自民党が成長戦略を公表、キーマン木原誠二 議員にインタビュー

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自民党は2019年6月、党の成長戦略である『「令和」時代・経済成長戦略』を公表しました。今回は、自民党 経済成長戦略本部の副委員長・事務局長として、この成長戦略の策定にあたった木原誠二 議員に 、メルカリ政策企画でインタビューを行いました。

ベンチャー企業にはあまり馴染みのない政党の成長戦略ですが、今後公表される政府の成長戦略のベースとなるものです。成長戦略の背景にどのような狙いが込められているのか、ベンチャー企業のビジネスにどのような影響があるのか、語っていただきました。

 

木原誠二 議員インタビュー

2019年6月12日 衆議院議員会館にて実施

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インタビュアー:高橋亮平 メルカリ社長室政策企画参事(以下、高橋)> 今回、自民党が『「令和」時代・経済成長戦略』を発表しました。今日は、事務局長としてとりまとめに中心的な役割を果たした木原誠二 議員から、直接、この自民党の成長戦略についてお伺いしたいと思います。今回の自民党の成長戦略のポイントは何でしょうか。

木原誠二 自民党 経済成長戦略本部 副委員長兼事務局長(以下、木原議員)> 自民党の成長戦略である『「令和」時代・経済成長戦略』は、7章で構成されており、その約半分の3章がデータに関する政策です。安倍総理は今年1月のダボス会議のスピーチで「Data Free Flow with Trust」というメッセージを発信し、データを使った第4次産業革命をやって行くんだということを示されました。これを受けて、党の方でも、第4次産業革命において最大の資源となる「データ」を利活用できる環境をいち早く整備して、世界に先駆けてイノベーションを生み出し、よりスマートで豊かな暮らしを実現すること、また、地球環境問題や高齢化等の世界的課題を解決することを一つの目標に設定して、成長戦略をまとめました。

高橋> 今回、この成長戦略を作るにあたって、木原議員が特に力を入れたところや、思い入れが強いところなどはありますか。

木原議員> データ戦略の立案をする司令塔機能をしっかりと作るということに一番力を入れました。現在、世界で最もデータを利活用して成功しているのはGAFAであり、世界的にどうGAFAに対して規制をしていくかという議論がある中で、単に規制をするということだけではなく、そこから何を学ぶかということを考えようというのが議論のスタートでした。その結論として、プラットフォーマーに関する新しい法律を作ろうということで、デジタルプラットフォーマー取引透明化法案の提言を作り、同時にそれを運営するためにデジタル市場競争本部を立ち上げようということにしました。このデジタル市場競争本部がGAFAのことばかりやっていては意味がないので、データの活用に関する省庁横断的な企画立案や、世界との協議を含めて担ってもらおうというところに力点をおきました。同時に個人情報保護法が来年改正される方向なので、この新しい本部を中心に、プラットフォーマーの取引透明化法の運営と、もう一方で個人情報保護法とを両輪で動かしながら、データの活用を行っていこうというのが一番の肝だと思います。

高橋> 国際社会において、米国、欧州、中国等のさまざまなルールが混在する中、日本が国際的なルール作りを主導しようという思いもありますか。

木原議員> 成長戦略に具体的な国名は書きづらい面がありますが、データ流通の自由を重視するアメリカと、GDPR中心に個人の知る権利、個人情報の保護を重視するEU、その両者の真ん中にいるのが日本という立ち位置だと認識しています。両者のいいところを取り入れながら、日本に独自のプラットフォーマーがいることも踏まえ、日本のプラットフォーマーがきっちりと伸びていけるような環境を作って行きたいと思っています。

高橋> ちょうどG20も日本で開催されますが、政府もデータの国際ルールを創りたいと言っていますね。

木原議員> 安倍総理が前回ダボスで発言したのが4年前だったかと思いますが、その時は岩盤規制の話をして、岩盤規制をドリルで穴を開けるとぶちあげました。今回は引き続き岩盤規制の話もしているが、あわせてデータの話をしていて、データが自由に流通する社会を日本が中心になって作ると言いました。総理の方針としても、次のステージに来ているような気がします。

