話題の書籍「未来を実装する」にmerpoliが登場。著者の馬田さんにお話をうかがいました!(後編)

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先週に引き続き、『未来を実装する』の著者、馬田隆明さんへのインタビューの後編をお届けします。

後編では、前編での書籍に関する包括的な内容に続いて、特に「merpoli(メルポリ)」や「政策企画」といったパブリックアフェアーズの持つ役割についてお話しいただいた内容についてお届けします。

 

ぜひ、前編も合わせてご覧ください。

 

「パブリックアフェアーズ」という社会実装ツール

高橋> 書籍を拝読させていただいて、個人的に、巻末の「社会実装のツールセット」の部分が特に面白くて、興味深く読ませていただきました。ぼんやりと意識されていた社会実装のための手段が明示されていて、読者が思わず膝を打つような「ツール」がたくさん挙げられていました。一方で、書籍の副題にもなっている「4つの原則」というところからすると、4つ目の原則「センスメイキング」の章で完結しても良かったようにも感じられます。最後にツールセットの章を加えたのは、何かねらいがあったのでしょうか。

 

馬田> 私自身、もともと「How」の面、どうやったらビジネスがうまくいくかというところに興味があります。これまでに行ってきた、スライドを通じたスタートアップ向けの情報発信も、このHowへの興味関心がベースにあると思っています。本書も全体的にHowの本だと思っていますが、今回はそこが色濃く出て、明日から使えるHowとしての「ツールセット」という形になったのかなと思います。

 もう1つ、情報として点在していたものをまとめたかった、というところがあります。例えば、ルールメイキング・法改正の方法についての情報は、実は、人に聞いたり探したりすればたくさん見つかります。しかし、まとまった形で、かつ文脈も補強しながら把握することは難しかったように見えました。

 ルールメイキングが新たなビジネス領域を作っていくうえで重要であることは、それなりに認識されはじめているように感じていますが、一方で、具体的な立法の過程やその大変さを理解していないと的外れな働きかけをしてしまうのでは、という懸念もありました。実は懸念だけではなく実際にそうした例も聞いたことがあります。日本のスタートアップエコシステムがそうした事態に対応するためには情報提供が必要だろうなと思い、「社会実装のツールセット」としてまとめるに至ったのではないかと思います。

 

高橋> お話しいただいた「ツールセット」の中で、その7つ目の「規制の変更」として、パブリックアフェアーズ(以下、PA)や、ルールメイキングが挙げられていました。ITなどの技術とは異なるこうした要素が、「社会実装」にとって重要であると思われたのはなぜでしょうか。

 

馬田> PAやルールメイキングは、もしかしたら、ほとんどのビジネスにとって重要ではないものなのかもしれません。例えば、ルールメイキングと言っても、既存のルールに則れば足りてしまうビジネスのほうが圧倒的に多いです。それにPAをしなくても、意義が伝わるビジネスがほとんどです。

 しかし、一部のスタートアップは違います。今後、社会を大きく変えていくようなスタートアップを立ち上げていこうというときには、既存のルールをより良い方向にアップデートしなければならないケースも増えるでしょうし、全く新しいビジネスの場合はそのビジネスの意義を社会に理解してもらい、社会と一緒に実装していく作業が必要になります。そうしたスタートアップを起業したいとき、大きく社会を変えるビジネスをしたいときには、PAやルールメイキングは重要なビジネス機能の一つになってくると思います

 それに規制改革や規制緩和をただ主張しているだけでは「結局民間企業が儲けたいだけじゃないか」というイメージにどうしてもなってしまいがちじゃないですか。実際に規制を変えることで、利益を受けるのは市民の側であっても、そうした疑念は絶えません。そこでPAのように、パブリックな場で自社の社会に対する考えを伝えて、そして受け手の皆さんにセンスメイキングを促す、という地道なコミュニケーションをしなければ、ビジネスを社会に実装するのは難しい時代になってきているのではないでしょうか。

