「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(実行計画)」、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を読む

6月7日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(実行計画)」及び「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」が閣議決定されました。

merpoliでは、過去にも骨太の方針等これらの文書の位置付けや内容に関する解説を行ってきました。岸田政権として初めて示された今年の文書で、政府の方針がどう示されているのか、骨太の方針と新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画についてご紹介していきます。

 

「成長」を目指す「新しい資本主義」

岸田総理は、就任時から看板政策として「新しい資本主義」を掲げています。2021年11月19日閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」では、新しい資本主義により「成長と分配の好循環」を実現する、と示したうえで、「成長戦略」と「分配戦略」と項目を立てています。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/1119/shiryo_01.pdf

今回閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では「分配の目詰まりを解消し、更なる成長を実現」すると示されています。また、この目詰まりについては、以下のように述べられています。

我が国においては、成長の果実が、地方や取引先に適切に分配されていない、さらには、次なる研究開発や設備投資、そして従業員給料に十分に回されていないといった、「目詰まり」が存在する。その「目詰まり」が次なる成長を阻害している。

待っていても、トリクルダウンは起きない。積極的な政策関与によって、「目詰まり」を解消していくことが必要である。(3ページ)

ここから、「成長」が目的となっていること、中小企業への取引の適正化や研究開発・設備投資、賃金引き上げ等の「分配」の好循環を生み出し成長を目指すことが読み取れます。

今回閣議決定された、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、「分配」と「成長」の関係が示されたといえます。

 

昨年との全体構造の違いについて読み解く

では、具体的な施策においてどのようなアプローチをとるのか、菅政権下に作成された2021年の骨太の方針・成長戦略実効計画と全体構造を比較すると「人への投資」が大きく異なっています。

まずは、「人への投資」の位置付けです。

2021年の骨太の方針では、「成長の源泉」となる投資対象として、上からグリーン社会の実現、官民挙げたデジタル化の加速、地方創生という順番で示されています。

これに対して、2022年の骨太の方針では重点投資分野として、人への投資と分配、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資という順番で示されています。

このように、岸田内閣では「人への投資」の位置付けが昨年と異なることが分かります。

次に、「人への投資」の意味合いの違いです。

2021年の骨太の方針では、「人への投資」として、働き方改革、企業組織の変革やリカレント教育人材育成の抜本強化など働き方の変化に対応することに着目しています。

これに対して、2022年の骨太の方針・実行計画では、賃上げ、所得倍増等働き方のみならず、所得を増やす点により焦点をあてていることが読み取れます。

 

スタートアップへの支援から見えること

スタートアップ・IT企業の立場で注目のポイントは、スタートアップの育成に関する5か年計画の策定です。

実行計画では、「①スタートアップの創業促進と、②既存大企業がオープンイノベーションを行う環境整備、の双方が不可欠である」として、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決する鍵と据えるスタートアップの育成に関する5か年計画を、2022年末に策定することが示されました。

以下に引用したとおり、計画の策定は年末までに進められますが、「新しい資本主義実現会議に検討の場」を設けること、「以下の項目」として14の項目を示し、いつまでに、どのような手順で、何を決めるのかの大枠はこの実行計画で定められたといえます。

「以下の項目等について、実行のための司令塔機能を明確化し、新しい資本主義実現会議に検討の場を設け、5年10倍増を視野に5か年計画を本年末に策定する。」15ページ

14の項目はIT含む特定の業界に着目したものではありませんが、ストックオプション等の環境整備は注目すべきものといえます。

⑧事業化まで時間を要するスタートアップの成長を図るためのストックオプション 等の環境整備 ディープテックなど事業化まで時間を要するスタートアップや、グローバル展開 を含め長期間をかけて大きな成長を目指すスタートアップを後押しするため、スト ックオプション等の環境整備について検討する。17ページ

事業化に時間を要するスタートアップは、上場を急がず事業を大きく育てることで、結果としてより大きな価値を実現できる可能性があり、政府もそうした者の創出を意図しているといえそうです。

既存のいわゆる税制適格ストックオプションにおいて権利行使期間が付与から10年に制約されるといった長期間の成長の制約となりうる制度について、どこまで踏み込んだ施策が実施されるか注目です。

実行計画は、重要施策の方針を定めた本体が注目されがちですが、これとともに決定されたフォローアップにはより具体の施策分野について方針が示されています。

フォローアップ

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/fu2022.pdf

また、実行計画・フォローアップともに各施策実施の具体的な内容・タイムラインが示された工程表も決定されています。

実行計画工程表

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/apkouteihyou2022.pdf

フォローアップ工程表

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/fukouteihyou2022.pdf

これらも、併せて参照することでより詳細の方向感を理解することができます。

 

まとめ

今回閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」及び「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」から読み取れる、政府の方針や新たな動きを紹介しました。

merpoliでは、引き続き、注目の政策についてお伝えしていきたいと思います。