OECD International conference on the consumer marketplace of the futureでコロナを受けて拡大するECプラットフォームの今後の課題が議論

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今年6月15日から17日の3日間、OECD International conference on the consumer marketplace of the futureが開催されました。このカンファレンスは、「国際消費者政策会合」などと訳されるOECDが開催する会合であり、今回もOECDに加盟する各国から参加者が集まり、国際的な視点から消費者政策、とくにコロナを受けて拡大するECプラットフォームの今後の課題について議論されました。

今回は、会合に参加した政策企画の野々宮から、会合における議論の主な内容について報告します。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/international_affairs/

https://www.oecd.org/digital/consumer/conference-consumer-marketplace-of-the-future/

初日は、議長による開会の辞の後、欧州と米国のスピーカーによるマーケットプレイスが担う消費者保護の役割などについて活発な議論がなされたのですが、今回の論点を、「1.コロナ感染も踏まえたECの拡大などEC環境整備の意義」、「2.マーケットの透明性、競争促進」、「3.人間中心のデジタルガバナンスやデジタル・ディバイド、弱者包摂的なECのモデル」として、出された意見と開会の辞の要点をいくつかご紹介したいと思います。

 

1.コロナ感染も踏まえたECの拡大などEC環境整備の意義

  • OECDが消費者政策に取り掛かってから今年で50年になります。1999年に初のEコマースガイドラインが出され、以降、OECD各国ではEコマースが総リテールに占める割合が上昇を続け、例えば近年だと成長率の前年度比が40%を超える加盟国があり、これまで他のリテールコマースでは経験したことのない急速な伸びになっています。
  • ヨーロッパではコロナ禍においてはサービスに対して払う出費よりも自分の家で使うものにより多くお金をかけたという統計が出ており、その中でEコマース関連のサービスが伸びています。
  • 欧州ではサステナビリティを重要イシューと捉えています。 
  • コロナにより収入格差がさらに拡大して二極化が明確になってきており、このような時だからこそもっとアクセシブルで弱者包摂的なEコマースモデルが必要です。
  • 消費者の意識がサステナビリティや企業による環境問題への配慮に大きな役割を果たします。
  • 消費者保護はオンライン・オフライン問わず、同じレベルで行われるべきで、欧州でもマスクの高額オンライン販売が問題となりました。
  • 米国でもコロナによりDXが加速したが、それによりでデジタルデバイドも加速しました。例えばインターネット社会で取り残された人たちは、教育、ヘルスケア、就職、雇用など人生の主要な局面でもさらに取り残されてしまうという結果を生みました。
  • 今後もDXとデジタルデバイドは加速することは明らかですので、消費者保護のみならず、デジタルやAIを念頭においた社会のあるべき姿について包括的に考えていくべき段階になっています。
  • コロナによりEコマースが加速化され、それによりこれまで小さい地域でしかビジネスモデルの確立ができていなかった地方の小企業零細企業や農家さんたちもより大きいマーケットにアクセスできるようになりました。

 

2.マーケットの透明性、競争促進

  • ECを利用するユーザーが急増し、市場も急拡大しているにも関わらず、依然として規約が分かりづらく、ユーザーが何に同意しているか分からないままにサービスの使用開始にあたり規約に同意させられてしまっているという問題が残ります。消費者にとって、信頼でき、サステナブルで、安全なEコマースの環境整備に注力すべきです。
  • マーケット全体を透明化し、事業者がより競争しやすくすることで、個人の責任範囲を限定的にし、自己決定権を保護することが重要です。
  • アメリカでは巨大プラットフォーマによる独占など、競争の欠如が問題となっており、AIによる差別助長も最近ではホット・トピックになっています。 これらに関しては国境を越えて共同で対策をしていくべきではないでしょうか。
  • 欧州委員会の政策ミッションとしては、消費者が作為的不作為的に事業者により、判断に関して何らかのマニピュレーションを受けるのを避けるような結果を出すことと、事業者間で平等な競争環境を用意することです。その点でデジタルマーケット法とデジタルサービス法という2つの法律が大変重要な役割を果たします。
  • 今はデジタル関連の規制の執行については追いついていない状況ですが、そこにも投資を継続して執行側のキャパシティを上げていくとともに、例えばオンライン検挙などの権限をEU加盟各国に与えるなども考えています。
  • IT市場をグローバルに規制することも重要と考えています。

 

