6月5日、国連の定める「世界環境デー」と、環境基本法による「環境の日」であることから、環境省の協力もいただき、国連や自治体などとともに、政府や地方自治体、企業といった既存の枠組みを超え、循環型社会や持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けた連携について考える「SDGs循環型社会推進公民連携フォーラム」を開催しました。
SDGs循環型社会推進公民連携フォーラム |
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共催 |
国際連合地域開発センター、徳島市、蒲郡市、行方市、大町市、大淀町、揖斐川町、メルカリ |
後援 |
愛知県、名古屋市、北杜市 |
協力 |
環境省 |
SDGsは2015年に採択されましたが、2023年は、2030年を達成年限とするSDGsの「中間年」にあたります。
また、2023年5月のG7・広島サミットでは、気候変動・環境・エネルギー問題もトピックとなり、資源循環の重要性が指摘されるなど、SDGsへの関心が国際的に一層高まっています。一方、政府の戦略※1では、サーキュラーエコノミー関連ビジネスの市場規模を2020年の50兆円から2030年までに80兆円以上にすることを目指すと記載され、資源を効率的・循環的に利用していく循環型社会に向けた競争環境整備や産官学連携などのパートナーシップが重要な観点となっています。
※1:出典:「成長戦略フォローアップ 工程表」成長戦略閣議決定(令和3年6月18日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/kouteihyou2021.pdf 「2030年までに、サーキュラーエコノミー関連ビジネスの市場規模を、現在の約50兆円から80兆円以上にすることを目指す」(P.227)
今回開催したフォーラムでは、日本全国の自治体職員や関心のある方に向けて、循環型社会・SDGsの実現に向けた公民連携やそのポテンシャルについて考え、これまでのメルカリと自治体の取り組みや、行政によるリユースや循環型社会の推進の取り組みを共有・発表することで、社会全体で循環型社会をどのように実現していくかを考えました。
会場となったメルカリオフィスでの現地参加とオンラインでの参加を合わせて130名以上にご参加いただき、このような公民の垣根を越えた新たな取り組みをキックオフできたことには、大きな可能性を感じました。
今回は、冒頭のオープニングメッセージと、セッション1のキーノートセッションで議論された話を中心に書いていこうと思います。
フォーラムは、オープニングメッセージを遠藤 和重 国際連合地域開発センター(UNCRD)所長(以下、国連 遠藤所長)と、水谷 努 環境省 環境再生・資源循環局 総務課リサイクル推進室 室長(以下、環境省 水谷室長)からいただき開会しました。
国連 遠藤所長> 廃棄を前提としないサーキュラーエコノミーという新たな社会の仕組みに移行するには、社会変革、個々の行動変容が必要と言われています。SDGsのゴール17『パートナーシップで目標を達成しよう』にあるように、企業・自治体・政府・個人などのすべてのステークホルダーが連携することが不可欠です。
環境省 水谷室長> 循環経済が世界的にも大きな潮流になっています。我が国でも、2030年に循環経済関連ビジネスの市場規模80兆円以上という目標の達成に向け、リユースをはじめ循環経済に向けた取り組みがメインストリームになるよう、必要な環境整備、民間企業や自治体の取り組みの後押しを行っていきます。4月から始まった第5次循環基本計画の検討も通じて、企業や消費者の意識、行動の変化を促し、あらゆる関係者が連携した循環経済の実現を後押ししていきたいと思っています。
循環型社会・サーキュラーエコノミーに関する最近の関心や動向
