パネルディスカッション「イノベーションの壁を乗り越えるルール形成」

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2019年9月24日(火)、三浦法律事務所主催のM&Pフォーラム2019が開催され、パネルディスカッション「イノベーションの壁を乗り越えるルール形成」にメルカリ政策企画マネージャーの吉川のほか、他IT企業の政策企画・法務担当者やコンサルタント会社代表などの5人が登壇し、企業におけるルールメイキングについて意見を交わしました。

最初にモデレーターである三浦法律事務所の尾西弁護士から、IT分野における新規ビジネスと法改正の歴史について概要説明があり、IT業界が法改正や法規制だけではなく、業界横断的な自主規制なども通じて、社会との関係性を構築してきた経緯について、各パネリストからコメントがありました。

吉川からは、「過去、官民さまざまな立場で、青少年インターネット環境整備法、児童ポルノ禁止法、リベンジポルノ禁止法などについて関わってきたが、世論が沸騰していて単純に法律論で収まらないような時に、法的な整理を進めつつも、社会的なマイナス感情をどう収めていくかが重要であった。また業界で一致して自主規制を実施することにより、公的な規制強化に至らずに収まったケースもあった。」ことなどを紹介しました。

続いて、モデレーターより規制改革を実現するための政府側のツールとして「プロジェクト型『規制のサンドボックス』」「グレーゾーン解消制度」「新事業特例制度」が紹介され、まだ周知は行き届いていない面はあるが使いやすい制度である旨の説明がありました。

吉川からは、「企業側からするとどの制度が自分のビジネス案件に適用できるのか必ずしも判然としないが、それは省庁側とコミュニケーションを取りながら決めていけばいい。むしろ、自分たちの課題は何か、自分たちが実現したい社会価値が何かということを明確にして省庁側に伝えていけば、親身に相談に乗ってくれるので、あまり構えず持ちこんでいけばいいのではないかと思う」とコメントしました。

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続いて、これからの「ルールメイキング」について、各パネリストより活発なコメントがあり、「5年、10年、30年先のビジネスを見越してルールを醸成するため、ロビイングに本格的に取り組み始めた」「スタートアップ企業すべてでルールメイキングが必要なわけではないが、企業としての信頼感を醸成するためにも政府との関係性は重要」「企業の非市場戦略の中に、ルール形成やディール形成、アピール形成といった活動があり、それを総称してパブリックアフェアーズと言う」などの意見が出されました。

吉川からは、「メルカリではeコマースや決済サービスに関連するルールメイキングの活動をしている。最近は新たに立ち上げた決済サービス『メルペイ』での活動が多い。ただし決済や少額与信などの新しいサービスは、当局だけでなく、消費者やメディアの方々にも直接説明し、理解を得ていくことが必要」、「金融はインフラであり、、厳しいルールが求められるのは当然。ただ、ここ数年、経済成長を支える金融の役割について強い意識を持つ方々が、私たちが普段コミュニケーションさせていただく金融庁の現場の方々にも増えていると感じる。担当官だけでなく管理職の方々も円滑にコミュニケーションを図ってくれ、対話がしやすくなった。もちろんルールが緩くていいということではなく、当局やステークホルダーの方々と相談しながら、お客様の安全・安心を確保しつつ、持続可能なビジネスを目指すところは変わらない。」とコメントしました。

続いて、ルールメイキングやロビイングに必要な組織のあり方や求める人材像について、各パネリストからコメントがあり、「個社間の競争でやってきたものが、業界横断的にできるようになったのは、IT業界の一つの成果。各社、各部門に人材がいるようになった。」「法務、政策企画といった分野だけではなく、広報、CS部門も一体感をもって、対外的にアプローチしていく。」「霞が関や永田町から情報を引っ張ってこれる人が必要。いつ法案が国会に提出されるのか、あの省庁はどう考えているのか、など分析、文書化する能力とは違う。」などの意見が出されました。

吉川からは、「永田町や霞が関に詳しい、法律に詳しい、メディアや有識者とのリレーションも持っている、事業理解も深い、ベンチャー企業のカルチャーにフィットできる、など全ての強みを持っている人はほとんどいないので、チームで対応するしかない。霞が関から官僚を引っ張って来ればいいというわけではなく、チームに足らない特性や強みを持つ人を採用して一からチームを作ってきた」ことを紹介しました。

最後に、吉川から「ルールをつくる、変える背景には、実現したい社会的な価値がある。新たに生み出されるルールが企業だけでなくお客様や社会全体に意味があると堂々と説明できることが一番大事。ロビイングは、個社の利益誘導ではなく、社会をより良い方向へ変えていくためのもの」とコメントしました。

企業の安定的な成長のためには、政策企画・法務部門だけでなく、PRやCS、マーケティングといった部門と一体となってアプローチすることが、リスクマネジメントとして必要です。また、日本が勝てるような産業ルールを世界で形成していくことの必要性も改めて認識したパネルディスカッションでした。

(布施 健太郎)

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吉川 徳明(Noriaki Yoshikawa)

 株式会社メルカリ / 社長室政策企画マネージャー。2006年、経済産業省入省。商務情報政策局でIT政策、日本銀行(出向)で株式市場の調査・分析、内閣官房でTPP交渉などに従事。2014年からヤフー株式会社に入社、政策企画部門で、国会議員、省庁(警察庁、総務省、金融庁等)、NGO等との折衝や業界横断の自主規制の策定に従事、2018年4月、政策企画参事としてメルペイに参画、同8月に現職。東京大学大学院経済学研究科修了。

 

 

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