団とメルカリで連携を行って4年間ですが、毎年ものすごく進化している印象です。

 

寄付件数に大きな価値。若い人たちが寄付してくれることにも可能性

高橋> 笹川さんは、連携を開始した時から「寄付件数が重要だ」ということを話されていて、特に今まで寄付してこなかった層や若い人の寄付をすごく意識していたと思いますが、日本財団にとってもそのような層へのアプローチは新たな取り組みとなってきていますか。

日本財団 笹川 専務> 20代や30代の人たちは一番お金に敏感な年齢だと思っています。その人たちが生活があるにもかかわらず、10円、100円、1,000円と寄付するということは、お金をたくさん持っている人や貯めてきた人が10,000円払うのとはまた異なる、数字にはならない価値があると感じています。

「自分で考え判断して、寄付する」という経験をした20代30代の人たちというのは、たぶん様々なところで行動の幅が広がると思います。

どこか社会から認められているように感じられるということは、とても大事なことなんですよね。若い世代の皆さんにもこのような仕組みがあるということは意義深いことだと思います。日本財団は高齢者の方々には強いけれども、若い人へのリーチがなかなかできてなかったので、メルカリと組んだことによって広がったという実感が明確にあります。それは僕らだけでは絶対できないことでした。

 

「寄付型梱包資材」による寄付の取り組みもリニューアル

高橋> 日本財団とは、「寄付型梱包資材」による寄付の取り組みもしています。ネコポスサイズの梱包資材のうち、この「寄付型梱包資材」を購入していただくと、1枚につき5円が日本財団に寄付されるという取り組みです。今年からこの寄付の活用先も「日本財団子どもサポート基金」にリニューアルしました。このような寄付も含めて、引き続き、これまで寄付をしてこなかった人たちも寄付してもらえる仕組みを作っていければと思っています。

日本財団 笹川 専務> 個人的には何事も無理しない方がいいと思っています。自分を大きく見せて良い評価されたい、というのは良くない形で跳ね返ることもありますし、人と比べる必要はないはずです。格好をつけたりとか、色々な欲が出て、それを助長するビジネスが周りにあるからそうなってしまうのですけど、人それぞれ違うので、普通に自然に生きていくということが実はすごく幸せなんだと考えています。寄付も一緒で、格好をつけて多くの額を寄付する必要も全くないし、自分のできる範囲でやればいいだけなんです。なので、どうせ梱包資材を買わなきゃいけないとなった時に、選択肢があるという状況が大事で、日常生活の中で自然に選ぶ人もいれば、選ばない人もいて、そこが重要なことだと思っています。それも寄付を選んだお客様を幸せにする手段だと思うんですよね。

例えば、日本財団がやっているチャリティ自動販売機も、ジュースを1本130円で買うと10円が自動的に寄付に回るという仕組みです。その仕組みで年間3億円ぐらいの寄付が集まっていますが、寄付しているという感覚はあまりないようです。缶コーヒーを買ったりジュースを購入する時に、たまたまラベルが自販機に貼ってあって、「あなたの1本が社会に活かされる」と書いてある、「ちょっとほっこりしたな」みたいな気分でそっちを選択してくれる、そういう仕組み作りが重要なんです。

そういう仕組みは、社会にもっともっといろいろ形で実装されていくべきだと考えていて、その一端をこの「寄付型梱包資材」でメルカリが担っているというのが非常に意義深いと感じています。

 

2021年の提携から様々な取り組みを実現してきました

高橋> 思い返せば、日本財団とメルカリは、2021年春に、より良い未来に向けた提携に合意しました。「目指すのは、「モノ」で社会貢献できる世界。たとえば、家で眠っているモノを「メルカリ」で売るだけで寄付できる。もっと気軽に多くの社会貢献を、モノとともに社会貢献が循環する、そんな未来を作っていきます」と話をし、連携を開始しました。

以降、「メルカリ寄付」や「メルカリ寄付 かんたん寄付設定」、「寄付型梱包資材」による寄付などを実施してきました。当時、「こういうものができたらいいな」と話していたものが、1つずつ形になってきたように思います。

日本財団 笹川 専務> メルカリと日本財団の連携を開始した当時、「フリマアプリ「メルカリ」上で、出品時に寄付が設定できるようにしてもらいたい」という提案をしましたが、当時はエンジニアのリソースが課題で「アプリに実装するのはかなり難しい」と言われたように記憶しています。

高橋> そもそも私が「メルカリ寄付」を検討しはじめた時の最初の提案がそのような形だったのですが、社内のエンジニアリソースが確保できずに、「まずはできるものから実現することが大事」と作ったのが「メルペイ残高」を寄付するという現在の「メルカリ寄付」でした。

日本財団 笹川 専務> 何に優先順位を付けるかは、企業にとって非常に重要な要素だと思います。僕もずっとビジネスをやってきてるので分かるのですが、社内の雰囲気だとか、何に優先順位をおくべきだとか、そういう方向性がある中で、急に出てきたものにお金や人を使うというのはなかなか難しいと思っています。

一方で、メルカリの皆さんは、もともと社会に価値を生みたくて「メルカリ」のサービスを作られたと理解していて、どこか企業精神の中に社会に貢献すべしというのがあったので、実現できたのではないかと思います。

社会への意識が全くない、お金ありきの企業文化だと難しいのではないでしょうか。メルカリが行っているのは単なるビジネスではなく、ソーシャルビジネスだと考えています。ビジネス自体が、生活をもっとすっきりとさせてシンプルに、まだ使えるけど不要になったものをもう一回循環させる、そして社会に役立つ形にしたり、気持ちいい生活を維持していく、ということなので、会社の文化やサービスが日本財団と非常に親和性があったのだと思います。

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笹川 順平( Junpei Sasakawa)

日本財団専務理事。慶応義塾大学にて開発経済学を学び、1997年卒。卒業後は三菱商事株式会社で建築をはじめとしてODA等のグローバル事業経営に携わる。その後は2005年にハーバード大行政大学院卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2013年より株式会社ナスタ代表取締役社長に就任、製造業の改革を牽引する。2017年より日本財団常務理事に就任、経営企画広報およびドネーション事業を担当し、子どもの貧困対策支援や渋谷区との共同プロジェクトなどを率いる。2023年より全国初の本格的なオンライン大学(ZEN大学)の設立に向け責任者として教育改革を牽引する。2024年6月より現職。

 

インタビュワー

高橋 亮平(Ryohei Takahashi)

メルカリ経営戦略室政策企画参事 兼 merpoli編集長。元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長。松戸市部長職、 神奈川県DX推進アドバイザー、千葉市アドバイザー、明治大学客員研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員、東京財団研究員、政策工房研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか。