話題の書籍「未来を実装する」にmerpoliが登場。著者の馬田さんにお話をうかがいました!(前編)

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メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」が、今話題の書籍『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』の中で紹介されました。

同書は、デジタル技術を社会に浸透させるための考え方やその手法について画期的かつ具体的な提案を行う本であり、スタートアップの経営者はもちろん、パブリックアフェアーズに関わる人からも注目を集める一冊となっています。

「merpoli」は同書巻末の「社会実装のツールセット」の中でご紹介いただきました。社会実装を進めていくためのツールセットの7つ目「規制の変更」の章の中で、情報発信によって透明性を担保したガバメントリレーションズ活動を行っている例として取り上げられています。

そこで、早速、メルカリ政策企画チームが著者の馬田隆明さんにコンタクトをとったところ、馬田さんにインタビューをさせていただく運びとなりました。

今回は、このインタビューの内容について、前編、後編と分けてお届けします。

前編では、馬田さんが『未来を実装する』を執筆するに至った思い、同書によって伝えたかったメッセージなどについてお届けします。

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2020年代のデジタル技術の社会実装

高橋> 今回、馬田さんが執筆されて、merpoliについても取り上げていただいた『未来を実装する』ですが、大変話題になっていて様々な本屋さんで平積みで並べられているところを見かけます。私も読ませていただいて、スタートアップの領域の方だけでなく、さまざまな業種・業界の人に読まれるべき、価値のある本だと感じました。まず、こちらの書籍の内容について、簡単にご紹介いただけますか。

 

馬田> 『未来を実装する』は、ひとことで言うと、「デジタル技術の社会実装をどうやればうまくいくのか」というテーマについて、事例をベースに書いた本になります。特に2020年代以降、デジタル技術の社会実装の方法が少し変わってくるのではないかと考えていてます。その「社会実装の方法論の変化」というところをお伝えしたくて書いた本になります。

 

高橋> 2020年以降の変化というお話がありましたが、具体的にはどういったところに変化が生まれていくのでしょうか。

 

馬田> 2つポイントがあると考えています。

 まず、1つ目として、デジタル技術が社会的なインフラになっていく、という変化があると思います。デジタル技術の重要性が増していって、社会に対する影響力がどんどんと大きくなっていく。そうなっていくと「社会といかに折衝していくか」というところが新たに課題となっていくと考えています。

 現在でも「DX (デジタル・トランスフォーメーション)」と言われているように、これまでの産業構造の中に「デジタル」というものが自然と入っていく段階になってきています。そのときに、デジタル技術はどのように社会的責任を果たしていくべきかといったところを考えなければいけないと思います。

 もう1つは、ビジネス全体の流れの中で、「環境」であるとか「サスティナビリティ」といった公共的な領域、これまで市場の外にあった領域、あるいは社会に対する貢献というものがビジネスに直結するフェーズになってきたと感じています。これまでのような利益だけを追求していくようなモデルでは社会実装はうまく進まないということが認識され始めていますし、ESG投資をはじめとして、そうした社会的な貢献がある企業にお金が集まりつつあります。そこで、テクノロジーを活かした価値をどうやったら社会と一緒に生んでいけるのかということを考えていかないといけないフェーズに移ったのではと思います。

 

高橋> いわゆる「DX」を単なる業務のデジタル化というところにとどめずに、公共的な役割を担っていく、従来の市場の外側にある領域に参加していくという視点にこの本の面白さがあるのではないかと感じています。馬田さんが、このような問題意識を持たれたきっかけはどのようなところにあったのでしょうか。

 

馬田> そこに気づいたきっかけは、アジア・パシフィック・イニシアティブで行ったワーキング・グループです。

 デジタル技術とガバナンスの関係性という議論は、当初は特にフィンテックの周りで意識されていたように思います。金融領域は消費者や市場を守るために様々な法規制があります。そのためデジタル技術という新しい技術を既存のガバナンスの中でどう活かすべきなのか、あるいは必要に応じて、消費者にとっての安全性・利益を守った上でどう規制やガバナンスを変えていくべきなのか、ということが初期から議論されていました。そして、ワーキング・グループでの活動を行う中で、こういった問題はフィンテック業界だけでなく、他の業種・業界においてもきっと起きていく、あるいは現に起こっているのではないかという知見を関係者の皆さんから得たのがきっかけです。

 一方で、こうした問題の認識は広まりつつあるものの、実際にどのようにやるとうまくいくのかという社会実装の道筋を示す情報が手に入りづらいという問題意識もありました。そこでこうした情報について、今回、本としてまとめようと思いました。

 

読者に示したかった「インパクト」

高橋> この本は、経営者の中でも、特に、DXに関わりを持つ企業でありながら社会的な問題にまだ関心を持っていない、あるいは、ぼんやりとした関心はあるものの具体的な問題に落とし込む方法がわからないと思っている方々に向けて書かれたものであるように感じました。

 『未来を実装する』は、どんな人に向けて、そして、その人たちにどんな影響を与えたいと思って執筆されたのでしょうか。

 

