ChatGPT等の生成AI/LLMに関する政策動向(国内編)

OpenAI社が提供するChatGPTの登場により生成AI、大規模言語モデル(LLM)を巡る政策が国内外で活発に議論されています。

メルカリにおいても、生成AI、大規模言語モデル(LLM)専任チームが発足し、国内外の政策動向に注目しています。

生成AI、大規模言語モデル(LLM)については、活用への期待とともに法的・倫理的な側面で懸念も多く表明されており、活用推進と規制に関する政策動向は国内外で日々めまぐるしく変化しています。

先日開催されたG7広島サミットでの議論を一区切りとし、直近の国内外の政策動向を改めて整理しました。この分野に関わる方々と政策文書などの原典情報をしっかり共有して、課題意識や議論を発展させていきたいと思います。

 

メルカリグループにおけるAIの利活用について

メルカリグループでは、これまでもフリマアプリ「メルカリ」のサービス内で出品や購入を補助する機能であったり、スマホ決済「メルペイ」のサービス内ではAIを活用した独自与信モデルの構築のほか、不正出品や取引の検知など幅広い分野でAIを活用してきました。

5月1日、メルカリグループにおいても、生成AI・大規模言語モデル(LLM)の活用を通じたグループ内の生産性向上や、プロダクト実装による課題解決を目的に、グループ内横断の生成AI/LLM専任チーム(責任者:執行役員 VP of Generative AI/LLM 石川 佑樹)が新たに発足しました。

専門チームを通じ、まずは生成AI・LLMを社内の様々な場面やプロダクトに活用していくための環境を整備し、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」をミッションに掲げるメルカリグループの非連続な成長に貢献する成果の創出を目指してまいります。

詳しくは以下をご覧ください。

 

日本国内の政策動向

自民党「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」によるホワイトペーパー

今年3月30日に自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」からAIホワイトペーパー案が公表され、日本におけるAIの利活用と支援、規制などについて方針が示され、新たなAI国家戦略が必要であることが提言されました。

政府AI戦略チーム

4月24日、ホワイトペーパー案の提言を受けて、内閣府に高市早苗 科学技術相を司令塔としたAI戦略チームが発足され、関係省庁の担当者間で初会合が開催されました。

AI戦略チーム(関係省庁連携)第1回会合

政府AI戦略会議

5月11日、AI戦略会議(イノベーション政策強化推進のための有識者会議)の初会合が総理大臣官邸にて開催され、AIを巡る主な論点について議論が行われました。出席した総理から、G7議長国として共通理解やルール作りに、リーダーシップを発揮する方向性や、今後の政策文書(統合イノベーション戦略、骨太方針等の政府方針)、国際ルール作りに議論結果を範囲していきたいという決意が述べられrました。

岸田総理の発言より抜粋(参照:総理の一日 ) 

AIには、経済社会を前向きに変えるポテンシャルとリスクがあり、両者に適切に対応していくことが重要です。

AIとの向き合い方については、各国ともに、推進一辺倒、規制一辺倒ではなく、それぞれの事情に応じバランスを模索しているところであると承知しております。

国境を越えたグローバルな課題であり、G7議長国として、共通理解やルール作りに、リーダーシップを発揮することが求められます。

AI戦略会議の下に設置されたAI戦略チームにおいては、本日の議論も踏まえて、村井補佐官の下で各省緊密に連携し、ポテンシャルの最大化とリスクへの対応に向けて、幅広い分野で検討作業を早急に進めてください。

そうした検討を踏まえ、本有識者会議で引き続き御議論いただく内容や成果を、統合イノベーション戦略、骨太方針等の政府方針や、国際ルール作りに反映させたいと思っております。

G7広島サミット

引用元:外務省「SUMMIT PHOTO 2023」の「G7広島サミット」より

広島での首脳会合に先立ち4月29日、30日に開催された「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」では、国際的なデジタル・技術における諸課題について議論が行われ、閣僚宣言及び付属書が採択されました。

AIに関しては、AIガバナンスのグローバルな相互運用性を促進等するためのアクションプランと、生成AIについて早急に議論の場を持つことが合意され、閣僚宣言39〜48と付属書5に記載されました。

G7デジタル技術大臣会合閣僚宣言(原文仮訳

附属書5「AIガバナンスのグローバルな相互運用性を促進等するためのアクションプラン」(原文仮訳

この「デジタル・技術大臣会合」を踏まえて、5月19日〜21日、G7広島サミットにおいては信頼できるAIという共通のビジョンに向けて、各国でのアプローチと政策手段が異なることは認識しつつ、AIガバナンスについて相互運用性のある国際ルールの策定の重要性について言及されました。この観点を踏まえ、OECD及びGPAIと協力しG7の作業部会を通じた「広島AIプロセス」が年内に創設することが示されました。

成果文書としてG7広島首脳コミュニケが公表され<デジタル>の項目の38に記載がありますのでご参照ください。

G7広島首脳コミュニケ(仮訳)より抜粋 (英語原文 

我々は、法的拘束力を有する枠組みを尊重しつつ、AIの標準の開発におけるマルチステークホルダーアプローチの更なる推進にコミットし、責任あるAIの推進のため、透明性、開放性、公正なプロセス、公平性、プライバシー及び包括性を推進する 手続の重要性を認識する。我々は、信頼できるAIという共通のビジョンと目標を達成するためのアプローチと政策手段が、G7諸国間で異なり得ることを認識しつつも、AIガバナンスに関する国際的な議論とAIガバナンスの枠組み間の相互運用性の重要性を強調する。我々は、マルチステークホルダー型の国際機関を通じて、信頼できるAIのためのツール開発を支援し、マルチステークホルダープロセスを通じて、標準化機関における国際技術標準の開発及び採用を促す。我々は、国や分野を超えてますます顕著になっているAIの機会及び課題について直ちに評価する必要性を認識し、OECDなどの国際機関が政策展開の影響に関する分析を検討し、人工知能グローバルパートナーシップ(GPAI)が実践的なプロジェクトを実施することを奨励する。この観点から、我々は、関係閣僚に対し、生成AIに関する議論のために、包摂的な方法で、OECD及びGPAIと協力しつつ、G7の作業部会を通じた、広島AIプロセスを年内に創設するよう指示する。これらの議論は、ガバナンス、著作権を含む知的財産権の保護、 透明性の促進、偽情報を含む外国からの情報操作への対応、これらの技術の責任ある活用といったテーマを含み得る。我々は、デジタル・技術大臣会合における「AIガバナンスの相互運用性を促進等するためのアクションプラン」を歓迎する。

国内編では日本国内における政策動向とG7広島サミットの成果との関係性について整理を行いましたが、今後、海外の生成AI・LLMに関する政策動向についても発信する予定です。

直近でもアメリカではホワイトハウスでのAI Big tech企業の会合、OpenAI社サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)の米上院公聴会出席、EUでもAI規制法案の欧州議会承認等がありました。先日開催されたG7広島サミットの議論も踏まえて様々な動きが予想されます。引き続き、AIのもたらす社会への影響、課題に対する政策やルール策定の動向を注視し発信していきます。

(松橋 智美)

合わせて「ChatGPT等のLLM、生成AIに関する国の政策の動向について(国外編)」もご覧ください。