今回のフォーラムにおけるセッション1のキーノートセッションは、「SDGs・循環型社会に向けた課題と未来」とのテーマで、小泉 進次郎 元環境大臣・自民党サーキュラーエコノミーPT顧問・衆議院議員(以下、小泉議員)、武田 洋子 株式会社三菱総合研究所 研究理事 シンクタンク部門副部門長 兼 シンクタンク部門統括室長 兼 政策・経済センター長(以下、武田理事)にご登壇いただき、小泉 文明 株式会社メルカリ取締役会長(以下、小泉会長)とともに、SDGsや循環型社会を推進していくための課題や未来に向けた公民連携やそのポテンシャルについて議論をしました。
小泉議員> G7広島サミットの大臣会合でサーキュラーエコノミーを位置づける事ができたことは非常に大きかったです。さらに大臣会合の合意文書にとどまらず、首脳レベルの文章でもサーキュラーエコノミーの指針が合意されたことには大きな意味がありました。日本としても、例えば各自治体の再生材をどのように評価するのかについて適切な競争環境を整備していくことが必要ですし、サーキュラーエコノミーに関わる企業が世界のマーケットで評価される環境を整備していく必要があります。そうすれば、世界の経済の中で日本の基準や技術、サービスが受け入れられるようになります。国が支援する分野の一つにGXも入れているので、こうした資金も活用しながらどんどん後押ししていきたいです。
武田理事> 日本政府が目指す、2050年カーボンニュートラル社会の実現のためには循環型社会を同時に進めていくことが不可欠です。1つ目に、マテリアルの循環が必要です。例えば、プラスチックは消費、廃棄された後の焼却が6割にものぼります。2つ目に、昨今のウクライナ情勢によりレジリエンスの問題が顕在化しています。そのため、例えば、自動車のEV化の実現に向けて物資を確保する手段として、資源の循環は重要になってきています。3つ目として、金融市場の選択と成長のポテンシャルです。サーキュラーエコノミーを重視している企業が投資先として選ばれる傾向になってきています。ビジネスチャンスとしてもポテンシャルが大きいです。
小泉会長> 企業の競争戦略にもサーキュラーエコノミーという視点がだいぶ入ってきたという印象があります。メルカリは今年10周年になりますが、10年前に「サーキュラーエコノミー」と言っている人は誰もいませんでした。当時は社会の構造を変えるものというより、面白いもの・楽しいものとしての「フリマ」と捉えられることが多かったですが、この10年で経済的に見ても大きく変わり、投資家もそちらの方に大きく変わっていっています。環境だけでなく、その先に笑顔がある状況をつくることが重要だと思っています。
小泉議員> 「捨てる」を減らし、モノを循環させるというのは非常に重要なことで、「捨てる」を減らすだけだと節約のイメージが強いが、「捨てる」を減らすことでモノを循環させるという点まで含めて考えると、売買により地域や自治体にお金がまわり、経済が循環することに気づきます。環境の事を言っても動いてくれる人は一部で、マスが動くのは経済的な合理性がある時なんです。物価の上昇が問題になっている中で、むしろ「環境の取り組みをやると家計にとってやさしい」と訴えていくことも大事だと思っています。
武田理事> 循環についての取り組みを持続させパイを大きくしていくためには、経済で回るようにしなければならず、「循環をいかに価値化するか」が重要になります。消費者の行動変容という点で注目している変化は、直近10年間で20代のエシカル消費への関心度が大きく向上している点です。環境意識が強いシニア層と遜色ないほどに高まっています。消費者側の行動を変容させていけば、経済的な循環のムーブメントをより広げていくことにつながるのではないでしょうか。
循環型社会の実現には「楽しさ」と「体験」が必要
小泉会長> 若い世代の人達と話をしていると、新品ばかり購入していることがかっこ悪いという感覚になってきているなど消費に対する感覚が自分たちの世代とは変わってきていると感じます。リコマースとして紹介したような昔のブランドを着こなすことの方がおしゃれだったり、自分にとっていいものを探すようになっているとも感じます。循環型社会の実現に向けて、人々の行動を変容させるには「楽しさ」と「体験」が必要だと思っています。