馬田> まずもってこれからのスタートアップの経営者、起業家に向けて、「こういう方向に向かっていくほうがいいんじゃないか、そのときはこういうやり方がいいんじゃないか」という提案をしたいと考えていました。これからのスタートアップは規制領域に挑む会社も増えてくるはずで、そうした場合のやり方や戦い方を伝えるのは意義があるのではないかと思ったのです。またソーシャルインパクトをちゃんと考えていく方がビジネスをしやすくなってきていて、さらに、そちらに意識を向けた方に人が増えてくることによって、社会全体がよくなるのではないかという思いがありました。これに加えて、大企業の中の経営者や新規事業担当者などにも読んでいただくことをイメージして書いていました。

 

高橋> さらに踏み込んでお聞きしますが、この本の特にここを読んでほしいというところを挙げるとするとどの部分になりますか。

 

馬田> そうですね。特定のこの部分というよりは、読んでいただいている皆さん自身が得意としている分野の横の章(分野)を読んで欲しいという思いがあります。というのも、反響をいただく中で、皆さまがご自身のバックグラウンドに近い部分に興味をもって読んでいただいてると感じています。例えば、経営者であれば「インパクト」、マーケティングの人は「センスメイキング」、法律家や官僚は「ガバナンス」といった部分に関心をもって読んでいただいてると感じています。一方で、経営者には「ガバナンス」や「リスク」についてちゃんと目を向けてほしいという思いがあります。自分の得意分野の隣の章を読むことで、新しい視点が開けるのではないかと思うので、ぜひそういったところを読んでいただきたいです。

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これからの30年に起業家に求められる能力

高橋> 今まではビジネスの世界に進む人と法律・政治系の分野に進む人が分かれていたように思います。ところが最近では、弁護士などの法律家でもビジネスに連携していく人が出てきているなど、両者の境目がなくなってきているように感じます。そういった分野がシームレスになってきている現状は、本を執筆する上で特に意識されましたか?

 

馬田> ビジネスと法律・政治領域の垣根がなくなってきているというのはすごく感じるところです。特に、スタートアップ企業に関わる弁護士はビジネスにかなり近いところで仕事をしており、法を守ることを支援する「ガーディアン機能」だけではなく、新たにビジネスを作り出す「ビジネスクリエイション機能」を担っている方達も増えてきているように感じます。一方で、起業家の中にも、法律に意識を向ける人が増えてきており、スタートアップの初期の段階から弁護士の関与を得ながら進めている事例も聞きます。エンジニアでも、個人情報保護法やセキュリティについて理解を深めるであるとか、「データ・フリー・フロー・ウィズトラスト」と言われるような国際的な動きに目を向けながら、データをどのように取り扱えばよいのかといった議論がなされているように思います。

 各プレイヤーが「あるべき論」を語る中で、それぞれが自分の周辺分野に対してリスペクトを持ち、お互いに理解を深めていくという考え方が生まれてきていると感じます。

 

高橋> 起業家の中で法律や既存の制度に対する「意識」が変わってきたというお話でしたが、「能力」についてはいかがでしょうか。社会が変わっていく中で、経営者,起業家に求めれる能力も変わっていくのでしょうか。

 

馬田> そうですね。これからの30年は、例えば「カーボンニュートラル」というような大きなアジェンダの達成に向けて社会が大きく変化する時期にあると思います。また、安全保障のリスクといったような大きな不安要素も顕在化しつつあります。

 こうした大きな変化の中では、専門的なパースペクティブを持っているだけでは機会を見逃してしまうことがあると思います。例えば、起業家であれば、単なるビジネス上の起業能力だけでなく、政策起業という形で政策や社会全体を変えていく意思を持ち、さらに実際に変えていける能力を示すという方がビジネス領域でも高い評価を得ていくと思います。そして社会を良い方向にもっていくということを考えた時に、広い視野と長い射程で物事を見る能力が今後の数十年で大事になってくると思います。



後編では、さらに、馬田さんがmerpoliに着目した理由、今後のmerpoliやメルカリ政策企画の活動に期待することなどついてお話しいただいた内容をお届けします。

起業家・経営者が「広い視野と長い射程で物事を見る能力」を持つために「政策企画」の仕事はどんな役割を果たすとこができるのか、書籍の続きを描くような踏み込んだお話をいただきました。

どうぞ楽しみにお待ちください。

 

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馬田 隆明 (Takaaki Umada)

東京大学産学協創推進本部FoundXおよび本郷テックガレージディレクター。University of Toronto卒業後、日本マイクロソフトでのVisual Studioのプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行う。2016年6月より現職。東京大学ではスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどの情報提供を行う。著書に『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(英治出版)、『逆説のスタートアップ思考』(中央公論新社)、『成功する起業家は居場所を選ぶ』(日経BP)。

 

インタビュアー

高橋 亮平(Ryohei Takahashi)

メルカリ会長室政策企画参事 兼 merpoli編集長。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、 神奈川県DX推進アドバイザー、国立大学法人滋賀大学講師。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房客員研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか。