体験記と政策企画への一省察〜merpoliライターとしての1年を振り返って〜

merpoliのライターとして約一年間、メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」に多くの記事を投稿いただいた丸山翔大さんに、一年間を振り返って政策企画とはどういった仕事をしているのかやmerpoliでのライター経験を語ってもらいました。

大学院生が外部から関わった立場からのご意見は、内部で働いていると気づかない示唆もあり、いただいた原文をなるべく活かして記事化しています。

このため、メルカリグループや政策企画チームとしての意見を代表するものではないことにご注意ください。

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2023年度、メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」にライターとして参加しました丸山翔大です。1年間、merpoliライターとして月に1、2本程度記事の執筆を行ってきました。また、その過程で記事作成のために必要なインタビューはもちろん、社内外のイベントにも参加させていただき政策企画チームのみなさんだけでなく他のチームの方々とも交流の機会をいただきました。今回の体験記は、私の1年間の集大成として、主に私と同年代の学生に対して「民間企業の政策企画で働くとはどういうことか」を知る一助になるようにとの思いで書こうと思います。

 

はじめに

これまでの先輩方の体験記はこちら 

政策企画チームとは「社会と企業を繋ぐ」ものであると先代が端的に書いています。この体験を終えた今、私自身、この表現は非常に的を射たものであると思いますが、一般に政策企画と聞いて多くの人が思いつくのは次のような考えではないでしょうか。

所詮は営利企業なのだから、政府に対して自分たちに都合のいいように法律の改正を働きかけたりする仕事だろう

腹の中がどうかはさておき、政府に対して既存の法律改正を働きかけることはもちろんあります。しかし、政策企画のする仕事・求められる仕事はそれだけではないことは強調しておきたいと思います。

 

政策は省庁の中だけで作られるのではない

法案は国会に提出されて、可決されれば成立します。その過程に民間企業が入る余地はないように思います。しかし、法案が国会に提出される前の段階で民間企業が果たす役割は非常に大きいと思っています。各省庁は法案作成に際して、実際に各業界のアクター(企業等)の意見を聞こうとしますし、最初にできた法案のドラフトが必ずしも最良のものであるとは限りません。ヒアリングや審議会などの場を通じて民間企業は意見や代案を示します。民間企業は実際にビジネスをする中で既存の法制度の欠陥を理解していますし、消費者からのニーズにも敏感です。その時に企業側で窓口となるのが政策企画チームです。そのためか、メルカリの政策企画チームには、民間企業出身者に加えて元自治体職員や元議員・議員秘書、元官僚なども在籍しています。民間企業の中に政府や自治体のことをよくわかっている人がいるわけです。将来的にパブリック・アフェアーズ(以下、PA)に関わりたい人にはキャリアパスとして参考になるかもしれません。

アメリカでは、日本に比べてPAが非常に活発です。あるアメリカの大企業のPublic Policyチームの採用情報欄は以下のように始まっています。

      The Public Policy team is truly “making history.” 

Public Policyチームはまさに、「歴史を作っている」のだ、と。以下ではこうしたPublic Policyチームついてさらに深掘りすると同時に、日本での政策企画チームのあり方を考えたいと思います。

 

職業としてのメルポリライター

すでに記事として出ていますが、2024年度のライター募集のmerpoli記事の冒頭は以下のように始まっています。

政策企画チームは主に政府や自治体などのパブリック・セクターや業界団体との渉外を担当します。メルカリについて言えば、各省庁のヒアリングへの参加(主にスタートアップ政策やリコマース関連の政策) や自治体等の「メルカリShops」開設支援、全国各地の高校への出張授業、「メルカリ寄付」、実務家へのインタビューなどです。この他にもメルカリ社内の方にインタビューをしたり(循環型社会インパクトレポート)、政策解説社内イベント開催報告などの記事もmerpoli記事の対象です。