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高橋> メルカリは今年2月にフィンテックサービスであるメルペイをローンチし、今回の成長戦略で最も注目していたのがこのフィンテックに関する記載でした。

木原議員> 今回の成長戦略では、データに関するものとして、まずデータの司令塔づくり、次にデータ駆動社会におけるインフラづくりも重要なので、5G、光ファイバー、そしてインフラとしてのデータやAI教育というものを掲げました。もう1つ重視したのが個別分野でのデジタル・トランスフォーメーションです。昨年はアイコンストラクション(i-Construction)を掲げましたが、今年は建築でのデジタル活用としてBIM(Building Information Modeling)を取り上げるとともに、今ご指摘いただいたフィンテックを重要な個別分野として位置づけました。フィンテックに注目した最大の理由は、キャッシュレス社会をどう創っていくかという中で、その裏でデータをどう活用していくかということを考えた時に、この取り組みは急務だからです。残念ながら日本では、金融商品を作る川上から販売する川下まで、実際の投資家との関係まで既存の金融機関がガッチリ上から下まで抑えてしまっています。ここに新規参入を促しながらもっともっと利便性の高い金融システムを作って行かなければなりません。今回の成長戦略では、この点でも、明確なメッセージを示せたかなと思っています。具体的には、金融にアクセスしたい個人事業主と金融機関をプラットフォーマーがつなげ合う金融があってもいいと思いますし、その時の取引はスマホで完結する、そんな利便性の高い金融システムを作って行くべきだと思っています。

高橋> 今回、成長戦略にフィンテックが書かれたことによって、今後どういう影響があるのか教えてもらえますか。

木原議員> 1つは、これまで規制されていた資金移動業の100万円上限規制の緩和です。これにより資金移動業者は100万円以上の送金を行えるようになり、ビジネスチャンスが広がるものと思っています。また、銀行や保険、証券の代理業者、仲買人のような仲介業者について、今後は1つのライセンスの下でできるようになるなどの規制緩和も進んでいくことになります。同時に、キャッシュレスを進めて行くことで、様々なサービスが、これまでのように銀行の窓口に行かなくてもスマホで行えるようになります。今回の成長戦略で、資金移動口座に直接給与振込を行うペイロールについて解禁に向けた検討を進めることを提言しています。さらに成長戦略では、日本が世界に先んじてポイントを使ったキャッシュレス社会を実現することなども見据えています。官ではマイナンバーカードを活用したポイント、民ではマイレージのポイントや電子マネーのポイントなどに互換性を持たせながら、キャッシュレス社会を実現していくことができれば、新たなビジネスチャンスやイノベーションも確実に増えていくと思います。

高橋> 今回の成長戦略の中では自治体との連携についても触れられていますね。

木原議員> マイナンバーカードによるマイキープラットフォームを活用することで、今は、各自治体がアカウントを開いてポイントを発行していますが、理論的には、将来、国としてもアカウントを開いてナショナルポイントを発行し、民間のポイントとも互換性を持つという仕組みの構築も考えられます。他方で、地域経済の活性化も成長戦略の大きな柱なので、各地域で発行される地域ポイントが各地域の創意工夫で利便性が高まるよう、商店街、観光地、温泉地などまずは地域活性化の取り組みから始め、将来的にはナショナルポイントに繋がる取り組みを考えています。

高橋> 先程お話に出たペイロールはどのような形で進んでいくのでしょうか。

木原議員> 基本的に、世界でできていることが日本ではできないというのはおかしいと思っているので、他国で既に行われているペイロールについても、日本において展開できるよう取り組んで行きたいと思います。一方で課題も様々あります。特に大きな課題が2つほどあると認識しています。資金移動業者が万が一破綻した際などに給与という個人にとって最も重要な資産が確実に保全される仕組みの構築と、マネロンや犯罪収益などに対する対策です。この2点がクリアーされれば、銀行口座、証券口座、資金移動口座、ペイロールなど形態の違いにより差異があるべきではないので、しっかりと取り組んで行きたいと思います。 