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馬田隆明 氏

 

顔の見える情報発信「merpoli」

高橋> 『未来を実装する』の中で、今回インタビューをさせていただいているメルカリ政策企画チームのブログ媒体「merpoli」も取り上げていただきました。なぜ「merpoli」を取り上げようと思ったのか、馬田さんが特に「merpoli」に着目した理由についてお聞かせいただけますか。

 

馬田> まず、他に例を見ないというところがありました。「merpoli」のように、企業の中の政策企画部門が独自の記事媒体を持っていて、そこで情報発信を行っているというところはそう多くないと思います。

 また、「merpoli」は、メンバーの人の顔が見えるところがすごく良いと思います。高橋さん、吉川さんといったような情報を発信している「人」がわかって、顔が見えて、その人の声で発信してるところに信頼感が生まれている印象があります。時には問題が起こって必要に迫られて情報を開示しているという場合もあるかもしれませんが、社会からの要請に対して誠実な発信をしようとしている姿勢を感じたところが、今回、本書の中で取り上げる一つのきっかけだったと思います。

 実は、merpoliの記事は大体読んでます(笑)。これからも「メルカリの手法を透明性を持って公開していく」というところを引き続きやっていってほしいです。

 

高橋> ありがとうございます。やる気が出ます(笑)。

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メルカリ高橋亮平

 

未来の実装における「政策企画」の役割

高橋> 最後になりますが、メルカリ政策企画チームをはじめとした「政策企画」の仕事は、馬田さんの思われてる「テクノロジーの社会実装」の中で、どのような役割を担っていくと思われますか。

 

馬田> まず、現状の課題として、経営者がビジネスと政策をつなげて考えていく際に、大きな絵は描けるけれど細かいところはよくわからない、という状況があると思っています。経営者に政策の投げ込みの詳細を分かって欲しいというのも求めすぎで、現実的ではありません。そこで、「政策企画」の人たちが「あなたの思い描いているビジョンは、こうやっていくと具体的になってきますよ」「実務的にはこんな着眼点がありますよ」といったふうな提案をすることで、経営者にとって大きな力になることができるのではないかと思います。

 さらに、経営者のビジョンを具体化していくだけではなく、「経営者にもっと大きなビジョンを持ってもらう機能」も徐々に備えていくと良いなと思います。もしかしたら、高橋さんも既にやられてることかもしれませんが、経営陣に対して「せっかくならビジネスをこんな風にして、社会に良いことをやっていきましょう。」「今後、我が社はきっとこういう社会的な意義を持つので、さらに先のビジョンをこんな風に描きましょう。そうしてビジネスも社会貢献もさらに広げていきましょう。」という提案を積極的に行っていくことを期待したいです。

 そうして一定の規模を超えた大企業の中で、PAをやっていくのが当たり前、という雰囲気が醸成されていけば良いなと感じています。

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馬田隆明 氏

 

『未来を実装する』の中で馬田さんが紹介されたように、ビジネスの中でのパブリックアフェアーズの重要性が徐々に意識されてきているように感じます。

「merpoli」では、今後も「社会実装」のプレイヤーとして、透明性を持った情報発信を行っていきたいと思います。

 

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馬田 隆明 (Takaaki Umada)

東京大学産学協創推進本部FoundXおよび本郷テックガレージディレクター。University of Toronto卒業後、日本マイクロソフトでのVisual Studioのプロダクトマネージャーを経て、テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行う。2016年6月より現職。東京大学ではスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどの情報提供を行う。著書に『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則』(英治出版)、『逆説のスタートアップ思考』(中央公論新社)、『成功する起業家は居場所を選ぶ』(日経BP)。

 

インタビュアー

高橋 亮平(Ryohei Takahashi)

メルカリ会長室政策企画参事 兼 merpoli編集長。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、 神奈川県DX推進アドバイザー、国立大学法人滋賀大学講師。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか