今月閉会予定の第204回国会で政府から提案された「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」(以下、「取引DPF新法」)が成立しました。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/204/pdf/s0802040532040.pdf
同法は、ECモールやオークションサイトなどの「取引デジタルプラットフォーム」(後述)における消費者保護のための環境整備を主眼としたものです。
前編の当記事では、とくに消費者庁での検討会の報告書(「デジタル・プラットフォーム企業が介在する 消費者取引における環境整備等に関する検討会 報告書」、2021年1月25日)を参考に、新法の立法経緯・内容について概観したいと思います。なお、メルカリは、この検討会の第3回に参加し、安全・安心の取り組みについてヒアリングを受けました。そこで、後編の記事では、「メルカリ」での消費者保護に関する取り組みについてもご紹介していく予定です。
立法の目的・経緯
インターネットを通じたモノやサービスの売り買いは、私たちの生活にとって欠かせない存在となっています。気軽に外出することが難しくなった「新しい生活用式」の下においては、その重要性がますます増大しています。
一方で、こうした取引において、「購入した商品が届かない」「思っていたものと違った商品が届いた」「模倣品を購入してしまった」などいった消費者トラブルの発生も見られています。
そこで、消費者庁では、2019年12月5日より「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会」が設置され、デジタル・プラットフォーム企業の役割を踏まえて、デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等について、産業界の自主的な取組や共同規制等も含め、政策面・制度面の観点から、12回にわたって検討されました。メルカリも、第3回の検討会に出席し、フリマアプリ「メルカリ」のサービス概要や消費者保護のための取り組みについてヒアリングを受けました(第3回検討会2020年2月19日)。
今回の新法では、新規立法において対応すべき課題のコア(中核)になる考え方が検討会の検討過程で共有できたBtoC取引のデジタルプラットフォーム(以下、DPF)を対象として、各企業の自主的取組を後押しする内容等について立法化がなされました。
新法の概要
新法は、取引デジタルプラットフォーム(以下、取引DPF)における消費者利益の保護を図るため、
- 取引DPF提供者の努力義務
- 内閣総理大臣による商品等の出品の停止要請
- 消費者による販売業者に係る情報の開示請求権
を定めるものです。
出典:「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案 概要」(消費者庁)
取引DPF新法の対象「取引デジタルプラットフォーム」
取引DPF新法では、取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売(特定商取引法上の通信販売)に係る取引の適正化及び紛争の解決の促進に関して定められています。すなわち、売主が販売業者等(いわゆる事業者。個人事業主も含む)に該当する取引に関して定められています。(法第1条)
いわゆる事業者の売主は、そもそも特定商取引法や景品表示法といった行政規制に服しています。売主による行政規制違反については、類型的に「場」を利用する他の消費者にも被害が及ぶ蓋然性が高いものである上に、売主の行為の法的責任が明確です。そこで、行政規制違反の防止又は被害救済のために各デジタルプラットフォーム企業に共通して期待される役割も明確化し得ると検討会で考えられたため、法律でも売主がいわゆる事業者に該当する取引に関して定められました。
後述するように、売主と買主のいずれもが消費者となるCtoC取引については、今後の課題となっています。
環境整備の柱その1: 取引DPF提供者の努力義務(法3条)
取引DPF提供者は以下の①〜③の措置に関する努力義務が課せられました。
① 販売業者と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置
② 販売条件等の表示に関し苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施
③ 販売業者に対し必要に応じ身元確認のための情報提供を求める
検討会では、これらは、取引の適正化及び紛争解決に関し、特に講じられる必要性が高い措置とされていました。
他方、取引DPFは規模や取引の対象の面で多種多様であることを考慮して、努力義務とされています。
なお、これらの措置に関して、内閣総理大臣が指針を定めることとされています。(法第3条第3項)この指針について、検討会では「これらの努力義務としての措置の適切かつ有効な実施に資するため、参考となるべき指針を定めるものとすべきである。」とされています。
また、この努力義務に基づき取引DPF提供者が講じた措置の概要及び実施の状況などを開示するものとされていいます(法3条2項)。
同項の趣旨は、各企業の取り組みが公開されることによって、消費者がより安全・安心に配慮された取引DPFを自ら選択できる環境をつくることにあります。
この点について、メルカリも参加しているオンラインマーケットプレイス協議会の取り組みについて、後編で紹介します。
環境整備の柱その2: 商品等の出品の停止要請(法4条)
内閣総理大臣(及びその委任を受けた消費者庁長官)は、①危険商品等が出品され、かつ、②販売業者が特定不能などの個別法の執行が困難な場合に、取引DPF提供者に出品削除等を要請することができます。
危険商品等とは、消費者が商品を使用する際の安全性に重大な影響を及ぼす事項の表示等に虚偽・誤認表示がある商品等のことをいいます(法4条1項1号)。
②の要件では、行政が販売業者に対して直接の執行ができない場合に、取引DPF提供者に対して、売主による商品等の販売停止等の必要な措置を要請することが意図されています。
なお、取引DPF提供者がこの要請に従った場合に、取引DPF提供者は出品を制限された販売業者に対する損害賠償責任を負わないと定められており(法4条3項)、取引DPF提供者が躊躇なく必要な処置を講じられる仕組みになっています。
環境整備の柱その3: 消費者による販売業者情報の開示請求(法5条)
消費者が損害賠償請求等を行う場合に、取引DPF提供者に対して、必要な範囲で販売業者の情報の開示を請求することができます。
買主が消費者トラブルに見舞われた場合、裁判によって損害賠償請求権を実現させることによって満足を得る場合があります。
取引DPF新法では、消費者に販売業者等の情報(名称、住所等)の開示を請求する権利を定め、こうした場合の紛争解決のための基盤を確保しています。開示にあたっては、原則、売主に開示するかどうかについて意見を聞かなければならないとされています。
なお、検討会では、取引DPF提供者にとっては、適法な開示請求にしたがって販売者の情報を開示することによる責任を負わないことが確認されています。
この他、法律では官民協議会の設置が定められており、政府、取引DPF提供者の団体、国民生活センター、消費者団体等が参加して情報交換や取り組みに関する議論を行うこととされています。(法第7条)
次回、後編では「メルカリ」での消費者保護に関する取り組みについてもご紹介していく予定です。