2022年11月にOpenAI社のChatGPTがリリースされてから1年が経ち、生成AI・大規模言語モデル(LLM)が様々なところで社会実装が進み、活用され始めています。今回はメルカリのサービス内での活用や社内ハッカソン等の検討の様子について、ご紹介いたします。
また、直近の政策動向も合わせて掲載し、この分野に関わる方々と、AI活用のユースケース及び、政策文書などの原典情報をしっかり共有して、課題意識や議論を発展させていきたいと思います。
生成AI/LLM専任チームの立ち上げと環境整備
弊社では、5月1日に生成AI/LLMの専任チームが新たに設置され、メルカリグループ内の生産性向上や、プロダクト実装に向けて検討が開始されました。
早速、まずは社内の生産性向上のために生成AI・LLMを業務で活用したいという声に応え、米OpenAI社の「Chat GPT」と米GitHub社の「GitHub Copilot」※1を導入しました。
※1:GitHub CopilotはAIが最適なコードを提案してくれる、プログラミングをサポートするツールです。
また、生成AI・LLM専任チームだけではなく、チーム・部署を横断した生成AI・LLMの活用検討が日々行われています。取り組みの一部として、6月にメルペイで開催された「ぐげん会議」と、9月に開催された全社メンバーを対象としたハッカソンイベント「Mercari AI Builders Fest」についてご紹介します。
「ぐげん会議」とは、名前のとおりアイデアを「具現化」するために開催された社内ハッカソンです。「LLMを活用してプロダクトや社内ツールとして何が作れるか?」をテーマに10チームが参加し、ユニークなプロジェクトを4名の審査員の前で発表しました。
全てのチームがデモを開発して使えるようになっており、本イベントを通じて参加者はLLMの新たな使い方を学び、実際の業務でどのように利用できるか理解することができました。今回生まれたユニークなアイデアを「具現化」すべく、社内では引き続き様々な角度から検討が続いています。
「ぐげん会議」についての詳細は以下の記事からご覧ください。
「Mercari AI Builders Fest」は実際のプロダクトへの施策提案を目的とし、優勝者(MVP賞)のアイデアは「「メルカリ」アプリへの機能実装を確約」されることを前提に、「実際にお客さまのためになる、使えるプロダクトが使えるか?」というテーマで開催されました。
忙しい業務の合間に練られたアイデアを9チームが発表し、白熱したハッカソンとなりました。当日の様子は以下の記事からご覧いただけます。
メルカリではこのように、エンジニアだけではなく全社員が参加できるイベントが開催され、生成AI・LLMへのリテラシー向上とともに、ボトムアップによる生成AI・LLM活用の検討が日夜行われています。
「Mercari Chat GPT プラグイン」の提供
前述のような社内での検討を経て、7月24日には「メルカリ」とOpenAI社の対話型AI「ChatGPT」向け機能拡張ツール(ChatGPTプラグイン)を連携させた商品検索機能の提供を開始しています。
ChatGPTプラグインとは、OpenAI社が2023年3月に公開した、外部サービスとChatGPTを連携させて活用できる仕組みです。これまで「メルカリ」で欲しい商品を見つける機能は、キーワードをもとにした検索や検索履歴に基づくおすすめ表示が中心でしたが、ChatGPTプラグインの導入により、「メルカリ」および「メルカリShops」で出品・販売されている多様な商品の中から、探している商品の用途や特徴、価格帯などの情報をChatGPTに入力することで、特定のキーワードによる検索をしなくても、自然な会話を通じた商品検索が可能になりました。
「メルカリAIアシスト」のリリース
10月17日には「メルカリ」上で、生成AI・大規模言語モデル(LLM)を活用した、お客さま一人ひとりのためのAIアシスタント機能「メルカリAIアシスト」の提供を開始いたしました。お客さまに見える形で「メルカリ」アプリに実装するのは「メルカリAIアシスト」が初めてとなりました。
「メルカリAIアシスト」は、出品・購入・その他のお困りごとの解決など、「メルカリ」をご利用いただく際のあらゆる場面において、AIがお客さまの最適な行動を促す機能です。
最初の機能として、出品済みの商品情報をAIが分析し、商品がより売れやすくなるよう出品者に改善提案を行う機能を導入しました※2。一定期間売れ残っている出品商品に対して、AIが「メルカリ」の過去の情報を元に商品情報の改善提案を行います。商品サイズや購入時価格など、追記すべき内容を提案するだけでなく、おすすめの商品名等を自動生成します。
