司法修習生が政策企画での研修を通して学んだこと

メルカリの政策企画チームでは、司法修習生の自己開拓プログラムとして政策企画業務に参画し、業務内容や社会的な意義を解像度高く理解してもらうことを目的に、2023年8月16日から9月5日の3週間、西垣賢斗さんをインターンシップとして受け入れました。

具体的には、法的な課題について自律的に調査し、最終日に成果を報告いただくことを主務として、各種面談への同席や議事録作成等の業務をしていただきました。

本記事では、西垣さんがインターンシップとして参画した理由や経緯、体験して感じたことや学んだことを書いていただきました。

 

司法修習生とは?

私は、司法修習生として、メルカリの政策企画チーム(Public Policy)で3週間の研修を行いました。

そもそも司法修習生とは?という人が多いと思いますので、かんたんに紹介を行いたいと思います。

よく司法試験に合格するとすぐに弁護士になれると思われがちですが、司法試験に合格してから弁護士になる前に、1年間の研修を受ける必要があります。これが司法修習と呼ばれるものです。司法修習では、裁判官、検察官、弁護士といった法曹三者の実務を経験することがメインの研修となっていますが、自分で研修先を自由に選べるプログラムも存在します。そのプログラムの一環として、私はメルカリで研修を行うことになりました。

 

なぜメルカリの政策企画(Public Policy)で研修を行おうと思ったのか?

私はもともと制度作りに関心があり、弁護士になってからは、法律を運用するだけでなく、法律をより良いものに変えていく活動にも携わりたいと考えていました。近年では、時代の変化が早くなる中で、民間からルール形成に積極的に関与していく必要性が徐々に認知されてきており、法律の専門家である弁護士がこの分野で活躍できる場面が広がっていくのではないかと考えていました。

もっとも、弁護士がこの分野で活躍するためのノウハウはまだ確立されておらず、弁護士になる前にルールメイキングの実務を経験しておきたいと感じていました。そして、メルカリでは、かなり早い段階からルールメイキング活動を行う政策企画(Public Policy)チームが立ち上げられたと聞いており、ここで研修を行うことで積み上げられたノウハウを学びたいと思うようになりました。

 

メルカリという組織に来て感じたこと

政策企画チーム(Public Policy)での経験について書く前に、まずはメルカリという組織に来て感じたことを紹介したいと思います。

1つ目が、仕事の進め方です。ミーティングの前に議題に関する資料を作り込むといったことや、チーム内の各作業の進捗をスプレッドシートで共有するといった方法は参考になりました。

2つ目が、労働環境です。最近では改めて出社を義務付ける会社も増加している中、完全フレックスタイム制かつ出社自由という柔軟な制度を採用していることに驚きました。もっとも、カレンダーが空いているところには勝手にミーティング等の予定を入れてかまわないという文化や、Slackを上手く活用することによって、社内のコミュニケーションは円滑になされている印象でした。

3つ目が、バリューの浸透です。社内の会議などで繰り返しバリューに言及されることで、私も3週間研修を行っただけですが、Go Boldな精神が浸透したように思います。

 

政策企画チーム(Public Policy)での研修は何をする?

政策企画チーム(Public Policy)での研修では、①社内・社外ミーティングへの同席、②進行中の案件の検討、の2つを行いました。

①については、政策企画チーム(Public Policy)の定例ミーティングや、プロジェクトごとのミーティングなどさまざまな社内ミーティングに参加する機会をいただきました。また、社外の方とのミーティングに同席する機会もあり、相手方のオフィスに訪問する機会もありました。ほかに、社内のほかのチームのミーティングに同席する機会もいただき、社内での各チームの役割について幅広く理解することができました。

②については、進行中の案件について、どのような形で法令改正を要望するのが望ましいかについて検討を行いました。普段は法令がすでに存在することを前提に、それをどのように解釈・運用すべきかを検討していましたが、法令を新たに作り出すという作業は新鮮で、良い経験となりました。また、政策企画(Public Policy)チームの案件だけでなく、Governanceチームの案件の検討を行う機会もあり、課題を通しても社内の様々な活動を体験することができました。

 

政策企画チーム(Public Policy)での研修を通して学んだこと

研修を通して学んだことは多数あるのですが、そのなか中でも言語化できているものをいくつか紹介したいと思います。

 

ルールメイキングにおける法的知見の重要性

まず、ルールメイキング活動においては、法律や法律の運用に対する知見が不可欠であるということです。

ルールメイキングを行う際には、単に法律の仕組みを理解しているだけではダメで、「この法律のこの条文は~という目的で存在している」、「その目的に照らすとこういったルールに変更しても問題はないはずだ」という形で、条文レベルで法律の趣旨を正確に理解している必要があります。

さらに、法律の改正を訴えかけるにあたっては、今どのような不都合が生じていて、法律を改正することによってそれがどのように改善されるのかを説明する必要がありますが、そのためには法律を運用している現場の知識が必要不可欠です。

このような意味で、ルールメイキング活動においては法律に対する深い理解が必要であり、弁護士が活躍する余地は大いにあるのではないかと感じました。

 

リスク管理の考え方・手法について

次に、リスク管理の考え方・手法についてです。

法律家は法的なリスクにのみ着目しがちですが、政策企画チーム(Public Policy)では対人・対社会の関係で生じうるあらゆるリスクの管理・対応を行っていることを実感し、自分もリスクをもう少し幅広く見る必要があると実感しました。法的紛争に至る前段階でも、他社と提携を組みづらくなる、報復措置をとられる、ネガキャンがなされてしまう、といったリスクは存在し、弁護士としては法的紛争に至る前段階のリスクもきちんと指摘・対応できるようになる必要があると実感しました。

また、リスクが現実化する過程をリスクシナリオとして具体化している点も勉強になりました。例えば、「レピュテーションリスクがある」といった指摘では抽象的すぎるため、「●●が~といった形で取り上げ、その結果~といった論争が生まれ、結果的に~の市場が縮小する」といった過程を具体的に考えることは重要であると感じました。

更に、リスクを検知した場合に、それを低減する方法がないかを検討した上で、改めてリスクの重大性や発生確率の判断を行っていることも印象的でした。リスクが生じたとしても、何らか相手方にもメリットになるような形を採用したり、適切なコミュニケーションをとることによってリスクを低減する余地もあるため、弁護士としてはそのようなリスク低減手段も含めてアドバイスができるようになることが重要だと実感しました。

 

最後に

3週間という短い期間でしたが、生の政策企画の実務に触れることができ、充実した研修を行うことができました。司法修習生を受け入れた経験はなかったにもかかわらず、このような機会を設けてくださった政策企画(Public Policy)チームの方々、人事担当の方々には感謝しかありません。この経験を活かして、私も政策企画(Public Policy)の分野を世に周知できるよう活動していきたいと思います。