メルカリが日本版「製品安全誓約」に署名した背景と、先行するEUにおける製品安全法制の動向

6月29日、河野太郎 消費者担当大臣(消費者庁)出席のもと、日本版「製品安全誓約」(以下、「Pledge」)の署名式が行われました。他のオンラインマーケットプレイス運営事業者6社の代表とともにメルカリからは取締役会長の小泉文明が誓約に署名するとともにCtoCモール事業者代表として挨拶と決意表明を行いました。

「Pledge」とは、BtoC, CtoC問わずオンライン上で取引されるリコール製品や安全ではない製品から消費者を保護することを目的として、規制当局や消費者からの要請に基づいて危険な出品物の削除等を行う、製品安全に係る法的枠組みを超えた「官民協働の自主的な取組」です。日本に先行して、EU(2018年)、オーストラリア(2020年)で既に署名済みであることに加え、2021年開催のOECD消費者国際会議においてOECD加盟国に対しても策定が推奨されていたもので、日本では消費者庁を中心に、経済産業省など関連省庁とともに日本国内の主要なオンラインマーケットプレイス事業者が議論を重ね、このたび全12項目で構成される誓約の策定となりました。

日本国製品安全誓約(日本語) (caa.go.jp)

製品安全の確保と消費者保護に関しては、冒頭の河野大臣の挨拶でも、我が国における取組の重要性についての言及がありました。また、弊社小泉からは、7月2日のフリマアプリ「メルカリ」のサービス開始10周年に際し、これまで限りある資源を循環させる豊かな社会の実現を目指してきたことや、今後もリユースや二次流通を通じて循環型社会の実現を加速させていくため、「安心・安全・公正な取引環境の実現」に向けてメーカーの皆様や公的機関などと連携して製品安全の確保に最優先で取り組むとともに、「Pledge」に則り循環型社会の実現に貢献できるよう製品安全の確保に取り組む決意を述べました。

メルカリは、2020年にもPSアワード(製品安全対策優良企業表彰)で、ネットモール運営事業者部門の特別賞を受賞し、その評価を励みに、製品安全にダイレクトに関わるチームはもとより他部署も巻き込んで横断的な取組施策を継続して推進してきました。メルカリにおける具体的な取組の内容については受賞当時のmerpoliの記事に掲載されていますので、合わせてご覧ください。

今後も更に取組を強化すべく着々と準備を進めており、製品安全確保を徹底するフローも構築し、対応チームメンバーも誇りをもって日々業務に取り組んでいます。

 

EUでの「Pledge」の対応状況

今回、日本で署名した「Pledge」は、日本に先んじてEUでも導入されていたことは先に述べたとおりです。ここからは、先行するEUの状況についてご紹介します。

EUにおいても、消費者の購買行動に占めるオンライン購買行動の割合が年々上昇していることに伴い、製品安全に関するオンライン販売特有の問題に対応するため、2018年に製品安全誓約が作成されました。これは、当時、世界初のイニシアチブとしてその後の潮流を牽引する重要な位置づけであったとともに、EU域内においても加盟国間で法規制に差異があった点やEU横断の法規制においても細かく対応しきれていなかったオンライン販売に関する諸問題への対応を補完する役割も果たしました。

EU版製品安全誓約でも、日本版と同様に、オンラインマーケットプレイスがリコール品や安全でない製品の削除対応を自主的に行い、対応の達成度合いを重要業績評価指標(KPI)として公表することとしています。

EUの製品安全誓約は策定当初は誓約項目は12項目でしたが、2023年3月28日の「2023年消費者サミット」において取り組みを強化する方針となり、改訂版にあたる「製品安全誓約+」の署名に至りました。改訂版では、誓約項目数が20項目に増え、オンラインマーケットプレイス事業者にも更に能動的に出品物の監視と削除に関与することを求めること、消費者にとってより透明性の高い通報・監視・削除の仕組みの構築、消費者がオンラインで直接販売している製品(中古製品を含む)関しても必要に応じて同様の対応をとることを項目として追記のうえ明文化するなどの内容変更および追加がありました。

参考リンク

製品安全誓約 voluntary_commitment_document_2021_v5_0.pdf (europa.eu) 全12項目

製品安全誓約+  pledge.sp (europa.eu)  全20項目

※2018年のEU版製品安全誓約も、BtoC,CtoCいずれも対象ではあったが、2023年の改訂版ではCtoCで販売される製品について誓約の1項目として明記された。

EUにおける製品安全誓約の評価について、欧州委員会の公式HPに掲載されている最新レポート(2023年3月公開)によると、政府からの要請を受けた2営業日以内の出品削除のKPIは77%、自主的な公開情報収集による2営業日以内の出品削除のKPIは87%の達成率となっています。また、規制当局との連携についてもうまく機能していると評価されています。政府により提供される情報のクオリティや精度に差異があるため、削除判断に時間を要するなどの理由により2営業日というデッドライン遵守が困難なケースがある中、多くの署名事業者は製品安全誓約のKPI目標を安心・安全への意識の向上につなげ、結果的に社内の体制整備や新業務フローの確立、反復型のオフェンダー等悪質な出品者への対策強化、類似品の自主的検知と削除などの具体的な取組を実現させているようです。そのため、法的拘束力はなくとも自主的な取組が促され、一定の成果が出ていると評価されています。

現在、EUで製品安全誓約に署名しているのは大手事業者を含む11社です。製品安全誓約の実効性が担保されていることがKPIの数字によって可視化されること、および大手各社による副次的な独自措置により、社会全体の製品安全意識向上の牽引役を果たしていると言えます。

参考:欧州委員会の公式HPには2019年7月の第一回進捗レポートから直近の2023年3月の第八回進捗レポートの全てが掲載されています。Progress reports on the implementation of the Product Safety Pledge (europa.eu) 

署名社は、Allegro,  AliExpress, Amazon, bol.com, CDiscount,  eBay, eMAG, Etsy, Joom, Rakuten France, Wish,

 

EUの製品安全法制について

製品安全誓約に加え、EUは近年、特に製品安全に関する法整備を加速度的に推進しています。ここ数年でも、オンラインプラットフォーム提供事業者に対してサービスの透明性や事業者の説明責任を強化するとともに消費者の権利保護についても詳細に規定するデジタルサービス法(DSA)や、大規模オンラインプラットフォーム提供事業者に対しての支配的地位の濫用防止と公正な競争環境の確保を目的とした、デジタル市場法(DMA)が発効しました。これらは現在のEUにおいてデジタル化に対応した消費者保護の法的枠組みの基盤となるものです。

さらにこれらに続いて、EU域内での新たな製品安全にかかる法的枠組みとなるGeneral Product Safety Regulation(GPSR)が2023年4月に可決・承認されました(2024年12月13日施行予定)。これにより、2002年の施行以来長きにわたりEU域内で店頭販売される製品の安全を主に念頭に置いて門番役を担ってきたGeneral Product Safety Directive(GPSD)は新たに置き換えられることになりました。GPSDには明記されていなかったデジタル化に伴う諸問題についてもGPSRで具体的に条文として明記することにより、昨今のオンラインマーケットプレイスでの国境を超えた取引の安全性にも対処する内容となっています。また、GPSRでは、オンラインマーケットプレイス事業者の製品安全に関する法的責任も規定しています。

また、EUにおいては製造物責任という観点からも製品安全に関する法制整備が進んでおり、2022年9月にNew Product Liability Directive改正案が出されました。この改正案が承認・可決されれば、1985年以来EUにおける製造物責任に関する主たる法的ベースとして用いられてきたProduct Liability Directiveにデジタル化や循環型経済、デジタル経済のグローバル化に対応すべく改正が加えられることになります。

これら3つの観点はG7でも着目され、世界的なトレンドでもあると言えます。

 

終わりに

政策の検討では、諸外国の法制度改正やその背景にある考え方などを参考にすることが多々あります。実際、「Pledge」の検討に当たり、EUの動きも参照され、結果的にはOECDの推奨例に準拠し、また先行するEUやオーストラリアで署名済みの製品安全誓約に共通する要素を全て盛り込んだものとなっています。さらに、日本独自の取組として、消費者対応について、事業者が「実際に取り組んだ業務フロー」等をKPIとして報告対象とするなど、消費者保護に関して一歩踏み込んだ内容となっています。

今後も、「Pledge」に限らず、GPSRの制定やNew Product Liabiliy Directive改正案の議論も日本の制度設計で参照される可能性があります。

海外の政策により社会がどのように変化したかを見てみることは、日本の未来予想につながるとも言えます。

メルカリは、世界的な取り組みである「Pledge」を通じて、安全で安心して「捨てる」をへらすことができる循環型社会の実現を目指していきます。

(野々宮 麻美)