3.人間中心のデジタルガバナンスやデジタル・ディバイド、弱者包摂的なECのモデル

  • 人間中心のデジタルガバナンスが重要で、「平均的な消費者」ではなく「もっと弱い消費者」を念頭にルールメイキングすべき。テクノロジーもAIも、まず人間ありきという考え方を原則とすべきであり、その意味では、近年のEUにおけるAI規制の動きは大変意義深く、ドイツでAI法案が現在議論されています。
  • EU域内でもIT巨大企業のモノポリーにより低所得者が最も犠牲になっているという統計があります。巨大IT企業が政治的にも多大な影響力を持っているので、そこを適切に規制することは大変重要です。また、EUのデジタルサービス法とデジタルマーケット法は画期的であり評価できます。
  • 政府は消費者保護に関してもっとアクティブに責任をもって動いていくべきです。また、プラットフォーマーについては、違法品や模倣品販売などについて責任回避することなくもっと責任ある行動をとるべきです。
  • デジタル課税に代表されるように、国境を越えてグローバルにマーケットに影響を与えている巨大IT企業に適切な国際的な課税をすべきです。
  • デジタル・デバイドによる弊害、AI規制、プライバシー規制などといった側面から消費者保護を見ていくべきです。また、競争法と消費者保護法の両方から消費者保護にアプローチすべきです。
  • 大量生産により経済最大化するというコンセプトから価値の平等な配分というコンセプトに転換すべきです。消費者保護はそのうえで大変重要で、テクノロジーは基本的に人間を守るツールであるべきです。

 

主たる発言をした出席者は以下のとおりです。

Ms. Vestergaard (Deputy Secretary-General, OECD)

Mr. Reynders (European Commission, Commissioner for Justice and Consumers)

Ms. Slaughter (Acting Chairwoman, U.S. Federal Trade Commission)

Prof. Dr Kastrop (Federal Ministry of Justice and Consumer Protection, State Secretary)

John Frank (Microsoft Vice President for UN Affairs )

Ms. Leurent (Director General of Consumers International):

 

2日目は、サーキュラー・エコノミーやグリーン・エコノミーについて、ECとOECDの統計資料を元にディスカッションがなされました。

https://ec.europa.eu/info/sites/default/files/ec_circular_economy_final_report_0.pdf

https://www.oecd-ilibrary.org/environment/greening-household-behaviour_9789264214651-en;jsessionid=tVR6kM_eNdPWp-oqmEIirKPQ.ip-10-240-5-31

EUを中心とした先進国ではエコ・フレンドリーな取組に関する知識と意識が定着してきている一方で、途上国との間では意識レベルで相当の乖離があること、そのため、本来であればグローバルレベルで取り組むべき課題なのだが、地域間格差が顕著であることなどが述べられていました。

また、先進国においてもエコ・フレンドリーな購買活動を行うか否かは個人の経済レベルとも一定の相関が見られるため、独立した課題としてではなく、もっと包括的なアプローチを取るべきとの共通認識にもいたりました。

 

最終日となった3日目は、情報開示などにつき議論がなされました。議論の概要は以下のとおりです。

  • オンライン開示に関し、情報過多となることの課題や、その他の行動バイアス、オンライン開示をより効果的にするための方法等について経験的証拠をベースに幅広く議論されました。
  • 広告、パーソナライズドプライシング、オンラインサービスの契約条件、製品のリコール、集団訴訟の通知などのさまざまな「開示」がある中で、システム設計やアーキテクチャ上、消費者のbest interestとはならない決定をさせてしまう可能性があることなどにも多く言及がありました。
  • 情報開示では、高齢者や未成年者、ITリテラシーが低い消費者など、一般的な消費者ではなく弱い立場の消費者を前提としたポリシー設計が必要であり、「希少」「品薄」などの文言を用いる際には、それが偽情報であるか否かに関わらず事業者側に消費者の購買行動の結果責任を負わせるべきという意見がありましたが、一方で、消費者保護のための過度な責任を事業者に負わせることと、事業者の正当な利益や権利とのバランスの調整が必要という意見もありました。
  • オンライン上での情報開示については、全開示が求められるのが大前提ではありますが、情報を全て開示することのみに事業者の責任が求められるのではなく、消費者の立場に立った丁寧な開示を行うことを義務付けるべきとの意見も出されました。
  • 規制当局側と事業者側の消費者保護に関する責任範囲の分け方についても、例えば、誰にでも分かるプライバシースタンダードなどを規制側が作成し、事業者側はそれに沿った開示を行うようにすることの是否や、事業者側にどこまで結果責任を負わせるべきかなども含めて活発な議論がなされました。
  • いずれにしても、データを蓄積し、data drivenかつempirical evidenceに基づいたmethodologicalな消費者インパクトアセスメントを行い、それをベースにどのアングルにフォーカスして消費者保護をすれば良いか考えるべきという結論となりました。
  • また、昨今のグローバルなDXに伴いオンラインでの犯罪も国内に容易に国境を越えてしまうことを踏まえ、各国の法執行権限が国内に限定されていることから、クロスボーダーでの法執行に関する課題についても議論がなされました。

 

今回の記事は、OECDの国際消費者政策会合の報告記事でしたが、今後もこうした国際会議における政策動向などについてもmerpoliで掲載したいと考えています。

引き続きよろしくお願いします。

(野々宮 麻美)