2023年6月16日、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(2023改訂版)」(以下、実行計画2023)が閣議決定されました。
本記事では、今年の実行計画について、昨年の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(以下、実行計画2022)との比較やフォローアップとの対応を確認することでご紹介したいと思います。
実行計画の全体像
実行計画2023の全体構成は以下のとおりで、「Ⅰ.資本主義のバージョンアップに向けて」に続く全11章、69ページから成ります。
Ⅰ.資本主義のバージョンアップに向けて Ⅱ.新しい資本主義を実現する上での考え方 Ⅲ.人への投資・構造的賃上げと「三位一体の労働市場改革の指針」 Ⅳ.GX・DX等への投資 Ⅴ.企業の参入・退出の円滑化とスタートアップ育成5か年計画の推進 Ⅵ.社会的課題を解決する経済社会システムの構築 Ⅶ.資産所得倍増プランと分厚い中間層の形成 Ⅷ.経済社会の多極化 Ⅸ.日本の魅力を活かしたインバウンドの促進 Ⅹ.個別分野の取組 Ⅺ.新しい資本主義実現に向けた枠組み |
一方で、実行計画2022の全体構成は以下のとおりで、全7章、35ページから成っていました。
Ⅰ.資本主義のバージョンアップに向けて Ⅱ.新しい資本主義を実現する上での考え方 Ⅲ.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資 1.人への投資と分配 (3)貯蓄から投資のための「資産所得倍増プラン」の策定 2.科学技術・イノベーションへの重点的投資 3.スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進 4.GX及びDXへの投資 Ⅳ.社会的課題を解決する経済社会システムの構築 Ⅴ.経済社会の多極集中化 Ⅵ.個別分野の取組 Ⅶ.新しい資本主義実現に向けた枠組み |
以上の比較から、基本的な構造は引き継ぎつつ、実行計画2023では章立てが7章編成から11章編成に、全体のページ数も35ページから69ページに増加しました。
実行計画2023で追加された「Ⅲ.人への投資」や「Ⅳ.GX・DX等への投資」「Ⅴ.スタートアップ育成5か年計画の推進」「Ⅶ.資産所得倍増プラン」はいずれも実行計画2022の「Ⅲ.新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」の中で取り上げられていた分野でした。また実行計画2022では、「Ⅴ.経済社会の多極集中化 1.デジタル田園都市国家構想の推進」の一項目で言及があったのみであったインバウンドについては、「Ⅸ.日本の魅力を活かしたインバウンドの促進」と独立した章が新設されました。
実行計画2023では、昨年の重点投資分野の一つ一つが単独で章に格上げされ、各分野についてより詳細な方針が示されたと言えます。
次に、各分野の記述について詳細を見ていきます。
キーワード「三位一体の労働市場改革」
実行計画2023で始めに論じられている具体的な領域は「三位一体の労働市場改革」です。実行計画2023と同時に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(以下、「骨太の方針2023」)でも「第2章 新しい資本主義の加速」の冒頭に「1.三位一体の労働市場改革による構造的賃上げの実現と「人への投資」の強化、分厚い中間層の形成」を取り上げています。
2022年の骨太の方針と実行計画2022で岸田政権では「人への投資」の位置づけ4つの重点分野の最初に位置づけられ、その内容についても所得を増やす点により焦点が当てられていました(昨年の記事もご参照ください)。
骨太の方針2023と実行計画2023では以下に引用するとおり「リ・スキリング」、「職務給」、「労働移動円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を通じて、構造的に賃金を上昇させていくと示されました。
「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく。 |
骨太の方針2023 4ページより
日本を新たな成長軌道に乗せていくため、急速な少子高齢化による国内市場の縮小、既存の市場におけるシェア重視の経営体質、そして労働市場と企業組織の硬直化等、日本経済の様々な構造問題を背景とする人への投資や設備投資の遅れといった課題に更に加速して取り組む必要性もこの1年間で明らかになってきた。 このため、足元の高い賃金上昇を持続的なものとするべく、コストの適切な転嫁を通じたマークアップ率の確保を図り、三位一体の労働市場改革を実行することを通じた構造的賃上げを実現することで、賃金と物価の好循環へとつなげる。 |
実行計画2023 1ページより
後編は、実行計画2023を策定するに先だって「新しい資本主義実現会議」が実行計画2022の実施状況や課題を整理した「「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日)のフォローアップ」に着目して議論や最終的な計画を見ていきます。