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高橋> 今回の自民党成長戦略で既にお話頂いた論点以外にも伝えたいものがありましたら教えてもらえますか。

木原議員> 今回の成長戦略の最大の特徴は、既にお話したように、データの利活用の推進に力点を置いたことです。2つ目は環境政策です。これから日本においてG20やアフリカ開発会議(TICAD7)が予定されており、きちんとメッセージを出しておきたいと思いました。2015年のパリ協定を受けて、日本としても、先般長期戦略を決定し、2050年の80%削減、その先に脱炭素社会を創るとの世界初の宣言をしました。今後、環境問題への取組みをどのように経済成長にもつなげていくか、活かしていくかを非常に重要視しています。3つ目は、SDGs(Sustainable Developement Goals)先進国としてSDGsを世界でリードする取り組みも成長戦略に取り入れたことです。そして、もう少し大きな目線で語ると、令和の時代は、これまでの組織ファーストで個人が従という関係ではなく、技術革新によって個人が組織から解放されて、多様な働き方や価値観が尊重され、選択できる時代になると考えています。また、同様に、中小企業や小規模事業者など小さな事業者が、「小よく大を制する」という時代がいよいよやってきます。20年勉強して40年働いて20年老後を過ごす、というような画一的な時代ではなくなり、1つの会社に勤め続けるという時代でもなくなっているということですし、技術革新はむしろスタートアップを含め中小企業の方から起こる時代です。その先取りをした成長戦略を出せたのではないかなと思います。

高橋> 「環境」「個人をエンパワメント」「SDGs」「第4次産業革命」などのキーワードは、メルカリが描いているものとも近く、親和性が高い印象を受けました。

木原議員> 僕は政務調査会というところに所属していますが、自民党には政策ごとに部会や調査会があり、毎朝の8時から18時までに大体4つぐらいの時間枠で毎日数えきれない数の会議が行われています。役所だけでなく、最先端でビジネスをやっている方や学者の方々から常に最新の意見を聞いているので、時代の一歩先や最先端の視点での政策提示ができているのではないかと自負しています。「令和」の時代になり、新しい社会に向けて、さらにみなさんと一緒に政策についてもブラッシュアップさせて行きたいと思っています。

高橋> 次年度以降は是非こうした政策形成の公式プロセスの中で、我々の意見もヒアリングの機会をいただければと思います。最後に、今回の自民党の成長戦略を受け、政府の成長戦略である「未来投資戦略2019」はどのようになりますでしょうか。

木原議員> 是非お願いします。政府の成長戦略は実行が伴いますので、自民党の成長戦略の中で挙げている政策も若干角が取れていくことはあると思いますが、近々に公表の予定です。

高橋> 今後も期待してます。今日はありがとうございました。

 (高橋 亮平)

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木原 誠二(Seiji Kihara)

衆議院議員(4期)。1970年生まれ、元財務官僚。東京大学法学部卒業後、大蔵省に入省。2005年、第44回衆議院議員総選挙にて初出馬・初当選。外務副大臣(第3次安倍第1次改造内閣)、外務大臣政務官(第2次安倍内閣)などを歴任。 現在は、自民党 経済成長戦略本部の副委員長・事務局長、政務調査副会長、税制調査会幹事、情報調査局長、金融調査会幹事長、中小企業・小規模事業者政策調査会事務局長、司法制度調査会副会長などを務める。

 

インタビュアー:高橋亮平(Ryohey Takahashi)

メルカリ社長室政策企画参事 兼 merpoli編集長。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。一般社団法人日本政治教育センター代表理事、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房客員研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て、2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。メディア出演多数。

 

(資料)

「令和」時代・経済成長戦略

  1. 第4次産業革命時代の「成長と分配の好循環」
  2. 開かれた日本の実現
  3. 地域活性化への取組を加速
  4. デジタル時代の国際ルール整備と国内データ流通基盤の整備
  5. デジタルトランスフォーメーション(DX) 〜政府と企業のデジタル化〜
  6. データ駆動社会の基盤整備
  7. SDGsへの取組み加速とイノベーションへのチャレンジ

 

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