例えば、「メルカリ」では全国の小学校でSDGsに関する出張授業を行っています。授業では、学校で要らなくなったものを「メルカリ」でいくらで売るのかなどを小学生自身で考えてもらっています。このような取り組みは、環境教育としてはもちろん、金融教育やアントレプレナーシップ教育にもつながるものだと思います。単純に「循環型社会をやりましょう」ではなく、こうした教育を政府や自治体の方々とさらに連携して次世代の子どもたちに広げていけるといいなと思います。
小泉議員> 環境教育と金融教育を両立させる出張授業のような企業の取り組みへの支援は政府の側からできることだと思います。また、循環型社会の実現に向けて先進的な取り組みを行っている自治体を支援することもできます。一方で、「捨てるをへらす」という意味では自治体ごとにやっていることが千差万別なので、先進的な自治体がしっかり評価されるようにする必要があります。また、政府として環境に負荷をかける製品の使用を避けるなど身をもって示すとともに、ライフサイクルアセスメントやカーボンフットプリントの関係からすれば、グリーンウォッシュのような事業には、「これはエコじゃない」と厳しく指摘することも国としてやっていかなければいけないことだと思います。
武田理事> 循環型社会の実現のためには3つの事が必要だと思っています。1つ目は「見える化」です。各アクターの取り組みや製品の質の「見える化」を促進すること、2つ目は「仲間づくり」です。評価基準の標準化や、種々のデータの接続などのため、企業や自治体、官民を超えたパートナーシップを進めること、3つ目が共感、取り組みを持続させていくために、べき論だけで語るのではなく、参加する個人が「ワクワク感」を感じ、ウェルビーイングの向上につながるようにすることが必要だと思います。
小泉議員> 仲間づくりという意味では、今月か来月、サーキュラーエコノミーの官民連携のプラットフォームが立ち上がる予定で準備が進んでいます。現在でも、ライバル関係にある企業さんが、この分野に関しては壁を超えて連携している例がありますが、自治体の皆さんもこのプラットフォームなどを活用して連携を進めてもらえればと思いますし、政治からも後押しをしていきたいと思います。
リユース市場の拡大、リコマース産業の育成
また、このセッションではメルカリから、現状認識として近年リユースの市場規模が右肩上がりで拡大しており、今後も拡大していくことが予想されることや、現在海外のハイブランドを中心に「一次流通事業者が自社の製品を市場から買い取り、そこに付加価値をつけて再び販売する」リコマースというビジネスモデルが主流になりつつあり、早晩日本でもこのような流れがでてくるであろうことを紹介しました。
さらに、「メルカリ」を通じて衣類では年間約48万トン、スマートフォン等でも約1.6万トンのCO2排出を削減することができたことをポジティブインパクトにより示し、「メルカリ」を通して既存の製品をリユースすることは環境に優しく、環境負荷の軽減につながるということも紹介しました。
「メルカリ」を利用することでモノを大切に扱うようになった人が6割いることに触れ、リユースすることを前提にモノを扱うことを考えるようになるなどの意識変容についても紹介しました。携帯電話の普及や「メルカリ教室」の実施などにより、「メルカリ」の利用者は、サービス開始直後の10年前は20代が中心でしたが、現在では50代や60代の方も増加しており、リユースの推進は、今回のテーマでもある「捨てる」をへらし、限りある資源が大切に使われる循環型社会の実現に繋がるとのメッセージが示されました。
今回のセッションでは、世界的に資源の循環を目指すサーキュラーエコノミーが注目を集めているとともに、日本としてサプライチェーンの面だけでなく、ビジネスチャンスの面からも循環型社会の実現は重要であることが確認できたと思います。メルカリは、早い段階から循環型社会の実現に向けてリユースの促進や自治体との連携を行ってきました。そして、実際にCO2の削減や消費者の行動意識も変化しています。循環型社会の実現には行政や民間などの既存の枠組みを超えた官民の連携や自治体間の協力が不可欠です。メルカリは今後も「捨てる」をへらし、必要なモノが、必要な人に、必要な量だけ届くような循環型社会を目指して取り組んでまいります。