D&Iチームが語る、メルカリが日本企業初のEDGE認証取得に踏み切った理由

メルカリは2022年12月、職場のジェンダー平等に関する取り組みを評価するグローバル認証「EDGE Assess」を取得しました。

今回の記事では、取得に向けて中心的な役割を担ったD&Iチームの趙 愛子(choco)とJuan D. Garcia MP.(Juan)にインタビューをしました。

メルカリが取得したD&Iの国際認証「EDGE Assess」とは

Q> メルカリでは、職場のジェンダー平等に関する取り組みを評価するグローバル認証である「EDGE Assess」を取得されたそうですが、この「EDGE Assess」も含めて「EDGE認証」とはどのようなものなのでしょうか。

D&Iチーム 趙愛子(以下、趙)> スイス・ジュネーブに本拠地を置く、EDGE Certified Foundation(以下、EDGE)によって制定されたジェンダー平等のためのグローバルな査定方法論および認証基準です。認証にあたっては、「男女同一賃金」、「採用と昇格・登用」、「リーダーシップ開発研修とメンタリング」、「柔軟な働き方」、「組織カルチャー」の5つの観点から、人事関連のデータや制度、取り組みの実績、職場での実態を調べる従業員向けアンケート調査等が行われます。「EDGE認証」には3つの認証があり、今回取得した「EDGE Assess」はその一つになります。

Q> メルカリが今回認証を取得しようとした背景や経緯などを教えてもらえますか。

趙> 前提として、認証の取得が目的であった訳ではありません。D&Iを推進するうえで、ミッションに紐付けて議論をするのですが、社内の議論だけで進めてしまうと、どうしても蛸壺化する点に課題を感じていました。

D&Iは潮流の変化も速いので、グローバルな視点で自分たちの現在地を見て、国際的な基準と比較し擦り合わせることで、メルカリが今後どこを変えていくべきなのか、その方向性を明確にしたいと思うようになり、その手段として認証の取得を選択しました。どの認証にするかを選ぶ過程で複数の方法論を比較しましたが、学術的なバックグラウンドをもとに明確なクライテリアを持っているEDGE認証に決定しました。

D&Iはその性質上明確な基準を定めることが難しく、多様な意見が存在する中で正解も1つではないため、議論がまとまらないこともあります。そこで、メルカリグループ(鹿島・メルカリUSを除く)のD&I進捗具合について、グローバル視点で評価してもらい、現在地点と今後の課題を明らかにすることを目的として、EDGEの仕組みを用いることにしました。

Q> 認証取得に向けてはどのようなことを準備されてきたのでしょうか。

D&Iチーム Juan D. Garcia MP.(以下、Juan)> 認証取得に向けた取り組み自体は、2021年の12月からスタートしました。EDGEの契約上、スタートしてから1年以内に監査を開始する必要があり、丁度1年かけて準備を進めました。

事前準備が整った後は、EDGEに提出するデータを収集していきました。収集したデータをまずEDGEに提出し、EDGEから仮結果を報告してもらいました。その仮結果を基に、今後メルカリがどのようなアクションを起こしていくのか、具体的なアクションプランの策定が必要でした。アクションプランが決定された後、EDGEとはまた別の監査実施機関であるIntertekにより監査がなされ、具体的な結果が出ました。

Q> 認証では、主に今後メルカリがD&Iに対してどのようなアクションを取っていくのか、という将来的な部分も評価されるということでしょうか。

趙> 今の状態が良い・悪いという現状に対する評価だけではなく、今後継続的に企業として取り組んでいくのか、というコミットメントに対する評価も含まれています。現状をより改善するために、何をするつもりか、リソースや予算まで含めて具体的な方針を提出し、それに対して評価を得ることができれば、認証取得ということになります。

Q> D&Iチームでは数値目標は立てず、長期的な視点の目標を考えていると伺いました。目標を達成するためどのように取り組むのか、D&Iチームならではの特色などはあるのでしょうか。

趙> そうですね。ビジネスにおいては、まずゴールを設定して、そこから逆算して現状とのギャップを埋めていくアプローチを取ることが多いと思います。しかし、D&Iは終わりがない取り組みだと思うので、どう取り組み続けるのか、サステナブルに続けていく仕組み作りであったり、目標の設定の仕方が重要だと考えてます。

メルカリD&Iチームの特色とは

Q> メルカリのD&Iチームは、どのようなメンバーで構成されているのでしょうか?