一見記事の内容に大きなばらつきがあるように見えるかもしれません。しかし、merpoliは​​2018年の開設当初からその目的を「メルカリグループの政策企画に係る活動をより効果的に行っていくために、政治・行政・有識者や関連の同業他社にメルカリグループの政策企画の活動を認知してもらうとともに、社内外の政策企画業界の情報発信を行うこと」としています。

このことからもわかる通り、merpoli記事の対象はメルカリの対外的な公益的活動の全てであると同時に社内の公益的活動も含まれます。

 

日本のパブリック・アフェアーズを考える

日本では、名称を「政策企画チーム」としているかどうかは別として、いわゆるパブリック・ポリシーチーム(以下、PPチーム)で大きな存在感を持っているのは元官僚や元自治体職員などです。彼らは政府や自治体の行動様式を知っていることからPAにおいて大きなアドバンテージを持っており、企業にあって政府や自治体の窓口に最適と言えます。ただ、元官僚や元自治体職員だけがPAの担い手であると考えることは政府と企業の双方にとって不幸な結末をもたらします。PAをするにはキャリアの主にファーストステップで官僚等を経験しなければならないからです。最近は省庁などでも中途採用の門戸が広がり始めていますが、それはあくまで職員として省庁に長期間勤務することが前提になっていることからすると、官僚等の経験がある民間企業の人材は限られてきます。また、企業にあって政府や自治体の窓口はいるとしても、政府や自治体にあって企業の行動様式を知った人材、政府側の窓口たりうる人材はどれだけいるでしょうか。省庁等では限られた民間企業への出向をのぞいて、職員が企業の内実を知る機会はあまり多くないように思います。

今後、PAの活性化を考えれば、政府等と企業の行き来をより活発化することは検討に値すると思います。メルカリはすでに経産省や岐阜市の職員の出向受け入れ経験がありますが、単なる出向にとどまらず、文字通り官と民のキャリア的な意味での行き来はより活発になって然るべきです。また、現在のPPチームは中途採用でジョインした人々が大多数で、新卒や比較的若い年代の人材は多くありません。PPチームでの活躍はその性質上各人が持っている経歴や人脈に大きく左右されています。今後、新卒で入社し、PAに関わりたいと望む学生に対してその道を開いていくことも課題として考えられるのではないでしょうか。

 

merpoliライターに興味を持つ人へ

記事の途中に、merpoli記事の対象としていくつか具体的な記事を挙げました。実はこれは全て私が書いた記事の一部です。内容を指定された場合もありましたが、自分が書きたいと望み、許可がおりたことで記事化できたものもあります。この他にも社会情勢にもよりますが、例年は政治家へのインタビューなどもライターとして経験することができます。経験できる事柄は非常に幅広いと思いますし、このような経験をする機会はそう簡単にはありません。また、実際のインタビューやオフサイト・イベントでメルカリ本社や各地に実際に足を運ぶことはありましたが、毎週の編集会議や記事の執筆・校閲作業はオンラインで行うため、時間や場所の融通が効き学生でも参加しやすいと思います。ただ、編集部の一員としてmerpoliに記事を執筆することから、それ相応のことは求められます。政策企画分野への興味・関心をもち、粘り強く記事を執筆する気概が必要だということは付言しておきたいと思います。

 

ライターを終えて今思うこと

企業はビジネスを行っていく上で必然的に「政治」を意識しなければなりません。大企業はもちろんですが、メルカリのようなスタートアップであれば、事業活動に法律や制度が追いついていないことはよくあるため、なおさらです。官と民が相互に助け合いつつ政策は立案され、この社会は成り立っている。規制したい政府と自由に事業活動をしたい企業という二項対立では描ききれない側面があることを再確認する必要があります。私たちは、えてして政府が私たちと同じような普通の人々によって運営されていることを忘れがちです。政府の人々が企業の行動様式を含めあらゆることに精通しているはずだと考えるのはナイーブです。月並みな言い方ですが、時代が複雑化する中で、官と民の双方が互いに知恵をふり絞り、より良い社会を構築していく必要性はますます高まっています。少なくともメルカリでは、来るべきこのような社会に対する準備が整いつつあるとの印象を持ちました。

丸山 翔大