「メルカリAIアシスト」は今後も、購入や出品をサポートする機能など、生成AI・LLMを活用した機能を拡充していく予定です※3。
※2:「メルカリAIアシスト」は一部のお客さまから段階的に利用可能になります。なお、現在はiOS版メルカリのみでご利用いただけます。
※3:「メルカリAIアシスト」の利用に関する注意・免責事項は「AIアシスト」に関するご注意( https://help.jp.mercari.com/guide/articles/1481/ )」をご確認ください。
今後の生成AI・LLMの活用の展望
また、今後はキャンペーンや広告のクリエイティブへの生成AIの活用も検討しています。10月には、生成AIによって作られたハロウィン関連のCMを渋谷駅の屋外広告に掲載いたしました。
今後のメルカリにおける生成AI・LLMの活用の展望、生成AI/LLMの可能性を探索する場として「メルカリ」の魅力等を、執行役員 VP of Generative AI/LLM の石川 佑樹が以下の記事にて述べておりますのでこちらも合わせてご覧ください。
生成AI・LLMを巡る政策・規制動向
生成AI・LLMの政策・規制については、引き続き国内外で活発に議論がされ、活用推進と規制に関する政策動向は国内外で日々めまぐるしく変化しています。
10月30日には、G7首脳より広島AIプロセスに関するG7首脳声明が発出されました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100573465.pdf
同日、米国ではバイデン政権から「人工知能(AI)の安心、安全で信頼できる開発と利用に関する大統領令」が発令され、米国において初めての法的拘束力のある行政措置となりました。
11月1日、2日には英国にて「AI SAFETY SUMMIT」が開催され、AIのリスクと安全性確保について議論がなされました。EUだけでなくアフリカ、中東、アジアを含む世界28 か国が、AIの安全性に関する「ブレッチリー宣言」に同意しました。
日本においても、10月31日には経済産業省に新たに設置された「AI事業者ガイドライン検討会」が開催され、先日公開された「新AI事業者ガイドラインスケルトン(案)」に関する具体的な議論がなされています。
11月7日に開催されたAI戦略会議第6回では、AI関連事業者が守るべき行動規範の履行確保及びAI利用の促進の検討に関する方向性が示されました。
透明性向上に向けた情報開示の枠組みや、リスクの高い分野における履行確保措置等について検討が進んでいます。
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/6kai/13rikoukakuho.pdf
12月1日には「G7デジタル・技術大臣会合」が開催され、G7構成国・地域のほか、関係国際機関が参加し、広島AIプロセス及びDFFTについて議論を行い、成果文書として、「広島AIプロセス G7デジタル・技術閣僚声明」及び「DFFT G7デジタル・技術閣僚声明」が採択されました。G7の議長国は日本からイタリアへと引き継がれます。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000915262.pdf
「広島AIプロセス G7デジタル・技術閣僚声明」の主なポイント(総務省HPより)
(1) 以下の4要素から構成される「広島AIプロセス包括的政策枠組み」の策定 (1)生成AIに関するG7の理解に向けたOECDレポート (2)全てのAI関係者向け及び高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセ ス国際指針 (3)高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範 (4)プロジェクト・ベースの協力 (2) 広島AIプロセスを更に前進させるための作業計画の策定 |
このように生成AI・LLMの分野では国際的な政策議論が活発になされています。
メルカリは、引き続きAI分野における倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues/ELSI)に配慮し、「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というグループミッションのもと、様々な利用シーンに生成AI・LLMを組み込んでいくことで、利便性を向上し新たなお客さま体験を創出してまります。
今後もメルカリグループにおけるAI活用の取り組みとともに、AIのもたらす社会への影響、課題に対する政策やルール策定の動向を注視し、発信していきます。
(松橋 智美)