趙> D&Iチームは、現在主務のメンバー2人と、兼務のメンバー4人の合計6名で構成されています。

私は、人事部門であるHRをバックグラウンドにしており、特にタレントマネジメントという分野を専門にやっていました。2022年の8月からD&Iチームの専属となりました。

Juan> 私は元々HRの中にある通訳・翻訳チームに所属していました。入社当時からD&Iには興味があり、最初からチームの活動に参加し、Pride@MercariというERGのLeadを務めてきました。昨年の5月頃から専属となりました。

Q> D&IチームはHR組織にあるのでしょうか。

Juan> D&Iチーム自体はHR組織に所属しているのですが、兼務のメンバーはHR以外の方もいます。

企業によってD&Iチームをどこに置くかは様々だと思います。D&Iは人事における仕組みの構築を考える必要もあるので、人事の知識が求められる側面があります。同時にD&I自体は、チームだけで取り組んでいても上手くいかないので、会社のカルチャーとして、全員で取り組んでいかなければなりません。そのため、HR以外にも様々なバックグラウンドのある方々を含めて議論を進めていくことが一番効果的だと考えています。

Q> メルカリのD&Iチームは、いつ頃、どのように発足したのでしょうか。

趙> 会社として起点となった出来事は、2017年に外国籍のエンジニアを大量採用したことです。メルカリが急成長しエンジニアを大量採用する必要があるものの、国内だけで確保することは難しいので、積極的に海外採用を行うことになりました。。

海外の方と一緒に働く過程で、言語の壁や文化の違いなどを感じる機会が増えていき、それらを整えていく必要がありました。そこで、2018年に有志による部活動ができたのが始まりでした。その後2019年にチームとして組成されました。

Q> なるほど、社会全体としてD&Iの動きがあるから始めたというよりも、会社として必要なので始めた、ということですね。

趙> そうですね。D&I自体が目的であったことはなく、ミッションを実現するために、必要不可欠なものとしてD&Iを進めてきています。

Juan> 私も最初翻訳チームの採用面接の際、なぜメルカリは翻訳通訳をつけたのか聞いてみたんです。その際、「私たちは世の中のベストなタレントを探していますので、そのベストなタレントがたまたま日本語が喋ることができないのであれば、我々がそのサポートをする責任があります。」と話していたのがすごく印象的でした。

会社として、多様なバックグラウンドの方々とミッションを実現するためには、D&Iを推進しなければならない、という考えがあったんだと思います。そこから自然の流れでチームを作っていきました。

日本企業初の認証取得はどうやって実現したのか・・・

Q> 今回認証取得は日本企業初ということですが、認証を得るまでの準備の過程ではどのようなことが一番大変だったのでしょうか。

Juan> 日本企業初の取り組みということは後から知ったので、国内初だから大変だったということはありませんでした。

改めて振り返ってみると、国ごとに労働に関する基準や定義は異なります。特に監査機関のあるヨーロッパは比較的日本より基準が厳しいので、日本の基準・定義と国際的な基準・定義を擦り合わせることが大変でした。

Q> 認証取得の過程で、社内に変化はありましたか。

趙> 社内の議論を建設的に進めていくことができた点が1つ大きなポイントだと思います。

今回の監査では、人事評価の内容や採用プロセス、セクハラ規定や人材開発など、人事部門の中でも関連するセクションが多岐に渡りました。。そのため、EDGE監査でこのような指摘を受けたが今後どのように進めていこうか、という具体的なアクションプランをそれぞれのセクションと一緒に立案することができました。

一緒に考えたからこそ、 今後HR内で新しい人事の仕組みを作る際にも、EDGE監査での指摘を踏まえて各セクションが自律的にD&Iの観点を持って進められるのではないかと思います。

また経営陣との議論においても、外部の客観的な基準をもとに一定のフレームワークを提示することで、経営陣の現状に対する理解が進み具体的なアクションの議論につなげることができました。

