政府が「スタートアップ育成5か年計画」を発表。6月実行計画からの検討プロセスと変化を見る

岸田内閣は、2022年11月24日にスタートアップ育成強化の方針となる「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。

merpoliでは、過去にも6月の骨太の方針等政府文書の内容や解説をご紹介しました。

岸田首相は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けています。6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(実行計画)」において、今回のスタートアップ育成5か年計画(以下、育成計画)の策定を目指しており、その計画が今回具体化されました。

本記事では実行計画策定から育成計画の検討プロセスや内容を説明していきます。

 

検討プロセスから見るスタートアップ育成5か年計画

まず、今回の育成計画策定の検討プロセスを見ていきます。

6月に閣議決定された実行計画では、本年末までに5か年計画を策定することが示されていました。

このため、以下の項目等について、実行のための司令塔機能を明確化し、新しい資本主義実現会議に検討の場を設け、5年10倍増を視野に5か年計画を本年末に策定する。

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今回の育成計画は、実行計画以降の実務的な検討を踏まえ、2022年10月14日から開始された3回のスタートアップ育成分科会を経て作成されました。

スタートアップ育成分科会は、スタートアップ企業、スタートアップとの連携に積極的な大企業、大手金融機関からベンチャーキャピタルまで、幅広い有識者で構成されています。

分科会長  新しい資本主義担当大臣兼スタートアップ担当大臣 

構成員    伊佐山 元 WiL (World Innovation Lab)創業者・代表取締役

出雲 充 株式会社ユーグレナ代表取締役社長 

板橋 竜太 TAKAO AI 株式会社代表 

上野山 勝也 株式会社 PKSHA Technology 代表取締役 

大櫃 直人 株式会社みずほ銀行常務執行役員 

菅 裕明 ミラバイオロジクス株式会社取締役 

関山 和秀 Spiber 株式会社取締役兼代表執行役 

中馬 和彦 KDDI 株式会社事業創造本部副本部長

分科会のメンバーに加えて、新しい資本主義実現会議のメンバーである3名の方も検討に加わっています。

平野 未来  株式会社シナモン代表取締役社長CEO 

松尾 豊   東京大学大学院工学系研究科教授 

米良はるか  READYFOR株式会社代表取締役CEO

分科会では、各委員から育成計画について提案がなされ、第2回分科会では、スマートニュース株式会社創業者・会長兼社長である鈴木健氏がゲストとしてプレゼンテーションしています。

各委員・ゲストの提案や議論の詳細は、以下URLの資料や議事要旨に示されています。

スタートアップ育成分科会 関連資料 

創業から上場やグローバル市場への挑戦と様々な成長段階にあるスタートアップやその関係プレイヤーの多角的な問題意識が反映されて、育成計画が策定されたことが分かります。

これらも、併せて参照することで分科会の議論が計画にどう反映されているのか、より深く検討プロセスを理解することができます。

 

6月の実行計画と比較した特徴

6月に閣議決定された実行計画でも育成計画を策定すること及びその要素となる14項目を示していました。

育成計画と、実行計画を比べると、新しい視点が取り入れられ、方向性が具体化されました。

本記事では3つの変化についてご紹介します。

1つ目は、スタートアップ育成に対する問題意識がより具体的に示されている点です。

実行計画では、スタートアップ育成の視点について「規模拡大を重視する視点から、新規創業を重視する視点への転換を図り、新たな付加価値の創造を行う(中略)スタートアップの育成は、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を

解決する鍵である」、と述べられていました。

今回の育成計画でも、「スタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換して、持続可能な経済社会を実現する、まさに「新しい資本主義」の考え方を体現するものである」と上記の課題意識を引き継ぎ発展させる一方、、グローバル市場に挑戦するスタートアップを見据えるという新たな視点が示されています。

  • スタートアップ・エコシステムの創出にあたっては、ガラパゴス的思考に陥ることなく、グローバル市場に果敢に挑戦するスタートアップを生み出していくという視点を持つこととする。(1ページ)

実際の施策を見ても、スタートアップの海外進出に言及した箇所が複数見られます。

2つ目は、育成計画で目標が具体的に示されたされたことです。6月の実行計画の段階では、目標について言及はありませんでしたが

今回の育成計画では、下記の通り目標を定めています。

  • 目標については、創業の「数」(開業数)のみではなく、創業したスタートアップの成長すなわち「規模の拡大」にも、同時に着目することが重要である。そこで、創業の絶対数と、創業したスタートアップの規模の拡大を包含する指標として、スタートアップへの投資額に着目する。
  • この投資額は、過去5年間で 2.3 倍増(3,600 億円(2017 年)→8,200 億円(2021 年))であり、現在、8,000 億円規模 1であるが、本5か年計画の実施により、5年後の 2027 年度に 10 倍を超える規模(10 兆円規模)とすることを大きな目標に掲げて、官民一体で取組を進めていくこととする。
  • さらに、将来においては、ユニコーンを 100 社創出し、スタートアップを10 万社創出することにより、我が国がアジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップの集積地になることを目指す。

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育成計画ではスタートアップの投資額に着目して目標を設定しており、国内問わず海外の投資家やベンチャーキャピタルも呼び込むための環境整備も施策に含まれています。

3つ目は、課題設定とそれに対する施策が整理された点です。6月の実行計画の段階では、育成計画に取り込む項目を14個挙げていましたが、項目毎の関係性やそれらを束ねる概念については特に述べられていませんでした。

今回の育成計画では、「3.パッケージの方向性」にある通り、人材育成の必要性、有望なスタートアップ企業への支援の重要性、オープンイノベーションを推進するための環境整備等、課題設定がまずなされています。

その課題設定を受けて、大きな3本柱を定めており、実行計画に挙げられていた項目や議論の過程で追加された事項は3本柱に位置づけて趣旨や方向性がより具体的に示されました。

このスタートアップ育成5か年計画においては、以下の大きな3本柱の取組を一体として推進していくこととする。

① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築

② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

③ オープンイノベーションの推進

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政府が提示した施策について、いつまでになにをしようとしているのかについては、ガントチャート形式の詳細なロードマップが示されています。

スタートアップ育成5か年計画ロードマップ

 

政府が重視する「人への投資」とスタートアップ育成との関係

6月に閣議決定された実行計画では、「新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」の冒頭に「人への投資」を掲げ、重要課題と位置付けていました。今回の育成計画でも、「スタートアップへの円滑な労働移動」という文脈で以下のとおり「人への投資」に言及しています。

6.第三の柱:オープンイノベーションの推進

(4)スタートアップへの円滑な労働移動(一部抜粋)

  • 労働者にスタートアップへの労働移動の機会を与えるためにも、企業間・産業間の失業なき労働移動の円滑化、リスキリング(成長分野に移動する学び直し)のための人への投資、これらを背景にした構造的賃金引上げ、の3つの課題の同時解決を目指し、「労働移動円滑化のための指針」を 2023年6月までに取りまとめる。
  • 取りまとめにあたっては、スタートアップへの人材移動も十分念頭において検討を進める。

スタートアップ含む企業間・産業間の労働移動が「人への投資」の要素の一つであることが読み取れます。

 

まとめ

今回決定された「スタートアップ育成5か年計画」から読み取れる、政府の方針や実行計画と比較することで見える新たな動きについてご紹介しました。

merpoliでは、引き続き、注目の政策についてお伝えしていきたいと思います。