認証取得を経てD&Iチームは今後、D&Iの未来をどう描くのか

Q> 今後は認証に基づいて、どのようなアクションを実施する予定でしょうか。

Juan> 監査の際に提出した今後のアクションプランを2年間かけて実行していく予定です。2年後にまた次の認証を目指すかどうかは、全く決まっておりません。先程も申し上げた通り、元々の目的は認証の取得ではなく、国際的な基準と照らして自分たちの現在地を把握する点にあるからです。

趙> 社外の観点でいうと、日本企業のD&Iの取り組みとして、国際基準を持つというアプローチはあまり認知されていないように思います。私たちとしては、今回認証を取得するプロセスは得るものが大きかったですし、1つの有効なオプションとして社外のの方々にも共有していければと考えてます。

Q> 今後D&Iチームは、D&Iの未来をどう目指していくのでしょうか。

趙> メルカリがD&Iを進める理由は、ミッションの実現に不可欠であるからという点は変わらないと考えています。今回新しいグループミッション になったことで、メルカリのD&Iはもっとどういう風に深めるべきなのか、どう進化させないといけないのか、ということを1人1人が考えていくことができるような環境を作っていきたいと思います。

最終的には、やはり全員が当事者意識を持ってD&Iに取り組んでいる状態を目指しています。そのためには、対話の機会を設けることが鍵ですし、社員のあらゆる体験の中にD&Iが横糸のように組み込まれている仕組みを作っていきたいです。例えば、登用推薦書に他のマイノリティの候補者を検討したのか、というチェックポイントを設けていますが、あらゆる人事プロセスに仕組みとしてしっかり織り込んでいけるようにしたいです。

また、inclusion(包括、多様性が受け入れられている状態)という観点からいうと、既に会社としては多様なバックグラウンドの人が働いている状態だと思うのですが、この多様な状態であったり、文化的な違いをお互いに楽しむことができるようなカルチャーを作ってみたいなと思っています。 

Juan> 基本的には同じ考えです。今回の認証はジェンダー平等に焦点を当てたものですが、多様性はジェンダーだけではありません。

もちろん今回監査を受けて、それを踏まえて今後様々なアクションを取らなければなりませんが、深層的ダイバーシティ(価値観や宗教など、目に見えない多様性)のことも同じように考えていかなければならないと考えています。

LGBT+もそうですし、色々なアイデンティティを有する社員が、各々のスキルを惜しみなく発揮して、ミッションを達成できるような環境を整えていきたいと思います。

D&Iチームに認証取得の経緯や内容から、今後のチームとしての目標まで幅広く教えていただきました。D&Iの特徴を活かして戦略に落とし込むことの重要性を特に学びました。ありがとうございました!

左より、麻空(政策企画兼D&I)、趙(D&I)、Juan(D&I)、大槻(merpoli編集部)

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プロフィール

趙 愛子(Aiko Cho )

ルカリ D&I Team Manager /#z-kamakura 

音大卒業後、テレビ局報道記者、外資系医療機器メーカーでの営業を経て、リクルートに入社。 営業、HR、働き方変革推進などに12年従事した後、約2年のジョブレス期間を経て、2021年5月にメルカリに入社。 Talent Management Team立ち上げ後、D&Iチームにて現職。

Juan D. Garcia MP.

メルカリ Diversity & Inclusion Analyst。アルゼンチン共和国出身。美術修士卒業後、フリーランス翻訳者として活動する傍ら、美術大学でも助教授として教鞭をとる。2012年に大学院へ入学するため文部科学省国費留学生として来日。2019年にメルカリに入社以来、翻訳通訳チームを担当しながら、「Pride@Mercari」コミュニティのLeadとしても活動。2022年5月にD&Iチームに異動し、社内コミュニティ、教育・啓発活動、仕組みづくりに携わる。

インタビュワー

大槻 栞佳(Rika Otsuki)

メルカリ政策企画インターン。早稲田大学法学部在学中にイノベーションと法律の関係を学び、政策企画分野に興味を抱くようになる。現在早稲田大学法科大学院にて法律を学びながら、merpoliの記事作成に携わる。第6回国際取引法エッセイ・コンテスト大学院生または社会人の部一般社団法人GBL研究所特別賞受賞。